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創作『あさってイエロー、まっさかピンク』第5話・はなぞの館はなぞの館④

(前回まで)
小学5年生の岩永灯多いわながとうたは、はなぞの館の前で綺麗な人に会い、彼女の導きで館へ歩いていく。館の室内を覗き、普段から知る友達(アキト)ら子どもたちを見つけ、上がらせてもらおうと玄関から中に呼びかけた。


「こんにちは」、
廊下の奥から玄関に現れた女性は、小柄で、痩せている。
第一印象は、率直に言ってSOCCHOKUNIITTE「おばあちゃん」。
でも、「年齢不詳」と言っていい。
例えば、僕の神奈川のおばあちゃんとどっちが歳上だろう、と考えても、よくわからない。同じぐらいにも見えるし、ずっと下にも見える。

髪の毛は短めで、明るい茶色。
瞳は、灰色がかって見えた。
(後日改めて観察した時、青灰色ブルーグレイだと認識した。)
チュニックというのだろうか、その日は丈の長い服を着ていた。

めちゃめちゃ姿勢がよくて、歩いてきた動きもかろやかだ。
べたっとした感じがぜんぜんない。
けど、透徹な、近寄りがたさもない。

こんにちは、と言った口調、それに表情。
受け入れられているのだと、感じさせてくれた。

「こんにちは。えっと、僕、前にこの辺で、ここに遊びにくるといい、って勧められたんです……」

「そうなのね。歓迎します」、
誰に、とかぜんぜん訊かず、その人は自然な感じの笑みを浮かべた。

「靴を脱いで、そこに入れてね」、
僕の横の棚を示してそう言い、「スリッパに履き替えてくれてもいいし、靴下のままでもいいですし」。
「はい、じゃ、お邪魔します……」、
深緑のチェック柄のスリッパを借りることにし、足を通して僕は
(へえ〜っ)
と思った。
サイズが、すごくちょうどいい。
小学校高学年にちょうどいいスリッパなんて、そんなの地球上に存在しないものだと思っていた。
大人用を履くと、まだ、ちょいぶか●●●●で、パタパタする。
小児用は、もう、小さすぎるから選べない。
だが、小5の足のサイズにジャストなスリッパが、ここにはあった。
その後の日々、中学1年ぐらいまで、どこか訪れた先では妙に意識してスリッパの大きさを気にしてしまう僕だった、けれど、他の中学や病院やその他の場所、やはり、そんなスリッパを置いている場所はなかった。
あの、はなぞの館●●●●●●●●以外には、どこにも。



廊下を歩く。
玄関から、左へ。
さっき、アキトたちがいた部屋の方向。

女性が少し前を行く。
窓と、時折白い壁と、黒い木の柱、はり、そこにあるのはそれだけ。
いかにもザ・日本家屋的ではなくて、ではザ・洋館な感じかというと違う。
古すぎも、新しすぎもしない。
窓からは外の光が入る。
暗くなってからは、上の真ん中に配置された蛍光灯がつく。
暗すぎも、明るすぎもしない。
普通のお家の廊下とは、違っている。
広いし、ゆったりしている。
でも学校の廊下や、病院の通路とは違う。
「どこかへ向かって通り抜けている、どこでもない場所」という感じ。
ただぜんぜんごちゃごちゃとしていない、というか物が置かれていない。
棚だとか、そういうのが一切ない。

窓の外には、庭と木々、花たち。
自然と、外を見ながら、廊下を歩いていた。
(ちょっと、なんだろう……、ゲームの中の世界って、きっとこういうっぽいのかも……。)、
と僕は思った。
足元の床は、すこし、うわんうわん●●●●●●、揺れた。
ショッピングモールの空中通路みたく全部が勝手に揺れている不快なあの感じとは違って、自分達の体重が乗るから揺れる、心と体が腑に落ちるそういう揺れだった。

それが最初の日、最初に廊下を歩いた時の印象。
その後何度となく、はなぞの館に行っているはずだけど、いつも変わらずこういう感じで、中を移動していた気がする。



前を行く「おばあちゃん」が、
「わたしは、はづき、といいます。
『はづきさん』とか、『はづきばあば』って呼ばれてるかな。
あなたは」
と僕に尋ねた。
「いわながとうたです」
「そう。よろしくね」
「あ、はい」
あまり考えることなく、そんなやりとりをした気がする。



その時向かった部屋、その後、はなぞの館で一番長い時間過ごすことになる部屋は、広々していた。

2つの部屋、キッチンとリビングルームの仕切りを取っ払ってTOPPARATTE、つなげている感じだったが、普通の一軒家やマンションでそれをやるのと、ぜんぜん違った広さだった。

入り口の手前側がキッチンスペースで、テーブルがあった。
奥の、広い方は、畳敷きで、隅に座布団が積んであった。
室内は、ほんのりHONNORI暖かかった。
テーブルに、アキトたち3人が腰掛けてウノをやっていたが、僕が入ってくるのに気づくとアキトが変なでかい声で
「ヤッフィー!トータァ」
と、マリオカートのマリオ風に叫んだ。
僕は3人を見て、
(あ、みんな、マスクしてない)
とすぐに思った。
サッカーの時でさえマスク姿なアキト⸻僕もだし、チーム皆そうだった⸻の顔にも、それがない。
当時は、2020年の秋。
その年、春前後には全国一斉の臨時休校があった。
コロナ禍の真っ只中MATTADANAKAにある時期だった。

「新しく誰か来たら……」、
すみれさんが、テーブルの3人に呼びかける。
「あ、自己紹介だ」、肌が褐色の子が言って、
「私、じょです。徐凛果りんか花堤小はなつーの6年、えーと私だけ6年」。
隣の、髪がライトブラウンの子が、
「ワタシ、ヤトヨシコゲブリエィラ、カノジョノオナジ、ハナツーデシテ、5ネンセイ。デスガ、ホントウネンレイ、ジューニデス。キョネンキタ、ニッポン」
向かいにいたアキトが
「俺は……いいよな、省略で」、と僕に言うので、
「ま」、と僕が返した、するとはづきさんが
「自己紹介は、自分が何者なのかを自分へと●●●●語りかける訓練。はい、やろう」、
と促した。
「へーい。あー、吾田暁斗あがたあきと好日こうじつ小5年。このォ」と僕を示して、「岩永さん、トータってんだけど、サッカーで仲良いです」
「サッカー?」、ヤトさんの顔がぱっと輝く。
「ヨッシー、ガチ経験者」、ヤトさんを示しつつアキトが言った、「リフティング超やば!」
「ねー自己紹介終わってないから」、アキトを諌めつつ、徐さんは僕の方を見る。
「あ、はい。えーと……アキトからご紹介にあずかりました、岩永灯多です。好日小5年生です。サッカーと塾がない日は、ぶらぶらするのが好きです。川にいた時、ワイルドなおじさんにここを教えてもらって、来ました」
「ワイルド……将門まさかどさんだねそれ」、徐さんが言った。
「プシュカドーゥ」、ヤトさんが言ってから、「ツルノ、ヒトデス」と、釣り竿を上げるジェスチャーをしつつ付け加えた。
「で、ウノやんね?」、アキトが言って、右横の椅子を引いて、座りなと示した。それで僕はそこに座った。
柔和な笑みと共に、はづきさんはコンロの方に歩いて行った。
香ばしくも甘い匂いが、ほんのりと部屋の空気に混ざっているのに気づく。
鍋で何か作っているようだ。
お腹が空いている自分に気づく。



「はい、じゃあ、途中でもいったんカードを片付けて」、
はづきさんがキッチンから言うと、一番そういうのやらなそうなアキトがさっさか●●●●とカードを箱に仕舞いはじめた。

それぞれの座る前に、はづきさんが一人用のテーブルクロスとフォークをセットしてくれる。
徐さん、ヤトさん、アキト、僕。
そして、れいさん●●●●●●●●
いつのまにか、彼女が僕の横に座っている。
はづきさんが、5人の子たち●●●●●●、そして自分用に、りんごのコンポートにホイップクリームを添えたものの、小皿を並べる。

テーブルに、しゃんとした空気が流れる。
はづきさんが口を開いて、
「では、それぞれの、大事なものに、祈りましょう。祈った人から、いただきますでね」
それは主に僕用の説明である様子だった。
一番そういうのやらなそうな左隣のアキトが、目を閉じ、手早く合掌して、
「いただきまっす」
と食べはじめて「うっまあ」と言った。

僕は、右隣を見た。
れいさんも、目を閉じて、何かに祈りを捧げている。
その時の僕には、特に祈る対象というのがなかったのだけれど、とりあえず目をつぶって、すると母親の顔が浮かんだ。
(これって、だいじょうぶなのかな……)
と、この国で小学生してれば当然行き当たる考えが、浮かんでいた。
でも本当は、そんなことより、隣のれいさんだった。

いつの間にテーブルへ……。
自己紹介ないけど……。

でも、なんとなく、それを聞くのはよしておいた。



食べ終わってアキトが、
「じゃ、俺、帰るけど、トータはどうすんの?」、と聞いたので
「あ、じゃあ、俺も」と応じた。
部屋の掛け時計は、18時前ぐらいを示していた。
「気をつけて」、すみれさんが言った。
「トータ、ほんと、ドジっ子アキトを頼むわ」、徐さんが言うと、ヤトさんが笑いだした。
「ドロダラケ、ココ、モドリマシタ!」
「やーめって、やーめって!」、アキトが慌てだした。
徐さんが補って言うには、アキトは夏頃、帰りに、自転車で田んぼの真ん中の道を蛇行して走っていて、うっかり田んぼに落ちたらしい。
「あのバカっぽい乗り方、ひとりでもやってんだ」、なんの気なしに僕が言うと、徐さんも笑いだした。
れいさんを目で探す。
でも、彼女の姿はなかった、部屋のどこにも。


まだ、残っているらしい徐さんとヤトさんに手を振り、はづきさんに食事のお礼を伝え、うわんうわん●●●●●●のあの廊下を通り抜けて、玄関から外に出た。

外は、すっかり暗かった。



はなぞの館の1日目は、そんなふうに終わった。

帰りながら、前を走るアキトと、絶対、はなぞの館について会話をしているはずだ。

そして、家に帰ったら、親にどうこの時間のことをどう伝えるべきか、悩んでもいたはずだ。
僕の性格上。
あるいは「なんでも話しなさい」といううちの教育方針上、それはまず間違いない。

でも、そのあたりのことが、どうにもよく思い出せないでいる。

よく思い出せないから自信はないのだけど、もしかすると、帰路の時点から、はなぞの館のことがぼやっと●●●●してきていた。
そんなふうだったようにも、なんとなく、思える。



(第6話に続く)

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この小説はフィクションです。
実在の人物・団体とは関係がありません。


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山本蛇内 yamamotojanai スキとフォローくだされば(気に入ってくださるなら、でね)十分なのであります! いつか有料記事に挑戦しますので、その時までチップ取っといてください笑