日本の核武装論
(ヘッダー画像は菅野志桜里氏のXより)
昨日は、横浜で開かれた小林よりのり氏主宰「ゴー宣道場 ウクライナ戦争と国際法の行方」に行ってきました。
パネリストは以下の人たち。
小林よしのり(漫画家)
井上達夫(法哲学者、東京大学名誉教授)
篠田英朗(国際政治学者、東京外国語大学教授)
菅野(山尾)志桜里(弁護士、元衆院議員、元検事)

その中で、日本の核武装について4者が論じた部分が面白かった。
以下、自分の記録のために、頭の中の記憶だけで書く。録音・録画が禁じられて、メモを取れる環境でもなかったので。
(万一、この記事から引用してコタツ記事を書く人がいたら、少なくとも公式の映像を確認するか、できれば本人たちに当たって確認してね)
ウクライナが核を放棄したからロシアに侵略された、というのは本当ですね。もし、ウクライナが核を持ったままだったら、侵略されていなかった。
だから、ウクライナ戦争の話題から「日本も核を持つべきだ」議論になるのは当然でね。
それをいちばん積極的に言っていたのは、小林よしのり氏でした。
濃淡で言えば、小林氏がいちばん積極的、菅野志桜里氏がいちばん消極的で、菅野氏は「唯一の被爆国」にこだわる発言もあった。
でも、その菅野氏も、ウクライナ戦争の経験で少し前向きになったということで、4者ともに、日本の核保有の可能性を排除しない意見でした。
篠田英朗氏と井上達夫氏は、「タイミングを見計らって、いつでも核を持てるように準備しておくべき」という点で一致しているようでした。
篠田氏によれば、核を持つということは、たんに核兵器を保有するだけでなく、高度な管理技術の維持も必要。日本はたぶん開発・管理の技術を持っており、秘密裏に十分な量の核武装を成し遂げるのは可能では、とのこと。
井上氏もそれに同意で、日本はプルトニウムも十分に持っている。そして、そういう「いつでも核武装できる状態」にしておくことが重要だ、と。
タイミングについて井上氏が言うには、韓国がおそらく先に核を持つ。韓国が核を持てば、日本が核を持つことへのアジア内での抵抗はおそらくなくなる。
そして、韓国と日本が核を持つということは、アメリカがこの地域の安全保障から後退するということ。トランプ政権になってその傾向が顕著なので、先手を打つ必要がある。
中国による「台湾有事」とともに、ウクライナ戦争を片付けたあとにロシアが「回れ、東」する可能性がある。これも井上氏が強調することですね。
菅野氏によれば、ロシアのプーチンは日本のことを「しょせんアメリカの属国」とバカにしているので、アメリカが出てこないなら日本侵略に躊躇しないかもしれない。
ただし、井上氏に言わせれば、日本は核武装より、憲法改正が先。いまは9条2項により、日本は正式な軍隊が持てないので、軍隊への統制規範(国会によるコントロール)や軍法を作れない。
井上氏のセリフによれば、「憲法改正もできずに、核武装なんて、100年早い!」ということですね。
*
ちなみに、これは完全に余談だけど、井上達夫氏と篠田英朗氏は、論敵どうしとして知られる。
憲法改正をめぐり、井上氏が篠田氏を厳しく批判していた。井上氏は代表的な改憲論者だけど、篠田氏は改憲不要論だったように記憶する。篠田氏は、東大法学部全体を批判対象にしていた。
篠田氏は井上氏と議論したがっていたが、井上氏がそれを拒絶している、というようなツイートを、篠田氏はしていた。
ウクライナ戦争に関しても、篠田氏は「停戦派」に近く、井上氏の正戦論と距離がある。
だから、井上氏と篠田氏が公開の場で議論すること自体が、レアでした。
昨日も、控え室から井上氏が篠田氏を批判し始めて大変だった、と小林氏がブログに書いている。
控え室から井上達夫氏が篠田英朗氏を批判し始め、
険悪な空気が漂って、篠田氏が耐え忍んでいるように
見えたので、本番中は、喧嘩決裂にならぬよう、必死で
バランスを取りつつ、進行するしかなかった。
めちゃくちゃ神経を使う展開になった。
たしかに、会場でも、両氏は長テーブルの右端と左端に離れて座り、最初は何やら緊張感が漂って、そのあいだに座る小林氏が気をつかっているのが見てとれた。

でも、この核武装論あたりから、井上氏と篠田氏の議論が噛み合うようになり、井上氏の呼び方も、「篠田クン」から「篠田サン」に変わっていきました。
*
話を戻すと。
菅野氏によれば、「台湾有事」については、政府と与党の一部は、すでにシミュレーションを秘密裏におこなっているそうです。
石破の政府には、石破本人をはじめ、林芳正、中谷元、小野寺五典、岩谷毅と、過去の防衛大臣経験者が多い。その意味で、防衛の「通」が集まっている。
それなのに、いま彼らは、増えた防衛費をどう使おうと、そればかりに夢中だ、と篠田氏が言っていました。
それはともかく、これは私の想像ですが、「核武装」についても、すでに国の中枢では想定済みではないでしょうか。
ただ、彼らは、決してそれを事前に国民に相談し、議論を積み上げようとはしない。
ちょっとでもそんなことを言ったら、「日本を戦争のできる国に変えようとしている」と左翼とマスコミがギャーギャー騒ぐからね(これは私の意見)。
*
ウクライナ戦争が始まった3年前のことを覚えているでしょうか。
2022年2月にウクライナ戦争が始まった。
そして、2022年は、今年と同じ、夏に参議院改選がおこなわれる年でした。
ウクライナ戦争が始まって、一議員に戻っていた安倍晋三は、ウクライナの状況を見れば、日本も核シェアリングの議論を始めるべきだと主張した。
私は、2022年の参院選は、安全保障がテーマになるだろうとnoteに書いた。
あの頃はXがまだ「ツイッター」の時期で、連日のように安倍の「核」発言を責める「ツイデモ」がおこなわれていた。
朝日新聞記者だった峯村健司氏(現青山学院大客員教授)は、安倍の核シェアリング発言に「協力した」罪で、「停職1カ月」の懲戒処分になった、なんてことまであった。
そしてご承知のとおり、参院選まっただ中の7月、安倍晋三は殺された。
その後の、自民党も同調した「統一教会」「壺議員」騒ぎの中で、安倍晋三が命をかけた憲法改正も核武装論も吹き飛ばされたのでした。
まあ、こういう状況を見ていれば、政治家も「国民に相談しよう」なんて思わないだろうね。
事前に言うと、潰される。政治家にとっては、議席を失うリスクだけでなく、命のリスクがある。
でも、ある日突然、「日本は核武装しました」と政府が発表したら、世論もマスコミもころっと変わって、「では、そういうことで」とあっさり受け入れそうな気がする。
日本人って、そんな感じだよね。
*
まあ、それはともかく。
ゴー宣道場の話に戻れば、井上達夫氏は、核の効用について、こういうことを言っていた。
核兵器を持つことは、通常言われる「核抑止力」、つまり、相手が侵略しにくくなる、というだけではない。
核を持つことで、通常兵器による戦闘も、ある段階で抑止される。
そのいい例が、印パ紛争だという。
インドとパキスタンは、領土問題で何度も紛争を繰り返したけど、テロは頻発したわりに、正規軍による衝突はそれほどエスカレートしなかった。
それは、インドもパキスタンも核を持つから、これ以上やると危ない、という抑止が働いたから、だという。
*
まあ、いずれにしろ、こういう議論はやっておくべきですね。
3年前と同じ、今度の選挙でも、安全保障が大きなテーマとなることはなく、「カネ配れ、コメよこせ」が中心になるでしょう。
政治家やマスコミが、おおやけに堂々と議論する度胸がないなら、民間で、機会あるごとにやっておくべきです。
昨日のゴー宣道場は、そのいい機会になっていたと思いますね。
小林よしのり氏は71歳だけど、「もう自分はいつ死ぬかわからないから、言いたいことを言っておく」と言っていた。
同年輩の井上達夫氏も、同じ思いではないかと思う。同じ老人として、その気持ちは私にはわかる。
篠田氏や菅野氏はまだ若いから、そういう意識はないだろうけど。でも、一歩踏み込んだ発言をしているように見えました。
菅野氏は、「道場」が終わった後に、こんなポストをしていました。
この戦争でロシアに力で国境を動かす違法成功体験を許せば、同種の成功体験を模索する国は間違いなく増える。
だからこそ日本はウクライナを支え続けるべきだし、並行して自律的防衛の法的基盤と能力を強化すべき。憲法9条2項改正で自衛隊を戦力と認めて手続統制を定める改憲は重要な選択肢。
自衛の意志を憲法で表明し、自衛の能力を防衛費増加で高める。外向きの明快なメッセージと中身の緻密さを両立させる政策パッケージが急務だと、そんな話もしました。
今日はこちらのメンバー(左から井上達夫、私、小林よしのり、篠田英朗、敬称略!)で「ウクライナ戦争」を議論しました。私を除き、猛獣だらけw
— 菅野志桜里 (@ShioriYamao) April 20, 2025
この戦争でロシアに力で国境を動かす違法成功体験を許せば、同種の成功体験を模索する国は間違いなく増える。… pic.twitter.com/7ZYBA1YM2X
<参考記事>
韓国は「核武装」に向かうのか その課題と代替案から見たリアリティ・チェック(北村充/フォーサイト 2025/3/30)
日本でもよく報道されるように、韓国の世論調査における核保有支持の声は極めて大きい。この点を継続的に調査している韓国統一研究院の世論調査によれば、核保有の支持率は近年で見れば、2021年10月で71.3%、2022年4月で69.0%、2023年4月で60.2%と継続的に高い比率を示している。
他の機関の調査においても、核保有の支持率は軒並み高い。国立ソウル大学統一平和研究院の調査では55.5%、SAND南北コリア研究所では74.9%、アサン政策研究院では70.2%が核保有を支持している。
(中略)
韓国統一研究院が2023年に行った世論調査において、「国際的な制裁によって経済危機に至る可能性があるが、核開発をすべきか」という質問に対しては、賛成は36.8%に止まり、反対が63.2%となった。また、同じ調査では、「米国が米韓同盟を破棄し、米軍を韓国から撤退させる可能性があるが、核開発をすべきか」という質問に対しては、賛成は37.2%、反対62.8%であり、「北朝鮮ないし中国を刺激することによって戦争のリスクを高める可能性があるが、核開発をすべきか」という質問に対しては、賛成39.6%、反対60.4%であった。
前述のCSISのアンケート調査の対象となった「戦略エリート」は、こうした事情をある程度理解している層であると考えられるが、韓国は核兵器を保有すべきかとの問いに対して、核保有すべきだと答えた者は34%であった。この34%を「戦略エリートでもおよそ三分の一もの人が」と受け取るかどうかは見方次第だが、一般層に対する世論調査の約6~7割とは大きく相違する状況である。(後略)
<当日の動画 4/22追加>
「ウクライナ戦争と国際法の行方」第122回ゴー宣DOJOin横浜 第1部(よしりんチャンネル 2025/4/21)
<参考動画>
【井上達夫が語る】チョムスキーもハーバーマスもウクライナ戦争の論じ方がおかしい(著者が語る 2025/4/20)
<参考>
