熱意とは、温度ではなく接続の持続である。
熱意がある人、と聞くと、明るく前向きで、勢いがあり、周囲を巻き込む人を思い浮かべやすい。
でも、本当にそうだろうか。
声が大きい。
反応が速い。
やる気がありそうに見える。
前向きな言葉をよく使う。
それは、熱意の一部かもしれない。
けれど、それだけでは熱意とは言えない。
むしろ、熱意はもっと静かなものではないか。
誰にも見られていない時にも、考え続けてしまう。
うまくいかなくても、なぜか戻ってきてしまう。
すぐに成果が出なくても、対象から目を離せない。
一度離れても、またその問いの前に立ってしまう。
熱意とは、燃え上がることではない。
対象との接続が切れないことである。
今回扱う研究
熱意を考える時、似た言葉がいくつも出てくる。
情熱。
やる気。
意欲。
没頭。
粘り強さ。
エンゲージメント。
内発的動機づけ。
どれも近い。
ただし、少しずつ違う。
今回の記事では、熱意を「高いテンション」ではなく、対象との関係性が持続する状態として考える。
1. 調和的情熱と強迫的情熱
内容: Vallerandらは、情熱を、人が価値を感じ、好きで、時間とエネルギーを投じ、自己の一部になっている活動への強い傾きとして定義した。そのうえで、活動と自分の関係が自律的で柔軟な調和的情熱と、活動に支配されやすい強迫的情熱を区別した。
著者: Robert J. Vallerand、Céline Blanchard、Geneviève A. Mageau、Richard Koestner、Catherine Ratelleほか。
掲載誌: Journal of Personality and Social Psychology、2003年。
今回の記事での読み方: 熱意には、本人を広げる熱意と、本人を縛る熱意がある。熱心であること自体は善ではない。何に、どのように接続しているかが問われる。
2. ワーク・エンゲージメント
内容: Schaufeliらは、ワーク・エンゲージメントを、活力、熱意、没頭からなる仕事に対する肯定的で充実した心理状態として整理した。これは単なる満足や組織コミットメントとは異なり、仕事に向かうエネルギーと関与の状態を表す。
著者: Wilmar B. Schaufeli、Arnold B. Bakker、Marisa Salanovaほか。
掲載誌: Educational and Psychological Measurement、2006年。
今回の記事での読み方: 熱意は、感情の高ぶりではなく、仕事に向かう活力、意味づけ、没頭の組み合わせとして見た方がよい。
3. Grit
内容: Duckworthらは、長期目標に対する情熱と粘り強さをgritとして概念化した。才能や瞬間的な意欲だけではなく、長期にわたって努力を継続する力が成果に関わると論じた。
著者: Angela L. Duckworth、Christopher Peterson、Michael D. Matthews、Dennis R. Kelly。
掲載誌: Journal of Personality and Social Psychology、2007年。
今回の記事での読み方: 熱意は、一瞬の熱量ではなく、時間の中で試される。すぐ燃える人より、戻ってこられる人の方が、熱意を持っている場合がある。
4. 自己決定理論
内容: RyanとDeciは、人の動機づけを、外からコントロールされるものから、自律的に選び取られるものまで連続体として捉えた。自律性、有能感、関係性の三つの心理的欲求が満たされる時、人はより主体的に行動しやすくなる。
著者: Richard M. Ryan、Edward L. Deci。
掲載誌: American Psychologist、2000年。
今回の記事での読み方: 熱意は、命令や報酬だけで作れない。自分で選んでいる感覚、できるようになっている感覚、誰かや何かとつながっている感覚が、熱意の土台になる。
熱意は、テンションではない
職場では、熱意がよく誤解される。
前向きな人。
よく発言する人。
反応が速い人。
残業を惜しまない人。
会社の方針にすぐ乗る人。
こういう人は、熱意があるように見えやすい。
たしかに、熱意の表れとしてそう見えることはある。
しかし、熱意とテンションは違う。
テンションは、上がる。
熱意は、戻ってくる。
テンションは、その場の空気に反応する。
熱意は、対象との関係に戻る。
テンションは、褒められると強くなり、飽きると落ちる。
熱意は、褒められなくても、なぜか考え続けてしまう。
ここを混同すると、人事も管理職も見誤る。
熱意のある人を、声の大きい人だと思ってしまう。
本当は静かに燃えている人を、意欲が低いと見てしまう。
逆に、勢いだけで動いている人を、熱意があると評価してしまう。
熱意は、見た目の温度では測れない。
見るべきは、接続の持続である。
熱意とは、対象に戻り続ける力である
熱意がある人は、対象に戻ってくる。
仕事。
問い。
技術。
顧客。
組織。
人。
テーマ。
まだ見えていない可能性。
一度離れても、戻ってくる。
うまくいかなくても、戻ってくる。
誰にも頼まれていなくても、戻ってくる。
この「戻ってくる」という動きが、熱意の中心にある。
熱意は、前に進む力だけではない。
戻る力でもある。
飽きた。
疲れた。
否定された。
成果が出なかった。
思ったより難しかった。
それでも、もう一度見る。
もう一度考える。
もう一度試す。
もう一度、対象との関係を結び直す。
ここに熱意がある。
熱意とは、対象に対する未完了感でもある。
まだ分かっていない。
まだ届いていない。
まだ言葉になっていない。
まだ形にできていない。
だから戻る。
熱意は、完成した確信ではなく、未完了な問いとの関係である。
熱意には、危険な形もある
熱意は美しい。
しかし、熱意は危ない。
なぜなら、熱意は人を動かすからである。
動かすだけでなく、止まれなくすることがある。
熱意が強迫になる時、人は対象を選んでいるのではなく、対象に支配されている。
やめたら自分ではなくなる。
成果を出さなければ価値がない。
期待に応え続けなければならない。
休むことが裏切りに感じる。
負けることが、自分の存在否定に感じる。
この状態は、熱意に見える。
でも、本人を広げていない。
むしろ、本人を狭くしている。
人事が見なければならないのは、熱意の量ではない。
熱意の質である。
その熱意は、本人の選択肢を広げているか。
それとも、本人を一つの成果、一つの役割、一つの期待に閉じ込めているか。
熱意は、人を強くすることもある。
人を壊すこともある。
だから、熱意を称賛するだけでは足りない。
熱意が何に接続されているかを見る必要がある。

熱意が消える時、人は怠けているのではない
熱意が消えたように見える人がいる。
発言が減る。
提案しなくなる。
新しい仕事に乗らなくなる。
最低限のことしかしなくなる。
この時、周囲は言いやすい。
やる気がない。
熱意がない。
昔はもっと頑張っていた。
最近、主体性が落ちた。
でも、本当に熱意がなくなったのだろうか。
もしかすると、熱意そのものが消えたのではない。
接続先が失われたのかもしれない。
頑張っても何も変わらない。
提案しても聞かれない。
成果を出しても次の景色がない。
期待に応えても、ただ負荷が増える。
自分が大事にしていた意味が、組織の中で扱われない。
この状態で、熱意だけを求めるのは酷である。
熱意は、本人の中だけにある燃料ではない。
熱意は、対象との関係の中にある。
だから、熱意が落ちた時に見るべきなのは、本人の気合いだけではない。
その人が、何との接続を失ったのか。
ここを見る必要がある。
人事が見るべき熱意の三層
熱意を見る時、私は三つに分けたい。
一つ目は、対象への関心である。
何に目が向いているのか。
何について、自然に考えてしまうのか。
何を見た時に、少し声が変わるのか。
二つ目は、時間への投資である。
その人は、何に時間を使っているのか。
誰に言われなくても、何を調べ、何を試し、何を磨いているのか。
熱意は、言葉よりも時間配分に出る。
三つ目は、困難後の復帰である。
うまくいかなかったあと、戻ってくるか。
否定されたあと、問いを捨てるのか。
それとも、形を変えてもう一度向き合うのか。
熱意は、順調な時には見えにくい。
むしろ、失敗したあとに見える。
戻ってくる人には、熱意がある。
ただし、戻り方が苦しすぎるなら、支援がいる。
熱意は、放置してよい火ではない。
育て方を間違えると、本人を焼く。
熱意を育てるとは、火をつけることではない
人事や管理職は、よく熱意を引き出そうとする。
研修をする。
ビジョンを語る。
目標を与える。
評価制度を変える。
キャリア面談をする。
もちろん、それらは意味がある。
しかし、熱意は外から直接注入できない。
熱意を育てるとは、火をつけることではない。
燃え続けられる条件を整えることである。
自分で選んでいる感覚があること。
少しずつ上達している感覚があること。
誰かや何かとつながっている感覚があること。
努力が未来へ接続している感覚があること。
失敗しても、戻ってこられる余白があること。
これらがない場所で、熱意だけを求めても、人は疲れる。
熱意は、気合いではない。
関係である。
本人と対象。
本人と未来。
本人と組織。
本人と自分自身。
その関係が切れずに続く時、人は熱意を持ち続けられる。
熱意とは何か
熱意とは、温度ではない。
接続の持続である。
熱意とは、声の大きさではない。
戻ってくる力である。
熱意とは、前向きな言葉ではない。
未完了な問いを手放せないことである。
熱意とは、頑張り続けることでもない。
何に自分の時間と注意を預けるのかを、選び直し続けることである。
だから、熱意のない人を責める前に、問いたい。
その人は、何との接続を失ったのか。
その人は、何に戻ってきたかったのか。
その人の中で、まだ火種として残っているものは何か。
熱意は、叫ばないことがある。
静かに残る。
何度も戻る。
まだ終わっていない、と小さく言い続ける。
その声を聞けるかどうか。
人事の仕事は、そこにもある。
根拠・確認メモ
Vallerand, R. J., Blanchard, C., Mageau, G. A., Koestner, R., Ratelle, C. et al. “Les passions de l'âme: On obsessive and harmonious passion.” Journal of Personality and Social Psychology, 2003. https://doi.org/10.1037/0022-3514.85.4.756
Schaufeli, W. B., Bakker, A. B., & Salanova, M. “The measurement of work engagement with a short questionnaire: A cross-national study.” Educational and Psychological Measurement, 2006. https://doi.org/10.1177/0013164405282471
Duckworth, A. L., Peterson, C., Matthews, M. D., & Kelly, D. R. “Grit: Perseverance and passion for long-term goals.” Journal of Personality and Social Psychology, 2007. https://doi.org/10.1037/0022-3514.92.6.1087
Ryan, R. M., & Deci, E. L. “Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being.” American Psychologist, 2000. https://doi.org/10.1037/0003-066X.55.1.68
本稿では、熱意を「高いテンション」ではなく、対象、未来、組織、自分自身との接続が持続する状態として整理した。
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