①【臨床での振る舞い】ただ一つの目標しか立てない危うさ
【今回のテーマ】 新人・若手理学療法士に向けた、臨床におけるマインドセットと目標設定に関するテーマです。一つの目標しか建てない、という視点の危うさ
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【免責事項】 ※本記事は、臨床10年超の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。金融商品、物品についての記載があってもそれらの使用を推奨するというのはあくまで個人の見解であることを明記します。それによって生じたいかなる問題も責任を取りかねます。 ※個別の事例は考慮しておりませんので、実際の診断や治療方針については、必ず主治医や所属施設の専門医の指示に従ってください。 ※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。所属組織とは無関係な個人の見解です。
はじめに:その「頑張りましょう」に、悩んでませんか?
「歩けるようになりますか?」 「前のように、また一人で暮らせるでしょうか?」
リハビリ現場でよく聞かれる、切実な問い。臨床に出たての頃の私は、この言葉にどう答えるか悩んでいました。期待に応えたいとの思いもありながら、「一緒に頑張りましょう!」という言葉でその場を凌いだり、逆に教科書的な予後予測から厳しいだろうという答えをはぐらかしたりしていました。
私自身、もうすぐ3人目の子供を迎えるパパとして、「もし今、自分が倒れたら家族はどうなる?」と考える夜があります。人生は、気合や希望だけで乗り切れるほど甘くありません。だからこそ、私たちがすべきことは、希望を語ることでも、絶望を告げることでもありません。それは、どのような結果になっても患者さんの人生が破綻しないための「戦略」を立てることだと思うのです。
今回は、私が新人の頃に参加した石井慎一郎先生の勉強会で得た「目標設定」の考え方。これが一つの答えであり、私の核となってもいるので、共有していきます。
1.プランA:最大限の機能回復を目指す「攻めの目標」
プランAは、セラピストと患者さんが共に描く「理想のシナリオ」です。 脳の可塑性や身体のポテンシャルを最大限に引き出し、社会復帰や独歩獲得といった、リハビリの華やかな成果を目指します。これは私たちが目指すべき第一の道です。
しかし、プランA「だけ」に固執することは、大きなリスクを孕んでいます。もし目標が達成できなかった時、患者さんの人生そのものが「失敗」という烙印を押されてしまうからです。
2.プランB:人生の質を死守する「守りの戦略」
私がこの記事で最も伝えたいのが、この「プランB」の重要性です。 プランBとは、プランAが思うように進まなかった場合を想定した、「不全が残っても、豊かに暮らすための備え」です。
これは決して「諦め」ではありません。むしろ、最悪の事態を想定して先回りし、患者さんの生活や家族の精神的・経済的な崩壊を防ぐための、極めて高度な「リスク管理」なのです。
3.「切り替え」ではなく「同時進行」で忍ばせる
ここで重要なのは、プランBはプランAがダメだった後に渋々取り出すものではない、ということです。プランAを全力で追いかけながら、同時にプランBを「当たり前の日常」として生活に溶け込ませていく。この「同時進行」こそがプロの戦術です。
例えば、歩行自立を目指して訓練している患者さんに対し、あえて「リハ室までの移動は車椅子で行きましょう」と提案することがあります。それは「歩けないから」ではなく、「歩行練習に全ての体力を集中させるため」という理由かもしれません。
そうして「移動手段としての車椅子」をさりげなく体験し、慣れておくことで、患者さんは無意識のうちに「もし歩けなくても、こうやって動けばいいんだ」という安心感を積み上げていきます。
プランBの入り方は、患者さんの性格や環境、病態によって千差万別です。正解はありません。「今のこの方に、どうやってプランBを忍ばせるか」を考え抜くこと。その視点を持つこと自体が、セラピストの優しさであり、強さなのです。
4.まとめ:二つの地図を、同時に描く勇気を
教科書には「機能予後」の書き方は載っていても、「人生の予後」をどうデザインするかは載っていません。最初は、プランBを想定することに「冷たいのではないか」と罪悪感を覚えるかもしれません。
しかし、本当の誠実さとは、梯子が外れそうになった時に「でも、ここに着地できますよ」と手を差し伸べられる準備をしておくことです。明日、患者さんの前に立つとき、少しだけ自問してみてください。
「私は、プランAの影に、どんなプランBを忍ばせられるだろうか?」
その問いを自分に投げかけ続けることが、あなたを「技術者」から、一人の「人生の伴走者」へと変えてくれるはずです。
【最後に】 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 患者さんの人生を預かるセラピストとして、常に二つの地図を持ち、安全な着地点を用意しておくことの重要性が伝われば嬉しいです。
※医療小説:列の途中、第一話、最初の患者でも詳しく物語にして描いています。よろしければこちらもどうぞ
次回は、臨床現場での「接遇と言葉選び」をテーマに深掘りします。
次回記事はこちら:「②【臨床での振る舞い】不要なトラブルを避ける「初回の関わり方」
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