創作『あさってイエロー、まっさかピンク』第13話・「まっさかの」⑥

(前回までのあらすじ)
幸手市で行われる「ユースさって市長選挙」の「立候補者・応援人演説会」が、市内の施設アスカル幸手で行われた。会後、「交流会・質問会」が催され、岩永灯多(第12話までの語り手)ら多くの聴衆が参加。
開始後しばらくして、スペシャルゲストとして会場にさっちゃん(幸手市マスコットキャラクター)が来場。さっちゃんは設定上しゃべれないため、隣の西秘書係長が代わりに話しはじめた。

いい写真が撮れると、橘真弓はほんとうに気分がいい。
私が向けるレンズに向けて、その人がどれだけ「開いて」くれているか。
それは、対象との過去からの積み上げ、良好な関係性やコミュニケーションの成果物。
(まさにそれにに他ならない)、
そう彼女は信じている。
(この写真の、西係長さんだってそうだよな。
こんな表情を向けてくれるのは、私の人徳……というか、この私に心を許してくれているからであって)、

真弓は⸻中学では落ち込んだりもしたけど⸻基本はスーパーポジティブな人だ。
そして、この「ユースさって市長選」でやりきること……、
(これについていき倒すし、学びを深め尽くすし、起こることすべて楽しみまくる!)
彼女の内側からそんな波動が、こんこんと湧き出している。
*
10分ほど時間を遡る。
さっちゃんと並んだ西係長が、
「ミッションは、ザン!」、
と言ってから手元のメモを読み上げた。
「『質問タイム』〜。
はいっ、ということでですね、いまこの時も個別に、3人それぞれのところにはお話しされている方もいらっしゃいますけれど、会場の皆様には自分を『記者会見の時の、記者』
だと思ってくただいてですね、3人同時にこれは質問してみたいなと言うことを、挙手くだされば私がマイク持って走りますんで、どしどしと聞いてくださればね。
どんなことでも、ここは学校じゃないので、あまり気にしすぎず……、あ、この会場にいる人たちのことって、もう説明されました?」、
そこで西係長は司会女性に水をむけ、素早くマイクを渡しに行くと、
「や、特には」。
そこでマイクを引き取って再び話しはじめて、
「この会場の中に、学校の先生は、いませーん!」、
ここで、隅の方からウォーという歓声が巻き起こる。
あ、一色士陽の周りの連中だわ、と真弓はわかる。
「幸の手高校の先生方も、市内各小中学校の先生方も、県や市の教育委員会の方々もいらっしゃいません。
頑張りました、ここ、こだわりました!」、
言いながら、西係長はマイクを一瞬股に挟み、瞬時に考え直したのか床に置き直して、両手を肩の高さに上げ、手のひら上向きで、広い会場内を広く見回しつつ、左右の指をくいくい素早く動かしはじめた。
みんなが釣られて拍手した。
(いいねいいねー、ノってきたねー)、
真弓もその気持ちに連動するようにカメラを構え、西係長のその姿を収めた。
少しして、床のマイクを持ち直した係長が、
「ここには基本、児童生徒の皆さんっていうのかな、小学校の高学年から、上もはたちそこそこ、そういう皆さんしかいません。
このユース幸手市長選挙の選挙権を『小学5年生以上から、22歳まで』にしていますので、それに併せてそうなっています。
……あ、中には、保育園の先生や、なりたての小学校の先生もいますけれど、『個人として参加』していただいていますのでご安心を。
ちなみに小学校の先生のほうは、今回運営してくれている『ユースオブさっての集まり』のメンバーで、幸手じゃない……えーと?」、
狭山でーす、と男性の声が届いた。
「はい、なので、幸手ではないので。
小学生の皆さんも、どうぞご安心を」、ここで高めの声での笑いが起こる。小学生の子たちも、真弓のつかみで10人程は来ている感じだ。
「学校で、空気読んだり察したり、それぞれ、あると思うんです。皆さん、それぞれで。
でも、ここでは、訊きたい人が訊きたいように、訊けば良くって。
空気。そんなもん、読んで言うとか、そういう場ではないですからね。
市の未来と、あなた自身の未来が、リンクする可能性が少しでもあるならば。
大人になっても幸手に住んでいて、あるいは、別のところに行ったとしても、いつか戻ってくるつもりがあるならば。
市の未来は、あなたと、あなたの大切な人との、未来って言えますから」。
(後で、インタビュー行きたい人たちばっかりだなぁ)、
と真弓は思う。
例えば西係長だったら、
⸻どうやって教育関係者をシャットアウトできたのか、きっと抵抗もあっただろうに強くこだわった理由とは。
小学生の子たちだったら、
⸻学校の先生に言われて(例えば「探究の授業の一環で」)ここに来ているのか、自分から興味を持ってアクションを起こしたのか。
今日は塾や習い事はないのか。
帰りは自転車で帰るのか、アスカルまで親が迎えに来るのか。
などなどだ。
(やっばー、やっぱ、めっちゃ楽しい!)、
真弓は思う。
この「ユースさって市長選」の関連で起こることすべて、彼女にとっては学びとワクワクとがマックス、満ちている。
「こうなるといいな」と、ずっと夢想していたことがとうとう現実になっていて、その場と時間の中にいる。
(やったるぞぅ)、
真弓は思う。
(第14話に続く)
この小説はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係がありません。
いいなと思ったら応援しよう!
スキとフォローくだされば(気に入ってくださるなら、でね)十分なのであります!
いつか有料記事に挑戦しますので、その時までチップ取っといてください笑