広告経済の次 #24: それの何が問題なのか?
前回の記事で、現代のデジタル社会が抱える問題の本質は、「広告」や「サブスク」といった個別のビジネスモデルそのものではなく、その根底にある「ユーザーを自社のプラットフォームに可能な限り長く滞在させ、依存させる」という構造的な力学にある、というお話をしました。
今回は、その構造的な力学から引き起こされている実際の問題について考えてみます。
問題の区別が必要
単に「滞在させ・依存させようとするプラットフォームが問題だ」と指摘するだけでは、これらの問題は解決しない、と私は考えています。
なぜなら、それによって引き起こされている弊害は多岐にわたるからです。ある問題は個人の心に作用し、ある問題は社会の構造を歪め、またある問題は経済の公正な競争を阻害します。これらの性質の異なる問題をすべて「プラットフォームの問題」として一括りにしてしまうと、結局は「雰囲気だけの議論」に陥ってしまいかねません。
広告モデルにせよサブスクにせよ、これらのプラットフォームは、これまで世界の人々に大きな恩恵をもたらし、実際に世の中に広く受け入れられてきました。それに対して何らかの改善案・代替案を提案しようとするからには、まず現在の問題を解像度高く分解し、モレなくダブりなく正確に挙げる必要があると考えています。
実際に引き起こされている問題群
まず、具体的な問題を列挙するところから始めます。
強制的で頻繁な割り込み
商業的な情報の優遇
個人の無意識操作
思考力低下
社会的監視機能の喪失
独占による選択の制限
偽情報の拡散
不寛容の増大と社会の分断
1. 強制的で頻繁な割り込み
起きている問題: ユーザーが何かに集中している最中でも、意図しない広告や通知、自動再生コンテンツが頻繁に割り込み、思考や作業を中断させる。
構造的要因: ユーザーの「集中したい」という文脈よりも、プラットフォーム側の「注目を惹きたい」という都合が常に優先される設計のため。
2. 商業的な情報の優遇
起きている問題: 何かを調べようと検索しても、検索結果の上位は広告やアフィリエイト目的のサイトに占領され、本当に知りたい公的情報や学術情報などを見つけることが極めて難しくなっている。
構造的要因: 検索エンジンが広告収益を最大化するため、商業的価値の高い情報を優先的に表示するよう最適化されている。
3. 個人の無意識操作
起きている問題: ユーザー自身が提供した認識のない膨大な行動データを基に、プラットフォームが個人の興味や関心、心理的な傾向を推測し、それを利用して購買意欲や特定の感情を掻き立てる情報を提示する。
構造的要因: ユーザーが知らない情報をプラットフォーム側が独占しているという圧倒的な情報格差から生まれる問題。従来の広告とは異なり、個人のデータを深く分析した上で無意識レベルに働きかけるため、ユーザーは合理的な判断を下す前に影響を受けてしまう。
4. 思考力低下
起きている問題: 短い動画を次から次へと見せられたり、数秒ごとに新しい情報が流れてくる環境に慣れることで、一つのテーマについてじっくり考えたり、長い文章を集中して読んだりすることが困難になる。
構造的要因: アテンション・エコノミーのビジネスモデルが、ユーザーを常に「注意散漫な状態」に置くことで利益を最大化するため。プラットフォームは意図的に思考の負荷が低い、瞬間的な刺激に満ちたコンテンツを優先する設計になっている。
5. 社会的監視機能の喪失
起きている問題: 明らかに詐欺的な広告や、倫理的に問題のある商品、質の低い情報商材などが、何のチェックもなく個人の元に直接届けられる。
構造的要因: ターゲティング広告は個人に「密室」で表示されるため、かつてのテレビCMのように社会全体で評価・批判する機会がない。これにより、悪質な事業者でもプラットフォームに広告料を払えば活動できてしまう。
6. 独占による選択の制限
起きている問題: 「このドラマはNetflixでしか見られない」といったように、特定のコンテンツを視聴するために、興味のない他のサービスも含めたサブスクリプション契約を事実上強制される。
構造的要因: プラットフォームが、独占配信コンテンツを武器にユーザーを自社のエコシステムに「囲い込み」、継続的な支払いを前提とさせるビジネスモデルを採用しているため。
7. 偽情報の拡散
起きている問題: 根拠のない偽情報や過激な陰謀論が、事実よりも速く、広く社会に拡散してしまう。
構造的要因: 偽情報は、人々の怒りや不安を煽ることでエンゲージメントを獲得しやすいため、真偽を問わずアルゴリズムによって拡散されやすい。プラットフォームが「真実」よりも「反応」を重視する設計になっているため。
8. 不寛容の増大と社会の分断
起きている問題: 政治や社会問題について、自分と異なる意見を持つ他者に対して攻撃的になったり、対話を拒絶したりする傾向が社会全体で強まっている。
構造的要因: アルゴリズムが、ユーザーが心地よいと感じる (=既存の信条を補強する) 情報ばかりを優先的に表示し、意図せず思想的な「エコーチェンバー」を作り出してしまうため。
問題の整理の方向
上記の問題群は、このままではあまりに「つぶつぶ」で、「モレなくダブりなく」とは言い難いです。
次回はこれらの問題群をいくつかの軸で分類してみたいと思います。
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