高市早苗首相「所信表明演説」に思う。
10月25日の朝日新聞朝刊に高市早苗首相所信表明演説についてのインタビュー記事が掲載されました。

え~、ブレイディみかこさん推しというわけではありません(笑)。
ウェブ版にも載りました。
いくつか、補足しておきたいと思う。メディアの取材というのはそういうものなのだが、私が話したことで、記事にならない部分がたくさんある。
私が重要だと思っても、メディア側にとってはそうではないことも多くある。もちろん、話した部分については、メディアが自由に選んで使っていいわけで、それについてはなにもいうことはない。ただ、自分が重要だと思うことは、一応noteに残しておきたい。
高市早苗首相の演説を聞いて、まず思ったのは、首相は「保守派」というより、
「進歩主義者」
が本質なんだなということだ。進歩主義はいまいちな感じもするので、なにかもっといい表現があるなら、教えてほしいが。シンプルに「改革派」でもいいのかもしれないが、いずれにせよ、この方の本質は、「ビジネス保守」と呼ばれるように、政界を渡る営業としての保守で、本質は、「政治改革」の時代に登場し、若手の時代に小泉構造改革を経験し、総務相、経済安全保障担当相などを歴任した
「仕事師」
なのだということだ。少なくともそれをアピールする意識がにじみ出ていた。
「AI」「半導体」「量子」「バイオ」「宇宙」「コンテンツ産業」「資産運用」「スタートアップ」「大学改革」「予防医療」。。。
これでもかというくらい並べられた政策課題の数々。おそらく、高市首相から各省庁に、省内で検討してきたもの、やりたくても財務省に予算をつけてもらえなかったものを全部出せを指示があったのだろう。
そこに、高市首相の強い意志を感じた。「強い経済」「攻め」の姿勢で、日本を変えるということだ。
もちろん、これがすべて実現するならば、日本はまるで別の国かと思うくらい変わるだろう。ただ、本当にやれるのか?どうやって実現するのかが問題となる。
所信表明演説は、こんなことをやるという「政策」を話す場であって、どうやって実現するかという「政策過程」を話す場じゃない。だけど、これらの政策は、役所レベルではずっと考えてきたことで、高市首相が急に思いついたわけじゃない。
首相の「師匠」である安倍元首相「アベノミクス」は、異次元の金融緩和・財政出動のバラマキで疲弊した経済を一息つかせたが、「第3の矢」と呼ばれた規制緩和・成長戦略は、前に進まなかった。
成長戦略を妨げる「岩盤規制」を打破する困難を認識し、あまり積極的ではなかったからだ。
「サナエノミクス」というものがあるとすれば、その特徴は経済を一息つかせるだけでなく、岩盤規制を壊す「強さ」と「攻め」だということだろう。
しかし、実際はどうするんだ?ということだ。高市首相は総裁選で、ある種の「空気」といくつかの幸運で勝ちを拾ったようなもので、元々の基盤である保守派は「裏金問題」等で半数以上が落選した。
自民党議員は、皆、「岩盤規制」が利権になっているところがある。いざ、政策を進めようとすれば、
「総論賛成、各論反対」
のオンパレードになる。結局、改革とは名ばかりのお茶を濁したようなものになる。それをどう乗り越えるのか。
財政の問題も気になる。ありとあらゆる分野に積極投資するという話なのでね。もちろん、各省庁からすれば、これまで財務省の査定に苦虫をかみつぶしていたのだから、これは好機だといえる。
しかし、これでほんとに大丈夫なのかね。
大体こういうときってのは、各省庁の古色蒼然たる無駄な事業が、名前を変えて出てくるもんだ。名前は「AI」だけど、AIを入れる建物を作るとか。ちょっと、うまいたとえが見つからないが(笑)。
そして、「財務省支配」とか、陰謀論のような話になるが、そんなものはない。
政治家が本気になったら、財務省は踏みつぶされるしかない。片山さつき財務相によって、なんの抵抗もできず財務省は食いつくされる(笑)。
「責任ある財政出動」の名のもとに、「責任ある」投資が次々と実行に移される。財政はどうなるんだろうか?
そもそも、巨額の投資が市場に出たら、普通に考えれば、物価高・インフレが加速する。その時、それ以上の賃上げができて
「悪いインフレはいいインフレになった」
と、高市首相がどや顔できる状況になるんだろうか?
さらにいえば、繰り返すが「AI」「半導体」「量子」「バイオ」「宇宙」「コンテンツ産業」「資産運用」「スタートアップ」「大学改革」「予防医療」。。。これ、
「ぜんぶ国が投資してやる」
というところを前面に出したと思うんだよね。
これは、役人は喜ぶよ。自分らが産業を導いて「高度経済成長」を実現した産業政策の復活といえなくもないからね。
まさか、高市首相の師匠・安倍元首相のおじいさん・岸信介元首相のような
「革新官僚が満州国建設」
とか、さすがに考えてないと願いたいが(笑)。
「官主導で新しい国家建設」
なんて、古すぎるでしょ。民間に基本任せて、国家はその後押しをする環境整備という節度ある考えならいいのだが。これまでも
「総務相時代の停波問題」
など、「統制的」な側面が目立つ人だからね。
「国家総動員体制」
みたいなものを空想しているんじゃないかと、演説の「投資てんこ盛り」を聞きながら不安になった。
次に気になったのが、「防衛費GDP比2%今年度達成へ前倒し」を表明したことだ。
この記事は、立命館大学政策科学部出身の笹山大志記者が、所信表明の2日前に書いた記事。
私は、この防衛費増は、反対ではありません。日本を取り巻く安全保障環境を考えれば、必要なことだと思う。おそらく、ドナルド・トランプ米大統領が、関税で一定の結果が出た後、日本にこれを強く要求してくるのは、誰が考えてもわかることでもある。日本は、一定の答えを大統領にに対して出す必要がある。
しかし、その答えを表明するのは、このタイミングですか?ということだ。
トランプ大統領は、10月27日に来日し、28日に高市首相と日米首脳会談を行う予定となっている。
その時に、おそらく大統領は、日本側に「防衛費増の前倒し」を強く要求してくるはずだったと思う。それを先回りして、高市首相が所信表明演説として表明したということだが、私はトランプ大統領に先に言わせた方がよかったと思う。
トランプ大統領に強く要求させることで、日本国内はえらいこっちゃと激震が走る。防衛費増は2年後のはずだったのにどうしようとなる。
その時、野田佳彦立憲民主党代表や、玉木雄一郎国民民主党代表ら、野党側から、協議をしようと持ち掛けてくるかもしれない。
国内に激震が走った状態で、国難になりかねない案件であり、非協力的な態度は、野党の支持率低下につながりかねないからだ。
その時、与野党の話し合いが始まる。安全保障政策については、争点化しないで、挙国一致で対応するという「コンセンサス」が生まれる。これは、石破茂政権誕生時から、私が主張してきたことだ。
要は、今の与野党の幹部の間には、「政治改革」で政治家として世に出たという、いわば、
「同じ釜の飯を食った」
という人間関係が存在する。それは、端的に言えば安倍政権期に
「自民の3・4世の世襲 VS 民主の一代保守」
が、激しく感情的に激突してしまったことよりも、心情的には近い関係だ。
そういう私は松下政経塾36期生。
— 深作ヘスス| 国民民主党 (@FukasakuKj) October 7, 2025
面接でドアを開けたら野田総理がいたけど二重丸案件だったのだろうか。当時バイク(フォルツァMF10)乗ってたし。 https://t.co/GRvONJzgMf
日本の安全保障政策は、戦後ほとんど与野党が激しく対立し、社会が分断したことにより、非常に不安定な基盤の上に成り立ってきた。
それが、与野党の幹部が「政治改革世代」となり、中道に寄ることで、戦後ほとんど初めて「コンセンサス」を形成して安全保障政策を決められる可能性が出てきた。それは不要な対立、分断を減らし、日本の外交・安全保障政策を強くすることになると考えた。
だが、高市首相が、与野党の話し合いもなく、いきなり所信表明演説で「防衛費GDP比2.0%を今年度達成」を表明したことで、野党は感情的に硬化し、激しく対立するだろう。
来日するトランプ大統領への手土産と考えたのか、安倍政権が「安保法制」等で激しく野党と対立し、強行採決するのがかっこいいと思ったのか。
だが、繰り返すが、安倍政権時と政権基盤が全く違う。今は、連立を組んでも過半数ギリギリだ。国会でもめた時、少しでも造反が出たら、法案は通らないということになる。
高市首相も基本的にはそのことはわかっていて、全体的に保守色を消して、新しい日本を作る指導者のイメージを押し出した。
石破政権時から続く野党との協議を尊重し、「103万円の壁」「教育無償化」「給付付き税額控除」などで、野党に配慮した。
だが、なぜかこの「防衛費」だけは、思い切り突っ込んだ感じだ。
高市首相を支持する「ネトウヨ・右派ポピュリズム」層への配慮が必要だったのか?
まあ、もちろん、トランプ大統領から
「防衛費GDP比5%」
を要求されるかもしれない。その時は、慌てて超党派で協議が始まるかもしれない(涙)。まあ、いろいろ杞憂に終わることを願う。
最後に、高市首相にエールをこめて、1つ言葉を贈ろうと思う。それは、
「信頼」
が何より大事だということだ。
よく、「政治不信」の深刻さが指摘される。日本では、政治への信頼が他国よりも低いといわれる。
「政治への信頼」とは、例えば「政治とカネ」の問題とかで、「どうせ政治家は悪いことをする」というミクロな信頼のなさもあるが、マクロな不信感というのもある。
要は、「北朝鮮が数発ミサイルを持っているかもしれない」と「英国は数万発ミサイルを持っている」とする。ところが、誰も英国を「ならず者国家」とは呼ばない。ならず者国家は北朝鮮だ。そういうのを「信頼」というのだろう。
日本は基本的にそういう信頼はないと考えるべきだ。
もちろん、約80年平和国家をやってきた。穏やかな人柄、勤勉、道徳的な行動など、日本人に対するイメージは基本的に悪くない。それでも、その集団主義的な性質から、突如軍国主義に走るのではないかと思われている。
要は、「戦争放棄の日本国憲法」で抑えつけなければ、なにをするかわからないと思われている。近隣諸国は間違いなくそう思っているし、米国もわからない。
私は、改憲について論じたことがあるが、それは、日本国憲法を改正して、それから50年くらいシビリアン・コントロールが効いている姿を世界にみせて、ようやく信頼を回復する、という意味での改憲論だ。
英国にいるとき、毎年「戦勝記念日」を観た。正直、戦争の傷は消えないし、なかなか難しいものだと思った。会社員時代から今まで、アジアの方と接することは多い。皆、仲良くしてくれるが、これもなかなか難しいものだ。
そういう難しさを、高市首相は保守と名乗る人たちは、よくわかっているのかということだ。
例えば、高市首相のいわゆる「シカ発言」だ。こういうことを軽はずみに言いながら、外国人政策のしっかりしたルール化のようなことを言っても、「排外主義」だと思われてしまう。それでは、本当に必要な政策は通らない。
また、高市首相ではないが、「スパイ防止法は国内の反政府主義者を捕まえる」という意味のことを発言する人がいる。そうなると、本当に必要な「スパイ防止法」は通らなくなるんですよ。
私は、留学生を受け入れて教育する立場から、スパイ防止法が必要だと主張してきた。
でも、正直、今の保守派にこの法律を作らせたら、スパイが逮捕されるどころか、野放しになり、一方で私が逮捕されるんじゃないかと思ってしまう(笑)。
これでは、幅広い支持を得ることはできないし、必要な法案は通らない。
安全保障政策だって、日本周辺の環境悪化で必要な改正はあると思うが、それが「日本の軍国主義への回帰」だと思われると、必要以上に近隣諸国を刺激してしまうし、国際世論の支持を失う。なにより、国内の世論が荒れる。
要するに、「政府の信頼」というのは、なによりも重要なことなのだが、「政治とカネ」から「安全保障」まで、政治家の発言はあまりに軽く、「信頼」を損ね続けている。
特に、高市首相は、それが女性として政界を渡り歩く処世術だったのだろうが、敵を作る、軽はずみな発言が多いのは間違いない。
今後は、くれぐれも慎重に、「信頼」の重さを自覚して、政権を運営していただきたい。
