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21年ぶりのストックホルムへ

2026年6月、国際シミュレーション&ゲーミング学会(ISAGA2026)への参加のため、私は21年ぶりにストックホルムを訪問します。前回ストックホルムを訪れたのは2005年のことでした。当時、私は在外研究中で、ドイツ・ボーフム大学に滞在していました。

その滞在中、NPO法人環境文明21の加藤三郎さん、藤村コノヱさんらが企画された「企業における環境教育」に関する欧州調査に参加させていただく機会がありました。調査先はスウェーデンとベルギーで、私はドイツから単独でストックホルムへ向かい、日本から到着する調査メンバーと現地で合流しました。

この旅は、環境教育、企業の環境経営、持続可能性、そして社会変革について考える上で、私にとって大きな転機となりました。また、現在私が取り組んでいるゲーミング研究や経験デザイン、さらにはISAGAとの関わりを振り返る上でも、一つの重要な原点となっています。

本稿は、筆者が当時「ドイツ日記」としてホームページ上に記していた記事をもとに、ストックホルム滞在に関する内容を中心に再構成したものです。


ストックホルム行きを計画する

2005年5月末、私はドイツ・ボーフムで、ストックホルムへの移動計画を立てていました。日本組との合流は5月29日(日)の夕方でしたが、その前にどのタイミングでストックホルム入りするかを考えていました。

本拠地であるボーフムで進めておきたい仕事もありました。一方で、せっかく北欧へ行くのだから少し早く到着したいという気持ちもありました。最終的に選んだのは、土曜日の夕方にボーフムを出発し、日曜日の昼過ぎにストックホルムへ到着するルートでした。

ボーフムからベルリンへICEで移動し、ベルリンから夜行列車でスウェーデンのマルメへ向かいます。そしてマルメから高速列車X2000に乗り換えてストックホルムへ入るという旅程です。国際列車の切符はオンラインで検索できても、購入は駅の窓口まで行かなければならず、切符を買うこと自体がひと仕事でした。

夜行列車で北へ

2005年5月28日夕方、ボーフムを出発しました。ベルリンまではICEで移動し、そこからスウェーデン行きの夜行列車に乗り換える予定でした。ところが、ベルリンでは予定のホームに列車が来ず、駅員に案内されて別の駅まで移動することになりました。

ようやくマルメ行きの列車に乗車したものの、車両トラブルのためなかなか発車しません。本当にスウェーデンまで行けるのだろうかと思いながら、蒸し暑い寝台で汗だくになって出発を待ちました。午前0時半過ぎ、列車はようやく出発しました。

午前3時半ごろ目が覚めると、列車はそのままフェリーに格納されるところでした。列車を降りて船のキャビンまで上がり、しばらく船内で過ごしました。午前5時頃には、バルト海の東の空から太陽が昇り始めました。デッキに出ると風が強く寒いくらいでしたが、とても見事なご来光でした。

ストックホルムへの旅の始まりを象徴する一枚。
夜行列車を積んだフェリーのデッキから見た、バルト海の日の出です(2005年5月29日)。

マルメからストックホルムへ

午前8時頃、列車は定刻どおりマルメ中央駅に到着しました。ストックホルム行きの列車X2000の発車まで少し時間があったので、マルメの駅周辺や市庁舎前の広場を少し歩きました。

マルメからストックホルムまでは約4時間半です。車窓には森が続き、ところどころで湖が広がっていました。ドイツとはまた違う、北欧らしい美しい風景でした。向かい合わせの席には、子ども3人とそのお母さんが座っていました。本を読んだりゲームをしたりしながら楽しそうに過ごす子どもたちの雰囲気の中で、私はこの「ひとこと」(ドイツ日記)を書いていました。

バルト海を渡った夜行列車でスウェーデンへ到着した朝。ストックホルム行きの高速列車を待つ間に、マルメ市内を少し散策しました(2005年5月29日)。

ストックホルムに到着する

2005年5月29日午後、ストックホルム市内のホテルに到着しました。インターネットは無線LANで快適につながり、早速メールチェックをしました。日本組の皆さんとは、その日の夜8時過ぎ頃に合流する予定でした。

到着後、街中を散策するならどこがよいだろうかと考え、旧市街地ガムラスタンへ出かけました。昔ながらの街並みに細い路地が走り、歩くだけで楽しい場所でした。行きはバスで出かけ、帰りはホテルまでゆっくり歩いて戻りました。

ホテルに戻ると、ちょうど日本から到着した皆さんと合流できました。メンバーは、NPO法人環境文明21の加藤三郎さん、藤村コノヱさん、NEC環境推進部(当時)の宇郷良介さん、そして私の4名です。日本組は時差で、私は睡眠不足で、それぞれ疲れもありましたが、夕食に出かけると早くも議論モードになりました。

ナチュラルステップ本部を訪ねる

5月30日、調査初日は午前8時20分にホテルのロビーで高見幸子さんに迎えに来ていただき、最初のヒアリング先であるナチュラルステップ本部に向かいました。地下鉄の構内では、通路や階段全体がアート作品のようになっており、岩盤をくり抜いてつくられた構造が印象的でした。

ナチュラルステップでは、環境教育を担当されているLena Johanssonさんが対応してくださいました。ナチュラルステップは日本を含む12カ国で活動が展開されているとのことで、その理念やスウェーデンでの取り組みについて丁寧に説明していただきました。

今回の調査は前述のように「企業における環境教育」でした。私自身は、愛知教育大学(当時の勤務校)におけるミッションとして、「企業における環境教育の発想やノウハウを学校教育の文脈にいかに結びつけるか」という点に焦点をあてていました。その意味で、ナチュラルステップでのヒアリングは非常に大きな示唆を与えてくれるものでした。

洗剤会社に見る環境経営

午後は、ストックホルム郊外にある洗剤会社Kemibolaget i Bromma ABを訪問しました。従業員33名という会社ですが、環境に配慮し、しかも経済的にも優れた洗剤を開発することで大きくシェアを伸ばしたとのことでした。

もともとは「環境」といっても、自然環境だけではなく、労働環境や人々の健康、安全といったことが開発のきっかけだったそうです。社長さん自身の強い信念と行動力には感心させられました。

ナチュラルステップとの連携、スウェーデンにおける環境対策、日本における合成洗剤との比較、さらには私自身のドイツでの洗濯事情の話にまで議論は広がりました。こうした議論を通じて、「消費生活」(当時の私の勤務校における担当課程)は「総合科学」であるという思いを強くしました。

持続可能省で温暖化政策を聞く

5月31日は、スウェーデン持続可能省を訪問しました。前日のまとめ作業を朝食後にホテルのレストランで行い、お昼前にホテルを出て、徒歩で同省へ向かいました。

ヒアリングでは、京都議定書や排出権取引など、地球温暖化問題に直接関わってこられた方から話を伺うことができました。スウェーデンをはじめ各国がどのような状況で、どのような目標を立てて京都議定書を批准したのかなど、非常にリアルなお話でした。

午後3時前にはヒアリングが終了しました。当初は旧市街などを少し散策する予定でしたが、あいにくの雨と寒さのため、直接ホテルに戻りました。その後、加藤さんのお部屋でヒアリングの録音を聴きながら、2時間ほどまとめの作業を行いました。

環境保護庁とスカンディックホテル

6月1日は、午前中に環境保護庁を訪問しました。受付では、一人一人が名前や所属、訪問先の担当者名をコンピュータに入力すると、名札がプリントアウトされる仕組みでした。セキュリティは何重にもあり、廊下やオフィス、壁から家具まで、とても美しいデザインでした。

ヒアリングでは、スウェーデンでは環境への意識は高いものの、それをアクションにつなげるのは難しいという話がありました。行動を普及させるためのキャンペーンのプロジェクトは、私の研究テーマに直接関わる内容で、とても興味深いものでした。

午後は、環境対策が進んでいるスカンディックホテルを訪問しました。環境持続性ディレクターのJan Peter Bergkvistさんから、スカンディックホテルが環境対策に取り組んだ背景や実績について説明していただきました。90年代前半の倒産寸前の状態から、環境に取り組むことで見事に復活したこと、経営陣がどのような考えで臨み、社員への環境教育をどのように実践してきたのかなど、とても面白い話でした。

その後、ホテルの客室だけでなく、普段は見ることのできない厨房やゴミ置き場まで見学させていただきました。環境教育が、理念だけでなく、ホテル運営の具体的な現場にまで組み込まれていることを実感しました。

郊外のホテルでの夜の議論

この日から、ホテルが市内中心部から郊外のスカンディック・テーベーホテルに変わりました。もともとは全5泊をこのホテルにする予定だったのですが、高見さんが直前に市内の便利なホテルを探し直してくださり、最初の3日間だけ市内のホテルに変更していたのでした。

郊外のホテルに着いた後、近くのスーパーへ買い出しに出かけ、ホテルに戻ってから加藤さんの部屋で環境保護庁のヒアリングのまとめを行いました。その後、そのまま部屋で夕食をとりながら議論が続きました。この日の主なテーマは、人材育成のあり方や組織のリーダー継承などでした。

外が明るいのでまだ早い時間だと思っていると、気づけば午後10時をまわっていて、一同唖然としました。ストックホルムの夜は長く、午後11時半になってようやく暗くなってきましたが、午前0時近くになっても北の空はまだ明るいままでした。

JM社と住宅の100年

6月2日の午前中は、ストックホルム郊外にある建設会社JM社を訪問しました。8時20分にホテルを出て、タクシーで本社へ向かいました。とても良い天気で、アポイントの時間まで少し余裕があったので、近くの森を散歩しました。

JM社は、建築会社としてはスウェーデンで3番目、住宅ではスウェーデン最大規模とのことでした。環境対策が経営マネジメントに完全に組み込まれ、一度も赤字に転じることなく発展しているという説明を聞きました。

特に印象的だったのは、住宅を100年後も使うものとして設計するという話でした。法的基準を満たすだけでなく、その間に変化する規制にも耐えられるように設計するという考え方です。日本の住宅の寿命の短さや、日本でなぜ家電が多く必要になるのかという点についても、後で議論することができました。

ストックホルムの水と緑

午後のヒアリングまで時間があったため、加藤さんと古くから親交があり、スウェーデンに30年お住まいという西脇さんに、グランドホテルのスモーガスボード(いわゆるバイキング料理)に連れていっていただきました。スウェーデン料理の数々を楽しむことができました。

その後、グランドホテルの前から出る遊覧船に乗りました。ストックホルムは14の島と53の橋からなる都市とのことです。ユールゴーデン島という自然公園を一周するコースでは、海に面した建築物、水と緑の美しい調和を眺めることができました。

仕事で来ると、観光をする時間はなかなか取れません。それでも、この遊覧船の時間は本当に心休まるひとときでした。「ストックホルム会議」への出席などで何度も訪問されている加藤さんも、「こんなところがあったのか」とその美しさに感激されていました。

スウェーデン鉄道SJの環境対策

午後は、スウェーデン鉄道SJを訪問しました。環境マネージャーのMarie Hagbergさんが、SJの環境対策について話してくださいました。

SJでは、風力および水力で発電された電力を購入して列車を走らせており、温暖化防止に貢献しているとのことでした。また、企業の出張を飛行機ではなく鉄道にしてもらえるよう、積極的な影響活動を行っているという話もありました。

午前中のJM社に続き、非常に興味深い内容でした。共通していたのは、どちらも10年ほど前にナチュラルステップを取り入れ、その後独自に環境教育に取り組んでいるという点です。また、両者ともISO14001は取得していないとのことでした。取得する気になればいつでも取れるが、顧客からその要求がない、という話も印象的でした。

ストックホルム最後の夜

高見さんとはこの日が最後でした。ヒアリングの後、中央駅裏手の橋を渡ったところにある中華レストランで夕食をとりながら、総括的なお話をしました。

議論は、スウェーデン社会の特徴を日本と比較するところから始まりました。ISO14001を「顧客が要求しないから」、さらには「事務的に負担がかかるから」という理由であえて取得しないこと。形式ではなく「実を取る」ことの有益性。ホンネとタテマエの使い分け。そして「くらし方・働き方」の問題。話は次々に広がっていきました。

8時半頃にレストランを出て、橋の上で最後に記念撮影をしました。翌日のヒアリング先であるエネルギー庁を高見さんに案内してもらい、途中まで地下鉄で一緒に帰りました。

ホテルに戻っても話し足りなかった私たち4名は、前日に続いて加藤さんの部屋でディスカッションを行いました。どうやって関心のない企業トップに環境へ取り組んでもらうかという話から、社会心理学とはどういう学問かという話にまで展開しました。話は尽きませんでしたが、翌朝も早いため、午後11時頃には解散しました。

アーランダ空港からブリュッセルへ

6月3日、ストックホルム最後の訪問先はスウェーデン・エネルギー庁でした。午前中のヒアリングを終えた後、宇郷さんはこの日で日本へ帰国されるため、ここでお別れとなりました。

その後、私はストックホルムのアーランダ空港で、ブリュッセル行きの飛行機を待っていました。試しにパソコンを立ち上げると、1時間だけ無料で無線LANが使えることがわかりました。当時としては、空港でそのようにインターネットにつながること自体が少し新鮮でした。

欧州では、EU憲法の批准をめぐる話題がホットでした。フランス、オランダでは国民投票で反対が多数となり、批准が否決されていました。スウェーデンでの温暖化対策についてのヒアリングでも、排出権取引など、他のEU諸国との関係が重要な問題となっていました。

ストックホルムでは、NGO、企業、行政、それぞれの取り組みについて話を伺うことができました。次の目的地であるブリュッセルでは、EU全体の温暖化対策についてEU本部でヒアリングを行う予定でした。

こうして、2005年のストックホルム滞在は終わりました。21年後の今、再びストックホルムへ向かおうとしていることを思うと、あの時に見た街並み、議論したこと、人との出会いが、現在の研究やISAGA2026への参加にも確かにつながっているように感じます。

見出し画像は・・・

見出し画像は、2005年6月2日午後2時半ごろ、ストックホルム市内の遊覧船から撮影したものです。調査の合間に訪れた水の都ストックホルムでは、水辺の風景と歴史的な建築が美しく調和していました。21年後の今月、私は再びこの街を訪れます。

https://jsugiura.eco.coocan.jp/hitokoto_0506.htm

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