壮大な景色の裏にある文化と政治、そして誇りの話(フェロー諸島・旅行記⑦)
壮大な景色に圧倒されながらも、今回の旅で一番心に残ったのは、フェロー独自の文化と誇り高きフェローの人々のストーリーだ。
・独自の文化
18の島からなるフェロー諸島。人口は5万人ほどだ。フェロー人は、9世紀に定住したヴァイキングの子孫とされ、古ノルド語を起源とするフェロー語を話し、独自の文化を築いてきた。
文化といえば、フェロー諸島の捕鯨も、「伝統文化」の一つだ。
当然、反捕鯨団体からは批判・攻撃を受けているが、地元住民が自主的に参加する形で毎年実施されている。彼らがいうには、孤島に暮らす上で、昔から生きるために必要な習慣であり、文化でもあるとのこと。クジラの肉は島民に無償で分配されるそうだ。
ツアーガイドのエルサも、捕鯨の説明を私たちにするときは、言葉を選びながら慎重に話をしていた。ツアー参加者の中には当然、捕鯨に対して否定的な人もいるからだ。
それでも、クジラの燻製を味見してみなさい、とツアー参加者に配られた。私は、ただベジタリアンという理由で、食べなかったけど、試食した人はビーフジャーキーの味とはやはり違うね、と言っていた。

・フェロー人の誇りと複雑な感情
フェロー諸島はデンマーク領だから、私は、休暇を取る際、周りに「デンマークの島に行ってきます!」という感じだったが、実際行ってみると、フェロー人はデンマークに対し複雑な感情を抱いているということに気付いた。

ガイドのエルサは、もしスポーツの国際試合で、チームを応援するとしたら、一番は自国のフェロー、次がアイスランド、そしてグリーンランド、最後にデンマークだ、と言っていた。
そして自分の娘が、実際にデンマーク人と結婚することになった時も、「なんで、よりによってデンマーク人なの!」と思ったそうだ。「まあ、フェロー語話せるから許すけど」、というオチをつけていたけど。
フェロー語はデンマーク語と全く異なるため、フェロー語を話すデンマーク人は少ないらしい。フェロー語は、むしろアイスランド語に近いとのことだ。
歴史的にみて、フェロー諸島は、他国から支配され続けた。
ここでは中世まで遡らないが、第二次世界大戦後の1948年に、フェローでも独立住民投票が行われ、僅差で「(デンマークから)独立する」への支持が多数となった。にもかかわらず、デンマークから独立は認められず、妥協案として独自の議会と政府は持てる自治領となった。
フェローの独立機運はずっと高いままのようだ。
そうした独立への機運は、ツアーガイドの言葉からも感じ取れた。
2つ目のツアーのガイドだった男性も、フェロー愛が強く、冬はデンマークのコペンハーゲンで暮らしているけど、デンマーク人は「常に上から目線だ」、とネガティブな感情を示していた。
面白いことに、アイスランドに対しては尊敬の念、グリーンランドに対しては同情心を持っているようだ。
アイスランドも、元々はフェロー諸島と同じくデンマークに支配されていたものの、後にアイスランド王国、その後アイスランド共和国と完全な独立国家となった。実現に至ったその独立精神は”尊敬に値する”とのことだ。
そしてグリーンランド。ご存じの通り、アメリカのトランプ大統領が、"グリーンランドを購入できないか”と発言したことで注目されているデンマークの自治領だ。フェロー人も、グリーンランドに対しては同情心だったり、仲間意識があるらしい。
・独立をめぐる現実と未来への希望
フェロー諸島が独立できるかどうかは、未知数だ。
独立したくても、まだデンマーク政府からの補助金に支えられているという現実がある。医療体制も不十分で、重症患者は今もヘリでデンマーク本土へ搬送される。
一方で、希望もある。フェロー諸島の経済はサーモンの養殖など漁業が中心だけど、近年では観光業にも力を入れているらしい。空港も拡大しているとのこと。

そして、海洋産業、IT産業、石油開発などの発展次第で、独立への道も開かれるかもしれない。
独立できるかどうかはさておき、言語、文化、人々、とフェロー諸島が独自の世界を持っていることは間違いない。そして、この島で出会った人々の誇りと優しさが、何よりも強く、心に残っている。
※サムネはWikipediaから
https://x.com/ATF_TOKYO
