オリジナル短編小説『なぁ、愛ってなんだと思う?』
新宿の雑居ビルの屋上。
ネオン街を見下ろしながら、拓也と龍は話していた。
「なぁ、拓也。愛ってなんだと思う?」
龍がふと投げかけた問いに、拓也は少し照れくさそうに頭を掻いた。
「えーーー。ありきたりっすけど、自分より相手を優先出来ることっすかね」
「じゃあさ、相手も拓也のことを愛してたらどーする?」
「あ、そっか」
拓也は苦笑いした。
「お互いに譲り合いみたいになっちゃいますね」
「じゃ、愛ってなんだと思う?」
拓也は、少し考えてから、今度は絞り出すように言った。
「相手の為に死ねるかどうかっすかね」
「相手にそこまでの悲しみを感じさせるのも、愛なのか?」
龍の静かな指摘に、拓也は言葉を詰まらせた。
「また痛いところを突かれた……。相手も自分を愛してくれてるわけですもんね。そんな悲しい世界に一人きりで残して生きさせるなんて、確かに愛じゃないっすね」
「じゃあ、愛ってなんだと思う?」
三度目の問いに、拓也はついに両手を上げた。
「敗北っす。降参です、答えを教えて下さい」
龍は小さく笑い、遠くを見つめながら口を開いた。
「愛は、共に生きることだ。相手を思って、毎日笑う。
ありがとうや、ご馳走さま、好きだよ、愛してるよ、って言葉をちゃんと伝える。
時には何も聞かずに、ただ横にいる。
愛は育てるものだ。それも、二人で育てるもの。だからこそ、共に生きなきゃいけないって俺は思うんだよな」
「それ……最強の答えですね」
拓也は感銘を受けたように呟いた。
「実はシンプルなんだよ。何だって、本来は単純なことなんだ」
「そうっすね」
「だけどな、単純なことほど、慣れがくると雑になっちまう」
「確かに……」
「常に相手を思うこと。自分が悪かったら素直に謝ること。そうやって二人で育てていくんだよ」
拓也は深く息を吐き出した。
「価値観、変わりますね」
「そうなのか?」
「はい。お前の為なら死ねる、っていうのが究極の愛だと思ってましたから」
「まぁ、それも男らしくてカッケーじゃん」
「いや、今思えばあれはナルシストの愛ですよ」
拓也は笑った。
龍は拓也の肩をぽんと叩いた。
「拓也もいつか誰かを愛したら、きちんと二人で育てていけよ」
「はい」
「さぁ、仕事戻るか」
「はい!」
鉄の階段をトントンと降りていく龍と拓也。
拓也の先ほどまで迷いを見せていた表情は消え、その顔にはエネルギーに満ちあふれた笑顔が広がっていた。
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