「問題行動の記録」をやめた管理職が、1on1で使った5つの問いかけ
毎月1on1をやっている。でも何も変わっていない気がする。
「何か困っていることはありますか?」と聞くと、「大丈夫です」と返ってくる。「先月の件について」と切り出すと、表情が一瞬固まる。話が終わった後、なんとなく距離が広がった気がして、廊下で目が合うと向こうが先に視線を逸らす。
そういう経験が続いているなら、問題は「相手が話してくれないこと」ではないかもしれない。
就労支援の専門家(精神保健福祉士)として、障害のある方と企業の担当者の間に立ち続けてきた。その経験の中で確信していることがある。「問いの向きが逆」の状態では、どれだけ時間をかけても本当の対話は生まれない。
この記事では、現場で実際に使ってきた「問いかけの転換」を整理する。理論の解説ではなく、明日の1on1でそのまま使えるセリフとして届けたい。
「困っていることは?」という問いかけが機能しない理由
1on1の場でよく使われるのが「何か困っていることはありますか?」という問いかけだ。聞く側は誠実に、相手のことを気にかけているつもりで使っている。
しかしこの問いを受ける側は、何を感じているか。
人間の神経系は、問われた内容よりも先に「この場は安全か」を瞬時に判断する。意識的な判断ではなく、身体レベルの反応だ。「困っていることを話したら、どうなるか」という評価が先に行われ、「話しても安全だ」という感覚が得られなければ、どんなに誠実な問いかけも届かない。
特に障害のある方は、こうした緊張状態に入りやすい傾向がある。過去に「話したことで叱責された」「何かを指摘された」という経験が積み重なっていると、呼び出し=叱責という構図が身体に刻み込まれていく。表情が固まる、「大丈夫です」で終わらせる、会話が短い——こうしたサインは「話す気がない」のではなく「話せない状態になっている」可能性が高い。
もっとも、これは障害のある方だけに起きることではない。職場で叱責や指摘を受け続けてきた社員全般に起きる現象だ。障害者雇用の現場ではこれが顕著に現れやすいため、課題として浮かびやすい。
「困っていることはありますか」という問いかけ自体が悪いわけではない。問題は、「話せる場の安全さ」がまだ育っていない段階で使っていることにある。では、何から始めるべきか。
問いの向きを変える——「問題」から「うまくいっている日」へ
「聞き方を優しくすればいい」という誤解がある。「大丈夫ですか?」を「最近どうですか?」に変えても、根本的な変化は起きない。問題は「問いの優しさ」ではなく「問いの向き」だ。
現場で試行錯誤する中で最も効果を感じたのは、「うまくいっている日のことを聞く」という転換だった。
問題が続いている状況の中にも、必ず「問題が起きなかった日」「いつもより少しだけうまくいった場面」がある。そこを一緒に振り返ることが、1on1の質を変える。
知的障害のある方が介護補助として働いていた職場でのことだ。仕事の雑さ、周囲への怒りの表出が続き、指摘するたびに不機嫌になる悪循環に陥っていた。企業はすでに次の契約更新をしないことを決めていた、その段階での介入だった。
最初に変えたのは、1on1の冒頭の問いだった。「先月の問題について確認したい」ではなく、「最近できていたこと」「本人が頑張っていたこと」から始めた。本人は「また怒られる」と身構えて来た。それがほぐれていく様子が、会話の中で見えた。
後からその方が語った言葉が忘れられない。「プラスのことを言ってもらったのが初めてだった」と。
問題を最初に置かない。うまくいっていることを最初に置く。それだけで、対話の場の空気がまったく変わる。なぜこれが効くのか——答えは単純で、「探すものが変わると、見えるものが変わる」からだ。「問題がなかった時はいつか」「うまくいった日と、そうでない日は何が違うか」を一緒に見つけていく問いかけは、担当者が答えを持ち込む必要がなく、本人と一緒に「発見する」対話になる。
明日の1on1で使える「問いかけ」5選
以下に、実際の1on1で使いやすい問いかけを5つ挙げる。セラピーの専門技術ではなく、企業の担当者が自然に使えることを意識した。
【問い1】「最近、少しだけうまくいったと感じた場面はありましたか?」
「問題がなかった日」「いつもより少し良かった」ことを一緒に振り返る問いだ。「ない」と言われたら「本当に1つもなかったですか?小さなことでも」と重ねてみる。「ない」という返答の中に、見過ごされてきた何かが隠れていることがある。
【問い2】「今の仕事を10点満点でつけるとしたら、何点くらいですか?」
「しんどい」「大丈夫」という抽象的な言葉を数字に置き換える問いだ。「3点」と答えたら「じゃあ4点になるために、何が1つ変われば良さそうですか?」と続ける。「10点にするには」ではなく「1点上げるには」という変化の単位の小ささが重要だ。
【問い3】「この忙しい中で続けてこられているのは、なぜだと思いますか?」
厳しい状況の中にある強みを一緒に探す問いだ。「しんどいのになんとかやっている」という事実そのものが、その人の力の証拠だ。「別に理由はない」と言われたら「何かあるはずだと思う。何だろう」と一緒に考える。
【問い4】「もし来週、少しだけ働きやすくなっているとしたら、何が1つ変わっていると思いますか?」
「問題が完全に解決した状態」ではなく「少しマシな状態」を具体的にイメージする問いだ。「わからない」という答えにも価値がある。「それだけ今が見えにくい状態なんですね」という言葉が、受け取る側には「わかってもらえた」という感覚として届く。
【問い5】「この仕事で、自分が得意だと感じることってありますか?」
問題から離れて「強みを探す」問いだ。答えが出てきたら「それは実際にも周りから見えていますよ」と返すことで、自己評価と他者評価のズレを縮める効果がある。本人が気づいていない強みを、担当者が「見えている」と伝えること自体が、対話の場の安全さを育てる。
5つすべてを1回の1on1で使おうとしなくていい。1回に1つだけでいい。「前回と変えた問いかけ」が1つあるだけで、対話の場の空気は変わる。
どこまで聞いていいか——仕事の話と生活の話の線引き
1on1を深める中で担当者が直面するのが「どこまで踏み込んでいいか」という問いだ。
「体調は大丈夫ですか」から始めたら、家族の問題や医療の話が出てきた。どこまで聞いていいのかわからなかった——という声をよく聞く。
基本的な考え方として、管理職や人事担当者が担う1on1は「仕事の場での体験」の話し相手になることだ。生活面・医療面の話が出てきたとき、丁寧に聞くことは大切だが、「解決策を提示しようとする」ことは担当者の役割ではない。
「それは大変でしたね」と受け取り、「その部分は、支援機関の方や主治医の先生と相談できる機会はありますか?」と橋渡しを示す。これが担当者ができる誠実な対応だ。
「生活や医療の話が出てきた=立ち入り禁止ゾーン」ではない。出てきた話を受け取った上で、「解決しようとしない」という姿勢で関わることが重要だ。話を途中で遮ったり「それは私の担当外なので」と切り上げたりすることのほうが、対話の場の安全さを壊す。
もう一点。「1on1で話した内容を人事に報告するか」という問題がある。内緒だと思っていたことが上司や人事に伝わっていた——という経験は、「ここは話してはいけない場所だった」という認識を作り、1on1の機能を根本から損なう。何をどの範囲で共有するかを、事前に当事者と担当者の間で合意しておくことが望ましい。
1on1が変わると、組織が変わる
冒頭で紹介した事例の続きを書く。
問いかけを変え、対話の場の安全さが少しずつ育った職場で何が変わったか。その方は「自分がこんなことを頑張っている」と自ら語るようになった。問題行動は完全になくなったわけではないが、目に見えて減った。仕事へのやりがいを持つようになった様子が、言葉や表情に出てきた。
そして企業の担当者が言った言葉が印象的だった。
「ここまで変わるとは思いませんでした。障害のある職員に限らず、全員に対して対話の場を作っていきたいと思っています」
1on1の変化は、障害者雇用の文脈を超えていった。一人との対話の質が変わったことが、担当者の中に「対話とはどういうことか」という感覚を育てた。その感覚は、障害者雇用の担当者だけのものではなく、組織全体の関わり方を変えていく芽になる。
障害者雇用は、対話を通じて組織を強くする実践だ——というテーマがここにある。特別な制度対応を超えて、「人と話す場の質を変える」という実践が職場全体の土壌になっていく。
1on1で使う問いを1つ変えることが、その出発点になる。
(この記事では「何を問うか」に絞って書いた。「誰にどう問うか」というタイプ別の設計については、「4タイプ別対話設計」の記事も合わせてどうぞ。)
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