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『ジェイコブス・ラダー』と軍事AIと人体実験


今回も名作映画を参考にして、前回とおなじくAIの軍事転用に関する記事の内容をつかんでいこうと思います。

【対イラン精密爆撃にAI 米軍が実戦投入】

米軍が人工知能(AI)など新型技術の投入を始めた。イランへの攻撃には「メイヴン・スマート・システム(MSS)」と呼ばれるソフトウエアを使用。従来は衛星写真から標的を絞り、攻撃するまで数時間に及ぶ作業を必要としていたが、MSSの導入で数分に短縮できたという。

日経新聞 2026/3/5


参考映画はコチラ

映画『レポマン』『ジェイコブス・ラダー』『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』

よろしければ前回もご一読ください↓



技術が人間を追い越しちゃうポンコツ世界


メイヴン・スマート・システム(MSS)ですが、OSには国防データ解析企業パランティアの「Gotham」が、そしてAIとしてはアンソロピック社の「Claude」が組み込まれてるみたいですね。

あのClaudeですよ。

オレ今ちょうど使ってるよって人も多いでしょう。自分が使ってるAIと同じプログラムを利用して米軍はイランにミサイルを撃ち込んだのか…って考えると何とも言えない気分にはなりますよね。

米国防総省は、「セーフガードを撤廃してあらゆる用途にAIを使わせろ」とリクエスト。しかしアンソロピックは「完全自律型兵器に利用するのはNGだ」と通告したと伝えられてます。

その回答を受けてトランプ大統領は「WOKE(意識高い系)な左翼企業は二度と米軍に関与させない」ってキレたとか。

人間の判断が100%介在しない「完全自律型兵器」への反対が意識高い系っていう世界観もげっそりしますが、国防総省内では「作戦計画や部隊を運営するAI幕僚を置こう」って案まで出ているそう。

AI将軍ってことですね。

字ヅラで見るとポンコツ感ありますが、現実になったらそれこそディストピアです。当然起こるであろうミス、誤射、誤爆の責任の所在は?何億回、何兆回と計算を重ねるAIが判断ミスを犯した時、それに至った「変数と係数はこれです。さあ査定して下さい」って言われたってすでに人間ができる計算量じゃないワケです。

当然そうなると、今度はそのミスを査定するAIが必要だねってなる。
その査定AIのミスは誰が査定する?

なんか以前紹介した『銀河ヒッチハイク・ガイド』的なシニカル・ギャグの世界ですよねもう。

とはいえ、人間が100%介在しない兵器がどんなに毒々しかったとしても「起こり得ることは起こる」わけです。

特に技術や合理主義プラグマティズムが何よりも尊ばれる今のご時世なら尚更です。


隠蔽された戦争中の秘密実験


1990年のアメリカ映画

『ジェイコブス・ラダー』


主人公ジェイコブはベトナム戦争帰還兵。
日々ひたすら続く痛みと心身の不調に苦しんでいます。

やがて幻覚も見るようになり、自分がどこにいるか分からなくなることも頻発。いつもの駅から出られなくなり、不穏な雰囲気の電車の中からは悪魔なのか怪物か、不気味な形をした生物がジェイコブを見つめています。
自分の後を追いまわしてくる車の中にも人ならぬモノの影。

パニックを起こすジェイコブの前に現れた戦友もまた、同様の状況に怯えきっています。

「ヤツらは突然やってくる。誰も信じられん。軍がなにか隠してるんだ。俺たちは陸軍に頭を細工されたんだよ」

ジェイコブの異変はますます悪化。
かかりつけの医師は突如消え失せ、政府機関には付け狙われ、あげく「お前はベトナムには行ってない。タイで訓練中に除隊した、嘘つきめ!」と罵倒される。

ジェイコブの存在、それ自体が徐々に揺らいでいきます。

これは以前『アメリカン・スナイパー』『さらば愛しき大地』の回で紹介した従軍後のPTSDについての映画なのかな?と思いきやちょっと違います。

混乱していくジェイコブ。元科学者から衝撃の事実を告げられます。

「私は1968年サイゴンの化学戦争班にいて秘密実験をしていた」

ベトナム戦争中、政府の依頼で「人間の闘争本能を最大限に増強させる」強力なドラッグ、通称”ラダー(階段)”を開発し、秘密裏に米兵たちに投与していた。そしてその薬物をジェイコブが所属していた小隊にも使ったと。

ジェイコブはそこで初めて、戦場で何があったかをはっきり思い出しました。強力な薬物で錯乱した兵士たちによる、味方同士の凄惨な殺し合いを。



倫理と道徳は後からやってくる


映画の最後にはこんなエピグラフが表示されます。

幻覚剤BZがベトナム戦争で実験的に使用されたと言われたが国防省は否定した

「MK-ULTRA」や「エッジウッド実験」というプロジェクト名称をご存知の方も多いと思いますが、1950〜1970年代まで米政府が実施していた秘密の人体実験に使用された薬物がBZ、キヌクリジニル・ベンジラートです。

数日も続く強烈なせん妄・幻覚が特徴で、中世の魔女も使っていたという毒花・ベラドンナの有効成分を抽出したものが原料なんだそうです。

ベラドンナ
猛毒ゆえ「魔女の花」の異名を持つ

なぜこんな薬を実験していたかといえば、
・自白の強要
・記憶の消去・改変
・人格の分解と再構成

などなどのため。

ソヴィエトとの冷戦下の当時ですから、様々な工作活動の遂行が目的としてあったんですね。特にCIAの機関員や、ジェイコブのような従軍兵士に無断で投与されていたことが知られてますが、これは敵戦力への攻撃や要人の暗殺をスムーズに強制するためだと言われてます。

BZのほかにも、LSDやブフォテニン、アンフェタミン、ケタミンなどあらゆる薬物が人体実験に使用されました。

端的に「非道」としか言いようがないわけですが、現実にこれらの実験が行われた事実から分かるのは

技術は常に「倫理や道徳」より先に進む

ということです。
精神を変容させる植物アルカロイドが発見されたとなれば、それを使って気持ちよく酔いながら、星空の下で音楽を奏でる人もいるでしょうが、

「これを飲ませて工作員の精神を破壊して洗脳してみよう」


なんてひらめく人間も同時に存在するわけです。倫理や道徳はその後で、ゆっくりと歩いてやってきます。


冒頭に書いた軍事AIの件もこの典型例ですし、冷戦時代の東ドイツにて国家ぐるみで行われていたスポーツ選手への違法薬物によるドーピングもそうでしょう。

批判も多いけどなかなか規制が進まない各種SNSプラットフォームなんかも同様ですよね。

その技術に「目的」が接続されると、特に国家とかビッグマネーとか大きなものと結びつくと、その技術の推進力はますます強力になり、倫理や道徳は一層遅くなってしまうって状況は体感的に想像しやすいかと思います。


あれもそうですよね、「スタンフォード監獄実験」

Philip Zimbardo, CC BY-SA 4.0

被験者を「看守役」と「囚人役」に無作為に振り分けて閉じ込めるだけで、権力の暴走は簡単に起きる。そのことを証明したと言われる有名な心理実験。

近年この実験に関しては、主催した心理学者が「看守役」に指示を与えていた事が明らかになったとかで実験結果の信ぴょう性が怪しまれてますが、イカサマをしてでも自分の想定する実験結果を出そうとしたこと自体が「技術は常に倫理や道徳より先に進む」ことを証明してるようにも思えます。

こういった人間性を無視したような「目的」って極悪非道なものとして語られる事が多いわけですが、必ずしも「悪」だけとは限らないっていうのもポイント。


人体実験とか精神破壊とか世界征服とかそういった事じゃなく、いわゆる「善いこと」と結びついた場合も、やはり倫理や道徳を置いてけぼりにしてしまうことがあります。

1947年/東京

例えば太平洋戦争での敗戦後、食糧難の日本において飢餓状態になった子供たちを救うため、アメリカが中心となって食糧の緊急輸入や「学校給食プログラム」が始められました。「ララ物資」とか「脱脂粉乳」なんて言葉を覚えている人もいるかもしれません。

この福祉計画を進めたのがアメリカ陸軍軍医准将、クロウフォード・サムス。これ一見すると素晴らしい取り組みに思えますが、いや実際素晴らしくはあるんだけど、なんだかどうもキナ臭いところがある。

「(学校給食プログラムでは)児童に脱脂粉乳や肉類のような食品の味を覚えさせるのが目的であった。長い年月かければ、白米中心という日本国民のそれまでの食習慣を変えさせることができると考えた」

サムスにはそこに住む人に対して調査対象としての執着はあるが、そこにいるのがひとりの生きた人間であるという感覚が薄い。

日本の飢えている児童に対する目線に「実験」という感覚がぬぐいがたく存在している。

藤原辰史「給食の歴史」より

嬉しそうに、夢中になって給食を食べてる子供たちをジーッと冷たい表情で観察してる軍服の男。

そんな図を想像するとなんかゾッとします。


ジェイコブと『キャプテン・アメリカ』


幻覚剤”ラダー”による人体実験の道具にされたジェイコブ、その運命の結末は本編にてご確認頂ければと思いますが、どんでん返しのキメ方が見事で「ああ良い映画観たなあ」って思います。

昨今は「どんでん返しのためのどんでん返し」みたいなのも多いじゃないですか。その辺この『ジェイコブス・ラダー』はストーリーがほんとに練りこまれてますんで。ただの「わぁビックリ!」を超えた、感情を動かす高品質などんでん返しとなっております。

可愛い息子役のマコーレー・マコーレー・カルキン・カルキンもたまらないですよね。なんとも切ない。

最後になってしまいましたが、『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』ってありましたでしょ、MCUシリーズの。
あれなんか完全に「MK-ULTRA」とか「東独ドーピング」ネタの映画ですよね。

ガリガリ痩せっぽっちのクリス・エヴァンスが極秘人体実験で超人血清を注射したらポン!ってマッチョ・エヴァンスになって大人気!大活躍!ドカーン!ってさ、作り物の映画ではあるけどさ、さすがに毒々しかったですよね。

ホント、便利で効率的なら人間に対して何やっても良いと思ってんのかなって怖くなります。「目的が善なんだから別にいいんじゃない?強いし」って軽いノリもあってすごく不気味。

東独のドーピング被害者たちがみなその後の人生を壊され、いまだ後遺症に苦しんでいる事を考えると、『キャプテン・アメリカ』=スティーブ・ロジャースの健康被害の有無は?って気になるし、MCUからの引退だって背景には心身の深刻な不調がもしかして?なんて勘ぐってしまいます。

あるいは人体実験視線では
スティーブ・ロジャース→ 成功
ジェイコブ→ 失敗
って身もフタもない解釈をもって観る事もできるので、セットで観るのがおすすめな人体実験映画2作品なのかもしれません。


さて来週は、羨望と貪欲と暴力と『攻殻機動隊』ということで書いてみようかと思います。
次回もまたどうぞ宜しくお願い致します。


<続>


※2025年秋 4Kレストア版が劇場公開されましたね


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