コーポレートガバナンス・コードの改訂ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~
(第七十四回)「仏に魂が入らない」デジャブが繰り返されないために…
前回は、トランプ「反環境政策」自己矛盾のお話
前回は、トランプ大統領の「反環境政策」が、短期的には生産性を上げようという狙いであることは一応理解できるのですが、結果的にテクノロジー企業の再エネ投資を後押しする状況やアメリカ国民の健康を求める支持者の望みに反している、といったある種の自己矛盾につながっているのではないか、というお話をしました。最後はカリフォルニアのワイン産業につなげるという、やや強引な流れだったかもしれませんが、わこさんらしい、ということで良しとしましょう。
上場企業のガバナンスは問題意識の宝庫
今回は「じゃない方」のわこさんでワインの話は無しです。日本株のストラテジストをやっていたころから変わらず、日本の上場企業のガバナンスは問題意識の宝庫です。例えば同じ業種の企業でも業績や株価に差がつくのはなんでだろう、ってのを考えていくと、この「ガバナンス」ってやつに行きつくことが多いわけです。
企業のガバナンスって?Geminiに聞いてみた
そもそも、企業のガバナンスってカタカナ言葉は何のことか?Geminiに50文字くらいで教えてと聞いてみると、「経営者が自利や目先の数字に囚われず、預かった資本を最大化し、中長期的な企業価値を創出するための仕組み」だそうです。なるほど、「仕組み」なわけです。
企業の統合報告書発行増加はガバナンスの仕組みのアピール
その仕組みがちゃんとできてますよ、というアピールのためもあって、昨今、自社の経営理念や目指す方向を投資家や取引先などのステークホルダーに対して伝える「統合報告書」を発行する企業が増えています。各企業が知恵を絞って企業のパーパスや経営理念、トップマネジメントの言葉や具体的な事業内容、ESGのような環境、社会に対する貢献を説明していただいています。読んでいてとてもワクワクする会社も多くなってきています。
統合報告書って企業価値向上に貢献してるんですかね?
ただし、あえて言うと、これを作るために大変な社内外の資源を使ってますよね。関係する役職員の人件費、外部のコンサル料、(印刷する場合)印刷コスト、などなど…。これって企業価値、平たく言うと株価を上げるのに果たしてどのくらい貢献してるんでしょうか。
発行した方が平均的にPBRは高め
もちろん、さほど知名度の高くない(これ、上場企業に対して言うのって結構失礼ですが)企業が自社をアピールして理解を深めてもらい、投資対象にしてもらうには役立つでしょう。実際、統合報告書を発行している企業の方が平均すると株価水準が高くなる、例えばPBR(株価純資産倍率)が0.2~0.5ポイント程度高くなる、とかいう調査は時々目にします。
株価水準が高い=投資家が儲かる、ではない
ただ、株価水準が高くても、その後投資家が儲かるかどうかは買った後株価が上がることが必要です。株価=利益×成長期待ですから、利益が上がるか、成長期待が上がるかが必要です。
儲かるための成長ストーリーを求めるのがCGコード、のはず
だとすると、ちゃんとした会社としてのちゃんとした成長ストーリーが必要ですよね。この「ちゃんとした」を「サステナブルな」に置き換えると、イメージはクリアになるかなと思います。そして、それを会社としてちゃんと作って、アピールしなさい、と求めているのがコーポレートガバナンス・コード(CGコード)です。
企業価値を上げる仕組みを説明してね
経営環境はいろいろ変化します。気候変動や人権対応、株主とのお付き合い、などなど、いろいろあります。CGコードは、そうした「ちゃんとした会社」であるための「サステナビリティ課題(≒経営課題)」への対処を踏まえた上で、それぞれの会社がどうやって企業価値(株価)を上げていくのか、その仕組みを説明してください、と要求しているわけです。
制定、改訂のたびに株式市場の期待は盛り上がった
CGコードは、2015年に制定され、2018年と2021年に改訂されました。改訂されるたびにアレをやれコレをやれ、ちゃんと開示しろ、と要請項目が増えていきました。例えば社外取締役を増やせ、といった具合です。改訂すると、今度こそ企業の意識や行動が変わって企業価値を上げようとする企業が増えて、日本の株式市場が底上げされていくに違いない、という期待が高まりました。
株価水準の切り上げには貢献しました
それが株価水準を押し上げたとは言えるでしょう。日経平均株価の水準感でいうとCGコードの議論が始まったアベノミクス相場初期は10000円前後、それが2015年には1万円台後半、2018年の改訂時には2万円前後、2021年の改訂時には2万円台後半に切り上がったわけですから。
現実にはボックスティッキングしてただけ?、が多かった印象
ただ現実には、強くなるところはドンドン強くなるし、そうじゃないところは怒られない程度にやる、という形だったように見えます。この項目やってる?と聞かれてやってます!!とか鋭意努力中です!!と答えられるような必要最小限のボックスティッキングをして凌いでいる会社が多かった印象もありますね。
東証の要請で株価水準がさらに切り上がる
そこに、2023年、東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現」を要請して、さらに株価が押し上げられました。一般的に企業の資本コスト(利払いや配当にかかるコスト)は自己資本の8%程度と考えられていますので、これを上回る自己資本利益率(ROE)が継続的に上げられれば企業の成長に回す資金が増えて成長期待が上がり、株価がさらに上がりやすくなる、という考え方です。その後の話を含めて以前まとめたことはあります。
「美容整形」による押し上げかもね
この要請への対応が広がって株価が上昇、日経平均は一気に5万円を突破したわけです。そこで問題になるのが、それって利益そのものが持続的な成長をした結果なのか?ということです。企業が保有している余剰資金を自社株買いに回すと自己資本が減って計算上の利益率(ROE)が上がります。それによって株価がかさ上げされている部分があると言えます。言葉悪いですが、「美容整形」ですね。化けの皮がはがれなきゃいいんですが。
あるいは「取り組み疲れ?」という話は以前書いています。
4割くらいの企業はROE8%に届かず
市場では、新年度の予想ROEは9%台に上昇する見通しも出ているので、平均的には株価の上昇余地は期待できることにはなります。ただ一方で、未だに東証プライム上場企業の4割弱は、ROEが8%を下回っています。いろんな事情はあるんでしょうが、こうした企業の多くはある意味市場の「コバンザメ」です。
「魂が入っていない立派な仏像」は信じた人が救われない
このように、取り繕ってやってるふりをしている企業が変わらない状況は、過去のCGコード制定や改訂でも起きていて、最終的に失望させられた思い出があります。いくら立派な仏像を彫っても魂が入っていなくて、信じた人が救われなかったわけです。
今回のCGコード再改訂でまた失望したりしないかな
前振りが相当長くなりましたが、現在金融庁ではCGコードの再改訂に向けた議論を進めています。原案は出ていて、6月には改訂が行われる予定です。今回の改訂で、またデジャブのような失望をすることになるのか、今度こそ日本の上場企業が変わったと確信が持てるようになるのか、どちらでしょう?ただ、「美容整形」「コバンザメ」が変わらないと、本当の意味で日本の株式市場が変わったと言えない、というのが今回のCGコード改訂の背景にあることは間違いないと思います。コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議:金融庁
改訂の意義は「コンプライ・オア・エクスプレイン」の徹底強化
今回の改訂の最大の意義は、コードの項目を減らして、各企業により説明を求める形にする、ということです。要請する開示項目を減らす代わりに、「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守せよ、さもなくば説明せよ)」をより徹底させる方向です。
最終的には「やらないなら出ていけ」になりうる?
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