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「もう精神障害の方は採らない」と決める前に——障害者雇用の失敗を検証に変える視点

フジテレビの来年1月期の月9ドラマをめぐり、「恋愛ものは避ける」という方針が現場に伝えられ、困惑が広がっていると報じられた。経緯の当否はここでは扱わない。目を引いたのは、対応の形だ。何が起きたのかを検証する代わりに、ジャンルという領域ごと閉じる。

障害者雇用の現場には、これとよく似た決定がある。精神障害のある社員の雇用がうまくいかなかった会社が、次の採用で「もう精神障害の方は採らない」と決める。再発防止として、誰もが納得しやすい判断に見える。

だが、避けた瞬間に、組織は「何が起きたか」を検証する機会を失う。閉じたのは危険ではなく、学習の入口だ。この記事は、その構造と、閉じる前にできる検証の話をする。



障害者雇用の失敗のあと、求人票から「精神」が静かに消える


カテゴリを閉じる決定は、目立つ形では現れない。会議で宣言されることも、文書に残ることも少ない。次の求人を出すとき、応募対象から「精神」の文字が消えている。それだけだ。

決定として認識されていないから、社内の誰もその決定を検証できない。断り文句だった「うちには合わなかった」が、いつの間にか採用基準に固定される。専任の人事がいない会社ほど、この固定は速い。決めたのが社長の一言なら、覆す場もない。

もっと粗い形でも起きる。私が求人開拓の電話で実際に聞いた断り文句は、「うちにはエレベーターがないから、精神障害の方は無理です」だった。精神障害とエレベーターの間に関係はない。悪意というより、よくわからないものを遠ざけたい心理が、手近な理由をつかんだ結果だと思う。

ただし、ドラマの編成と採用とでは、重さが違う。編成は経営判断の自由の範囲にある。一方、障害を理由に採用の門を閉じることは、雇用機会の公平に関わる。厚生労働省の差別禁止指針が禁じる、障害者であることを理由とした差別的取り扱いに当たりうる領域だ。

実際、善意の工夫を重ねた企業が労働局から注意を受けた例がある。失敗を避けようと、支援機関の随伴を応募の条件にするなど選考プロセスを固めた結果、選考機会の公平を損なうと指摘された。避ける工夫は、重ねるほど法的な線に近づく。

報道は個人の資質を裁く。現場で私が見るのは、裁きのあとに静かに書き換えられる求人票だ。



「避ける」はなぜ正しく見えるのか。そして何を失うか

「もう採らない」と決めた担当者を、責める気にはなれない。この判断には、組織の中で選ばれるだけの合理性がある。速い。予算が要らない。再発防止策として報告すれば責任を果たした形になり、そして誰も反対しない。

とりわけ効くのが、最後の点だ。閉じられたカテゴリの不利益を受けるのは、これから応募するはずだった人で、まだ社内にいない。声の上がらない決定は、検証の必要も感じさせないまま確定する。

食中毒を出した食堂が、原因を調べる前に、そのメニューをまるごと廃止したとしたらどうだろう。店は「もう安全だ」と感じられる。だが原因が食材の保管温度にあったなら、残ったメニューでも同じことが起きる。廃止で守られたのは客ではなく、「調べなくて済む」という安心のほうだ。

職場はメニューより複雑だし、雇用には働く機会を待つ人の側の事情も絡む。たとえとして万能ではない。それでも構図は同じだ。検証より先に遮断が起きると、失われた学習は誰の目にも見えなくなる。

組織の失敗研究を主導してきたエイミー・エドモンドソンは、失敗を「手順の逸脱による防げたはずの失敗」「要因が絡み合って起きる複雑な失敗」「未知への挑戦に伴う失敗」に分けた。そのうえで、多くの組織が複雑な失敗を防げたはずの失敗として処理し、「犯人」を特定して終わらせる傾向を指摘している。

障害のある社員の雇用で起きる「うまくいかなかった」は、ほぼ例外なく複雑な失敗だ。本人の状態、業務の設計、受け入れる側の関わり方、そもそもの組み合わせ。複数の要因が絡んで起きる。ところが「もう精神障害の方は採らない」という結論は、誰か一人のせいにできないはずの失敗の犯人を、カテゴリに押しつける。

同じ精神障害でも、幅は大きい。調子の波が業務に影響しやすい人もいれば、環境さえ合えば周囲より安定して働く人もいる。カテゴリで結論を出すことは、その幅を見ないと決めることと同じだ。そして幅を見ない判断は、障害に限らない。新卒でも、中途でも、同じ構造で起きる。

検証なき遮断が組織に残すのは、安全ではなく空白だ。数年後の景色は想像がつく。雇用率の数字は足りないまま、対象を狭めた求人に応募は集まらない。担当者は入れ替わり、「なぜ精神の方は不可なのか」を誰も説明できない。そして別の障害種別で採用した社員が、放置されたままの同じ業務の穴に落ちる。



カテゴリを閉じる前の、30分の検証

閉じる前にできることは、大がかりな仕組みではない。うまくいかなかった雇用について、関わった現場と30分だけ振り返る。新しい会議体も、新しい帳票も要らない。採用の定例会議があるならその議題の末尾に載せ、なければ次の求人票を作る打ち合わせの冒頭に置く。

問いは単純だ。あれは、何の失敗だったのか。答えの置き場所は四つに分かれる。


この分解は目新しいものではない。「やると言ってやらない」場面をタイプ分けして確認する、支援の現場で使われてきた手順を、採用の振り返りに翻訳しただけだ。四つのうちどれか一つに決める必要もない。実際には要因がまたがっていることが多く、またがっているという事実そのものが、「カテゴリのせいではなかった」ことの証明になる。

切り出す一言も難しくない。「基準を変える前に、前回のケースを30分だけ振り返らせてください。どの要因だったかを見てから決めても、遅くないので」。反対する理由が誰にもない提案だから、通る。

たとえばデータ入力の業務で採用した社員が続かなかったケース。本人の集中力の問題に見えていたものが、振り返ってみると「月末だけ処理量が跳ね上がる業務の波」という設計側の問題だった、ということは珍しくない。結論が職務設計や受け入れ側に落ちるなら、閉ざすべきはカテゴリではなく設計の穴だ。

検証を通してもなお、「この業務とこの状態の組み合わせは難しかった」という結論になることもある。それでも、その結論は求人から精神障害を消す理由にはならない。狭める根拠が、カテゴリから条件へ変わるからだ。「精神障害は不可」ではなく、「量の波が大きい業務は、切り出し直してから募集する」に変わる。

30分の検証は、反省会ではない。失敗の置き場所を、個人やカテゴリから、組織が手を触れられる場所へ移す作業だ。置き場所が設計や配分にあるかぎり、組織は次の一手を打てる。カテゴリに置いた瞬間、打てる手は「避ける」しかなくなる。

そしてこの検証は、障害者採用のためだけの仕組みではない。「新卒はもう採らない」「50代の中途は難しい」「派遣出身は定着しない」。カテゴリを閉じる判断は、どの会社でも日常的に行われている。閉じる前に検証を挟む型を障害者雇用で一度作れば、そうした判断全体の精度が上がる。一つの求人のための検証が、採用ガバナンス全体への投資になる。

社内ルールは1行で足りる。カテゴリを閉じる決定は、検証を1回通してからしかできない。

閉じたのは危険か、学習の入口か

検証を挟んでも、すべての雇用がうまくいくわけではない。振り返りの場を重ねたうえで、離職に至ったケースを私は何度も見てきた。検証は成功を保証しない。保証するのは、同じ失敗を同じ形で繰り返さないための材料だけだ。

それでも、材料があるかないかは、次の採用で決定的に違う。「前はダメだった」しか残っていない会社は、避けることしかできない。「量の波で崩れた」と分かっている会社は、業務を組み直して、もう一度門を開けられる。閉じる速さは、リスク管理の証明にならない。検証してから閉じる遅さのほうが、組織の力を証明する。

求人票から「精神」の文字を消そうとしている会社があるなら、書き換える前に確かめてほしい。いま閉じようとしているのは、危険の入口か。それとも、何が起きたかを知るための、最後の入口か。



なお、採用選考のどこからが「不当な差別的取り扱い」にあたるのかという法的なラインそのものは、過去記事「障害者雇用の採用選考で『不当な差別的取り扱い』になる5つのケース」で整理しています。あわせてどうぞ。


このnoteは、支援と企業のあいだに立つ立場から、障害者雇用と職場の対話について書いています。

制度の解説だけでは、現場の判断は動きません。「もう〇〇は採らない」が会議で口にされたとき、どう返すか。うまくいかなかった雇用を、次の採用の精度にどう変えるか。そうした実務の判断軸を、これからも記事にしていきます。

この記事が判断の材料になったなら、スキ(♡)で教えてください。次に書くテーマを選ぶ手がかりになります。担当者が一人で悩まなくていいように、現場で使える視点を届け続けます。

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出典・参考資料

  • スポニチアネックス「フジテレビ 来年1月期の月9変更 佐藤二朗、橋本愛のトラブル受け“恋愛ものNO”突然の指示に現場困惑」(2026年7月10日配信)

  • Edmondson, A. C. (2011). "Strategies for Learning from Failure". Harvard Business Review, 89(4).(失敗の3類型と、複雑な失敗が「犯人捜し」で処理される傾向についての論考)

  • Cannon, M. D., & Edmondson, A. C. (2005). "Failing to Learn and Learning to Fail (Intelligently)". Long Range Planning, 38(3).

  • 厚生労働省「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(障害者差別禁止指針・平成27年厚生労働省告示第116号)

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