管理職の1on1が「効果ない」「疲れる」と感じる理由——問いの設計を変えると、何が変わるか
前回は「1on1で何を聞くか」を書いた。
今回は、そもそもなぜ1on1が苦痛になるかを先に考えたい。
木曜日の夕方。田中さんは30分の1on1を終えて、自席に戻りながら肩が重かった。
険悪な空気ではなかった。部下は「はい、わかりました」と言って出て行った。でも終わるたびに残るこの感覚——「何か話した気はするけど、何かが動いた気がしない」。
聴き方が悪かったのだろうか。もっと質問を準備してくればよかったのか。バタバタしている中で、うまく1on1をやれるわけがない——。
そう思いながら、来週のカレンダーにはまた3件の1on1が入っていた。
1on1が終わるたびに、どっと疲れている
こういう管理職の疲弊は珍しくない。
プレイングマネージャーとして現場業務を抱えながら、採用・評価・部下指導・コンプライアンス対応——そこに毎週の1on1が加わる。「意義はわかっている」からこそ、「ちゃんとできない自分」への自責に変わりやすい。
そして多くの管理職が、「自分の聴き方が悪いのかもしれない」という方向へ走る。傾聴の研修を受け、話題のネタを仕込んでから臨む。それでも手応えを感じられず、また疲れる。
だが、この疲弊の原因は聴き方にあるのではない。
「うまく聴けない自分が悪い」——その自責の構造をほぐす
1on1の場を研究するスティーヴン・G・ロゲルバーグはこのように言っている。
「管理職が話す割合が7割を超えている1on1は、部下のエンゲージメントを高めない」
あなたの1on1で、誰が多く話しているだろうか。
「聴こうとしているのに、気づくと自分が説明していた」という経験は多くの管理職が持っている。これは意志の弱さではない。1on1に、ある前提を持ち込んでいることの結果だ。
その前提とは——「30分で何かを達成しなければならない」という感覚だ。
管理職は、価値を届ける人として長年訓練されている。判断し、解決し、方向を示すことが仕事だ。その習慣のまま1on1に臨むと、こうなる。部下が考えている沈黙が「埋めなければならない空白」に見える。部下の話が途切れると「次を引き出さなければ」と感じる。問題が出れば「解決策を提示しなければ」と体が動く。管理職が7割話す1on1が、反射的にできあがっていく。
疲れるのは当然だ。管理職が1人で1on1を機能させようとしているのだから。
この構造が厄介なのは、意識に上りにくいことだ。「部下のために聴いてあげよう」と思っている管理職ほど、沈黙に耐えられず話し始める。「何かしなければ」という責任感が、1on1を管理職のための場に変えてしまう。
疲弊の正体は、「うまく聴けない自分」ではない。1on1を「成果を出す場」として設計している——その前提にある。
問いの向きを変えると、何が起きるか——ある職場の3ヶ月
就労支援の現場で、こんな経験がある。
ある介護事業所で、仕事の雑さ・物に当たる・周囲への怒りの表出が続く知的障害のある社員がいた。担当者は面談のたびに問題点を指摘し続けていた。その方は「また怒られる」という構えで呼び出しに来て、面談は形式的な確認で終わった。
介入として行ったのは、面談の「入口」を変えることだった。
まず雑談で場を温める。次に、「できていること」「がんばっていること」を最初に伝える。最後に「改善してほしいこと」を話す。問いの向きを、「問題の確認」から「うまくいっていること」に変えた。それだけだ。
最初の面談では表情が硬いままだった。二回目も、三回目も、大きな変化はなかった。でも数回重ねるうちに、変化が起きた。それまで受け身だったその方が、自分から「最近こんなことを頑張っている」と話し始めた。問題行動は完全にはなくならなかったが、激減した。
それ以上に印象的だったのは、企業担当者の言葉だった。
「ここまで変わるとは思わなかった。障害のある職員に限らず、うちの会社全体でこういう対話の場をつくっていきたい」
一人の変化が、組織の考え方を変え始めた。面談の入口を変えただけで。
これは障害者雇用の現場の話だが、同じことは一般の職場の1on1でも起きる。
問いの向きが「問題の確認」にある限り、部下は「チェックされている場」として1on1に臨む。毎週呼ばれて、困っていることを聞かれ、指示を受けて帰る。それが続くと、1on1に来ること自体を億劫に感じるようになる。
問いの向きが「うまくいっていること」に変わった瞬間、部下の体験は変わる。「今週の自分は何ができたか」という問いは、部下が自分の仕事を主語にして話す設計になっている。管理職はその話を聴く側に回れる。「30分で何かを達成しなければ」という圧力が、構造的に消える。
1on1を変えたいなら、聴き方を変える前に、問いが何を向いているかを変えることだ。
今日の1on1で試せる「冒頭の1問」
設計を変えるためのアクションは、1つだけだ。
「今週、少しでも『うまくいった』と思えることがあったとしたら、何ですか?」
今日の1on1の冒頭を、この1問に変えてほしい。
NG例——なぜ管理職は沈黙を怖れるのか
管理職「今週どうですか?(3秒後)先週の件はどうなりました?そういえばあの案件も——」
部下が考える前に、管理職が埋め始めている。これは悪意ではない。「沈黙=自分が何もしていない」という感覚が、反射的に言葉を出させる。「価値を届けなければ」という管理職の前提が、空白をそのままにしておくことを許さない。だから繰り返される。
OK例——待つと何が起きるか
管理職「今週、少しでもうまくいったと思えること、何かありますか?」
(10秒、待つ)
部下「……なんですかね。あの依頼を、自分でまとめて送れたことですかね」
管理職「それ、いつも難しいところですよね。今週は何が違いましたか?」
部下「時間を少し早くとり始めたのかもしれないです」
管理職「それが効いたんですね」
管理職は何も解決していない。でも部下は「自分の言葉で話した」という感覚を持って席に戻る。管理職は「何かしなければ」という焦りなしに30分を終えた。
沈黙は「部下が考えている」サインだ。10秒、待ってほしい。
その10秒が、1on1を「確認の場」から「考える場」に変える。
「今週うまくいったことは?」という問いが、なぜこれほど機能するのか——。うまくいった部分に目を向けるという行為が、なぜ部下の話す量を増やし、管理職の疲弊を下げるのか。そこには、問いの向きと人の思考の動き方に関する、対話の理論的な背景がある。
1on1は「30分の対話」を超えた、組織の設計だ
この問いを使って1on1を終えた管理職は、不思議な感覚を持つかもしれない。「今日は何も解決しなかったな」という感覚だ。
でも翌週の1on1で、部下が先週の「うまくいったこと」を覚えていて、自分から報告してくる。「あのあと、同じことを試してみたんですが、また効きました」と言う。管理職は聴くだけでいい。解決する必要がない。
この積み重ねが、職場の対話の土壌をつくる。
1on1は30分の成果を生む場ではない。週に1回、部下が自分の仕事について考え、言葉にする時間をつくる——その継続が、「自分で考える部下」と「聴く側に回れる管理職」が共存する職場をつくっていく。
管理職が「30分で何かを届けなければ」という前提から解放されたとき、1on1は義務から設計に変わる。
まず冒頭の1問だけ変えることから始めてほしい。
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