見出し画像

大違宝舟③~七人そろって7レンジャーならぬ七福神の黄表紙

 藤原不比等ふじわらのふひと俵藤太たわらとうた、浦島太郎に乙姫おとひめ、八百屋お七に山椒大夫さんしょうだゆう、いろいろな人物が次々出てきててんやわんやの物語の最終回。
 「大違宝舟おおちがいたからぶね芝全交しばぜんこう(1750~1793)作、北尾重政きたおしげまさ(1739~1820)画、天明元年1781鶴屋つるや喜右衛門きえもん刊、上中下三巻の現代語訳を三回に分けて紹介する三回目。

 


下巻
十六

 みなみな竜宮城へやって来て、俵藤太たわらとうた乙姫おとひめに会って、願いを成就じょうじゅさせようとしたが、乙姫は、俵藤太が年寄りになっているのに愛想あいそき、真鍮しんちゅう釣り鐘つりがねを出し、「これで手を切ってくれ」と言う。これより「手切れがね」という言葉が始まる。

竜王「これはきつい年寄りだ。これでは乙姫がいやがるのももっともだ。町内の世話焼せわやきという姿だ」
乙姫「じいさんではイヤイヤイヤよ。愛想あいそがつきた。くやしかったらその歯でタクアンをボリボリかんでみな」
浦島「私どもでうったえれば、示談金じだんきん二十両にまではゆずりますが、竜宮の釣り鐘つりがねとは、おりがねえ」
俵藤太「釣り鐘つりがねはめいわくだ。釣り鐘つりがね建立こんりゅうならぬ、釣り鐘つりがね困窮こんきゅうだ」

 


十七

 それより、俵藤太たわらとうたがもらった釣り鐘つりがねをきっかけに、明日は比丘尼びくにが娘道成寺どうじょうじを踊り、八大竜王はっだいりゅうおうを浮かれさせ、玉を取ろうとねらう。浦島太郎うらしまたろうは長唄を歌いながら、玉手箱をねらう。サルは手伝い仕事をしながら赤エイのきもをねらう。

 


十八

 されば、竜宮は大騒おおさわぎとなり、みなみなうろたえ、海女あまは、玉手箱と聞いて、
「きっと金魚不背きんぎょうふはいの玉が入っているので、玉手箱というのだろう」
と思って、持って逃げれば、なにせ十七、八の比丘尼びくになので、玉手箱で若くなりすぎ、赤子あかごとなる。おぎゃーおぎゃー。
浦島太郎は、なんとうろたえたものか、赤エイをり上げる。俵藤太たわらとうたは、耳が遠くなり、「人魚を食うと若くなる」を「金魚を食う」と聞き違え、金魚不背きんぎょうふはいの玉を食べてしまい、八百屋お七は、店のサツマイモが赤エイに告げ口したと、サツマイモを煮物にものにされ、山庄大夫さんしょうだゆうは、お七への恋がかなわぬのがくやしく、八百屋のゴボウを焼いて、サルの尻にくっつけ、尻を赤くする。ムカデからできた小判は、昔、俵藤太たわらとうた退治たいじされたうらみで、釣り鐘つりがねに巻きつく。八大竜王はっだいりゅうおうは、お七の美しさに見とれ、壇上だんじょうよりさかさまに落ちてしまう。
 いずれも竜宮の大騒おおさわぎ、大間違おおまちがい、淡海たんかい公ばかり、あきれはてて、この様子を見る。

竜王「あの壇上だんじょうには、金魚不背きんぎょうふはいの玉と玉手箱をかくしておいたのに……。それにつけてもうらめしや、お七。ヒュードロドロ、うらめしや~」
山庄大夫「昔は、人買いの俺は、人に焼き印を当てていたが、今はゴボウを焼いている」
ムカデ「俺は金には困らないけど、金は、いくらあってもいいもんだ」
サル「おサルのお尻はまっっか、キャッキャッキャ。熱い熱い」
淡公「よしよし、泣くな。乳でも飲みな。養育費三両で、だれかもらってくれるかな」
海女「淡公たんこうさん、わたしゃあまだったのに赤子あかごとなった。これでは、おまえと一緒になれないわ。おぎゃーおぎゃー」
俵藤太「玉を飲んで、若くなればいいが」
お七「胸が焼けるようだ」
サツマイモ「告げ口をした昔話は、クラゲの話。これはちょっと話のすじが違います。ああ、いもいもしい」

 


十九

 そのとき、空に五色ごしきの雲がたなびいて、しば毘沙門天びしゃもんてん深川ふかがわ弁財天べんざいてんあらわれたまい、
「いかになんじら七人、よ~く聞け。昔のとおりに草双紙くさぞうしのきまりを守っていれば、このような間違いはできぬ。それになんだ、通人つうじんのマネをしてシャレるから、本来のストーリーからはなれて、こんな結末となった。これ、すなわち、心がさだまっていないからだ。心ここにあらずで、見れども見えず、聞けども聞こえず、食えども味わいを知らずとは、なんじらのことなり。
 まことの通人つうじんは、世界に通じる本質を知りたがるゆえにつうという。それを思えば、この本の作者こそ、このような話をこじつけおって。こんなことをしては、作者とはいえない。しかし、こんなことを言っていても話が長くなる。まず、かたをつけよう。
 淡海たんかい公はもとの公家くげに立ち帰り、名を改め威福いふくとし、八大竜王はっだいりゅうおうは多くの宝を持つので内福ないふく浦島太郎うらしまたろうは玉手箱を直したので修福しゅふく俵藤太たわらとうたは元の若者にもどったので本福ほんふく山庄大夫さんしょうだゆうは元の長者となって一福いちふく八百屋おしちも今年は元服げんぷくして元福げんぷく比丘尼びくには太ってくれば多福たふく
と、七人を無理矢理むりやり七福神しちふくじんにあてはめ、船に乗って、それぞれ本国へ帰った。
と、これが正月二日の初夢にして、これが本当の大違おおちが宝船たからぶね鶴屋つるや番頭ばんとうの計算違いで、とんだ宝船たからぶねの大安売り、これで売れても、俺は知らねえ。

 


二十

 めでたく宝船たからぶねに乗って、七人の者ども、みなみな本国へ帰る。

 上から読んでも下から読んでも同じ回文かいぶんにしては、ちとうまくできていませんが、一首いっしゅつくりました。

ながめよし つうのねむりの みなめざめ
なみのりふねの うつしよめかな
 


 ちなみに、本物の宝船の絵に書かれる歌は、

なかきよの とおのねふりのみなめさめ
なみのりふねの おとのよきかな

長き夜の遠の眠りの皆目覚め
波乗り船の音の良きかな

 

歌川豊国(1769~1825)筆宝船 Wikipediaより

 


二十一

 この本のうち、七人は七福神しちふくじんとなり本国へ帰りけれども、サル、乙姫、カメの三人はいまだ片づかず、毎年、竜宮の草双紙くさぞうしにいろいろと使われるので、出版社の鶴屋喜右衛門つるやきえもんは三人をもてなし、おと様、かめ様、猿狙えんしょ様と大事にし、お子様方のおなぐさみにご覧いただきまする。
あけましておめでとうございます
 
  作者 芝全交しばぜんこう
  北尾重政きたおしげまさ 画 



 本作は、芝全交しばぜんこうの出世作となり、大田南畝おおたなんぽが絶賛している。
 江戸の人々は、こういう作品を喜んで見ていたのだろう。 


上から読んでも下から読んでも同じ回文かいぶんについてはこちら、

回文をタイトルにした黄表紙はこちら、

 

いいなと思ったら応援しよう!