再録:「新宿スワン」考
『新宿スワン』に描かれる現代の「女衒」:スカウトマンたちの実態
『新宿スワン』は、歌舞伎町を舞台に、女性たちを風俗業界へと誘い込むスカウトマンたちの熾烈な世界を描いている。彼らの活動は、まさに現代社会における「女衒」の役割を担っており、その手口や女性たちが置かれる状況は、かつての「身売り」と共通する構造的な問題を浮き彫りにしている。
1. スカウトマンの役割と甘い誘い
『新宿スワン』で描かれるスカウトマンは、街中で女性に声をかけ、風俗業界で働くよう勧誘する人物である。彼らは、直接的に女性の身体を売買するわけではないが、高額な報酬や華やかな生活をちらつかせ、経済的に困窮している女性や、現状に不満を抱える女性たちをターゲットにする。
ターゲット層の多様性: 作品中では、借金に苦しむ女性、夢を追いながらも現実の厳しさに直面している女性、あるいは単に刺激や高収入を求める若い女性など、様々な背景を持つ女性たちがスカウトの対象となる。
巧みな言葉と心理操作: スカウトマンは、女性の悩みに寄り添うふりをする。彼らは、女性の弱みや願望を見抜き、それを利用して「救いの手」を差し伸べるかのように振る舞う。
2. 「前借り」と「囲い込み」のシステム
スカウトされた女性が風俗店で働き始める際、多くの場合「前借り」という形でまとまった金銭を受け取る。この前借り金は、家賃の滞納、借金の返済、あるいは整形費用など、女性が抱える切羽詰まった経済的な問題を一時的に解決するために提供される。
借金による拘束: しかし、この前借り金は、女性が店を辞めにくくするための「借金」として機能する。高額な利息や手数料が上乗せされることもあり、女性は働いても働いても借金が減らず、実質的に店やスカウトマンに「囲い込まれる」状態に陥る。
ノルマとペナルティ: 店によっては厳しいノルマが課せられたり、売上が低い場合にペナルティが課されたりすることもあり、女性は精神的、肉体的に追い詰められていく。

個人体験付記:
僕は学生時代、あくまでも興味本位で、アルバイトとして、吉原のソープランドのボーイや新宿歌舞伎町にあった女性専用のデートクラブのホストに応募するために面接を受けたことがある。そうしたら、いずれも上記の南ヒデヨシと同じような腹の座った眼光鋭いいかにもやり手の経営者が現れた。
他にも「アルバイトニュース」には、ジーパンなど服装自由と記してあり、バイト代も異常に高額なので電話で問い合わせても埒が明かず、新宿に直接赴くことにした。待ち合わせは、伊勢丹の斜向かいの角に立っているようにと言われて待っていると、角刈りの長身の男性が迎えに来た。背筋が伸びて非常に姿勢が良く、いかにも雑誌『薔薇族』の表紙に載っているような男性がやって来た。

眉は濃くなくて顔は違ったが、東大全共闘の対話集会に出たときの三島由紀夫の服装に似ていた。ジーパンの金属のバックルが付いた太い皮バンドが印象的だった。

彼に案内され付いて行った先のドアを開けると、中は内装していないベニア張りの壁とU字のカウンターがあり、裸電球が垂れ下がっているような部屋に5・6人のまさに普段着の少年たちが座っており、一斉にこちらに目を向けた。その瞬間に気付いた。売り専のゲーバーだったのだ!! 確か、「ぼ、ぼく、経験がないので…」というような情けない言い訳をして、玉ノ井(現・東向島)のアパートに逃げ帰って来た思い出がある。
因みに、吉原のソープのボーイも歌舞伎町の女性用売り専ホストもやらなかったが、ビートたけしが生まれた東京足立区梅島の駅前にあったグランドキャバレーのウェイターのバイトはやったことがある。
そこがもらい火で火事になり、系列の浅草店でも働いたことがある。“貧乏苦学生”だと思われて、ホステスさん達から促されたお客さんから、よくチップを貰ったw

3. 現代の「女衒」としてのスカウトマン
スカウトマンは、女性を風俗業界という特定の労働市場へ送り込むことで、店から紹介料や継続的なマージンを受け取る。女性が稼げば稼ぐほど、スカウトマンや彼らが所属する組織の利益が増える仕組みだ。
「労働力」としての女性: 作品では、女性たちが個人の尊厳よりも「稼ぐための道具」として扱われる場面が描かれる。スカウトマンは、女性の身体を資本とする「労働力」を供給する役割を担っており、この点で、かつて貧しい家庭の娘を売春宿に斡旋した女衒と共通する機能を担っている。
構造的な搾取: 直接的な暴力による「強制連行」は少ないかもしれないが、経済的な困窮や巧妙な手口による「騙し」、そして「前借り」による金銭的な拘束は、女性から自由な選択肢を奪い、搾取の構造を生み出す。これは、形を変えた現代の人身売買、あるいはそれに準ずるものと見なすことができる。
付記:改正風営法
『新宿スワン』が描く社会の闇

『新宿スワン』は、スカウトマンたちの華やかな外見とは裏腹に、その裏に潜む非情なビジネスと、経済的な弱者を食い物にする社会の闇をリアルに描いている。主人公が直面する、女性たちの悲惨な状況や、スカウトマン同士の抗争、そしてヤクザが絡む巨大な利権構造は、現代社会における「女衒」的ビジネスが、いかに複雑で根深い問題であるかをわれわれに突きつける。
この作品は、現代においても、経済的な弱者や社会の隙間から生まれる「身売り」と呼ぶべき行為が、形を変えて存在し続けていることを示唆していると言えるだろう。

