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⑫母親の認知症(離れても続く母の罵り)

▶︎最初から読む:姫路への道のり-①母親の認知症
▶︎前回のお話:⑪母親の認知症(家を出る日)

家を出発した。私と愛犬。

車が苦手な愛犬のために、おやつをたっぷりと用意した。
車内で騒ぎ出したら、おやつを差し出す。食いしん坊の愛犬には効果的で、そんなやりとりを何度も繰り返しながら、車を走らせた。
新居まで、車で2時間。

3分の2位まで来たとき、ケージの中に入っているはずの愛犬が、なぜかケージの上に乗っていた。
慌てて車を止めて確認をすると、ケージの入り口が破壊されていた。
まさか破壊されるとは…
とりあえずもう一度ケージの中に入れ、出てこられないように、入り口を荷物で塞いだ。
そうやってバタバタしながらも、ようやく新居に到着した。

これから、二人きりの新しい生活が始まる。

最初の1週間は、とにかく切なかった。
私が仕事へ行くために朝、家を出るたびに、愛犬は泣いた。今まで聞いたこともないような声で、遠吠えをしていた。かわいそうだったけれど、こればかりは仕方がなかった。毎日仕事が終わると、ダッシュで家に帰り、愛犬との時間を過ごした。

新居での生活は実家にいる時よりも会社に近いため、時間の余裕があった。
朝ご飯を食べることもできるし、入りたいときにお風呂に入れる。行きたいときにトイレに行くことができる。休日には愛犬とゆっくりお昼寝ができる。なんて幸せなんだろうと思った。

母親が認知症になってからは、顔を合わせるだけで「泥棒しに来たのか」と疑われて騒がれたため、おちおちお風呂にもトイレにも行けず、食事をすることもできなかった。すべての行動を早く済ませ、顔を合わさないようにする必要があった。ようやくゆっくりする事が出来るようになった…

そうして1週間ほどが過ぎた頃。
携帯に留守番電話が入っていた。
確認すると、実家の固定電話からだった。
再生してみると、聞こえてきたのは母の声。その第一声は、
「泥棒!」
という絶叫だった。
「また盗っただろう。お前のやってることは泥棒だぞ!」
どんなに物理的に距離を離しても、まだ続いていた。
それから毎日、電話がかかってくるようになった。

ある休日、たまま電話を取ってしまい、母の「泥棒!」という絶叫を直接聞くことになってしまった。
新居から実家までは、車で2時間もかかる。
「わざわざそんな遠くまで、盗みに行かない。鍵だって、もう返したから勝手に入れないでしょ」
そう伝えても、母は「鍵なんて返してもらっていない!」「お前しかやる人はいない」と言い張り絶対に譲らない。

引っ越しても変わらず泥棒扱いされ続けていた。

▶︎次回のお話はこちら
⑬ 母親の認知症 (進行する症状)

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