十一月歌舞伎座 吉例顔見世大歌舞伎 昼の部(前半)感想
鑑賞日:2025年11月8日(土)
今月の歌舞伎座は顔見世興行。昼の部はバラエティに富んだ四演目が並び、贅沢そのもの。重鎮から花形、若手まで、顔ぶれもにぎやかでした。
*以下敬称略。
御摂勧進帳(ごひいきかんじんちょう)
加賀国安宅の関の場
『御摂勧進帳』は全六幕の義経奥州落ちを中心とした顔見世狂言*で、「加賀国安宅の関の場」は五幕目。兄頼朝に追われ奥州藤原秀衡を頼って落ちのびようとする山伏姿の義経一行が難所の安宅の関を通過する様子を、おおらかな江戸の荒事風味たっぷりに描いた演目です。初演は安永2(1773)年で、歌舞伎十八番『勧進帳』(初演天保11/1840年)よりも前。
前半は『勧進帳』でもおなじみの場面。弁慶が白紙の巻物を勧進帳だと偽り即興でつくった文面を滔々と読み上げ、強力(荷物持ち)に扮した義経の変装を見破られないように涙を呑んで主人を打ち据えます。後半はこの演目ならではのシーンが続きます。義経たちを先に行かせて後に残った弁慶が、嘘泣きをしたり番卒たちをやっつけたりと大活躍。最後に、番卒たちの頭を引っこ抜いて大きな天水桶に放り込み、二本の金剛杖で水をかき回して桶の中の頭を洗います。『御摂勧進帳』の別称、「芋洗い弁慶」はこの場面にちなんでいます。
五本車鬢に毬栗頭で荒事らしくまさに豪快で稚気溢れる巳之助の弁慶をはじめ、強力姿でも隠しようのない気品を醸し出す新悟の義経、成長ぶりが感じられる男寅の鷲尾三郎、凜として涼やかな若侍ぶりで魅せる橋之助の富樫など、花形の勢いに満ちた舞台。一行を引き留める意地の悪い鎌倉方の斉藤次は市蔵が好演。コントラストの効いた華やかな色彩、その独特の彩りを人の配置によって絶妙なバランスで最大限に引き立てる構図も古典ならではの醍醐味です。

道行雪故郷(みちゆきゆきのふるさと)
新口村
近松門左衛門作人形浄瑠璃、三巻もの『冥途の飛脚』下巻の、恋の逃避行「新口村」を舞踊仕立てにした作品。中巻「封印切」に続く場面です。「封印切」は、『冥途の飛脚』の改作『けいせい恋飛脚』を元にした歌舞伎『恋飛脚大和往来』でも人気で繰り返し上演されています。その「封印切」で、愛する梅川を身請けするため公金に手を付けてしまった忠兵衛は、今でいう横領の罪を犯したわけで、捕らえられれば死罪。残された道は心中しかないと思い詰め、二人が雪景色の忠兵衛の故郷にたどり着いたところから本作は始まります。
雀右衛門の梅川、扇雀の忠兵衛が、大人の色気を放つ熟練の演技で哀愁と恋情を表現。雪に映える黒地に比翼紋(二つの紋を少し重ねて並べた紋)と裾模様を配した揃いの衣装を纏い、裸足で歩く二人。梅川の赤の返し襟が際立ち、ビジュアルも美しいかぎり。二人の事情を察し励ますように万才を披露する錦之助の鶴太夫が、暗く沈みかねない舞台に軽やかさと華やぎを添えます。綺麗なだけではない、芸の厚みあればこその心に強い印象を残す演し物。
*顔見世狂言とは
江戸時代、江戸で11月、京坂で12月の顔見世興行で上演された特殊な狂言のこと。江戸で11月だったのは、古代中国周王朝で正月を11月としていたことにあやかったという説があります。江戸では9月12日に、座の立作者の原案にもとづいて、世界定(せかいさだめ)で世界を決め、脚色。世界を定めるためのいわば種本として参照したのは『世界綱目』(下の画像)。1日の狂言は一番目(時代物)と二番目(世話物)で構成、一番目序幕では神社の回廊に場面をとり、『暫』や『だんまり』を演じること、二番目序幕は裏長屋などの晒屋で雪降りの場を出すことなど各種約束事があり、京坂は三幕で徹夜興行と決まっていました。

*各画像周囲余白をトリミング
参考文献:『新版 歌舞伎事典』平凡社、『最新 歌舞伎大事典』柏書房、『増補版 歌舞伎手帖』角川ソフィア文庫、『第3版 歌舞伎ハンドブック』三省堂、公演筋書き
*余談ですが、11月10日に橋之助さんがご婚約を発表されました。おめでとうございます。お相手は『ポーの一族』で共演なさった能條さんとのこと。原作のファンで、配信でしたが同公演は拝見したので、なれそめに立ち会えたような気がして不思議な感じです。末永くおしあわせに。
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