靴にすべてを賭けた男の40年|フィル・ナイト『SHOE DOG(シュードッグ)』レビュー
周りにいる人がすごく大事だということを突きつけられる一冊です。ジョンソン、バウアーマン、日本の鬼塚との出会い。すごい人たちが集まってきて、結果としてすごいブランドになった。起業家のストーリーとしても面白いし、シュードッグやブルードッグと似た構造を持つ創業記ですが、何よりチームの力を感じる物語でした。
40年前を振り返って書いているフィル・ナイトの文章からは、人生って一瞬で過ぎ去るなということを感じます。一年一年があっという間に過ぎていくし、どんなに信念を持って一日一日真剣にやっても一瞬で飛んでいく。だからこそ一日一日を無駄にしたくないし、しっかりフォーカスしていかないとまずいのだと思わせてくれます。
📖 この本を読むべき人
起業家のリアルな創業ストーリーを知りたい人
チームビルディングや人の巻き込み方に興味がある人
「好きなこと」を仕事にする道を模索している人
感想
周りにいる人が大事だというのが一番の感想です。ジョンソンは「ナイキ」という名前を考え、売り込みをし、サンディエゴやLAで店舗を回してオペレーションを担った。車椅子の人は手術代に貯めていた貯金を全て出して負債の支払いに充てたのに、書面も何も残さなかった。出てくるキャラクター全員が本当に魅力的で熱狂しています。
結局2冊続けて「物を売る系」の創業ストーリーを読んで思ったのは、キャッシュに対しての敏感さが他の企業に比べて段違いだということです。今どきのスタートアップ的なお金の集め方をしているわけではないので、会計が大事とかお金が大事とかいう話を全て飛び越えた、シンプルなストレスがそこにはあります。
意外だったのは、フィル・ナイトが思ったよりも他の仕事で食いつないでいるということです。アカウンタントの仕事をしたり、大学で教えたりしている。信じたものを突き進める上でキャッシュが回らないなら、違うもので食いつなぐというやり方もあるのだと。普通なら資金調達して自分の会社に全力投球というイメージですが、そういう柔軟性を見せてくれました。
フィル・ナイトのすごいところは、完全に任せること。ジョンソンにもバウアーマンにも、責任を完全に委託している。レイ・クロックのマクドナルド創業記にも同じような感じがありますが、「このテンポはこの人に任せる」「このオペレーションはこの人に完全に委託する」という関係性を作れるかどうかが、組織を大きくする鍵なのだと思います。
お父さんの存在が結構大事だったのではないかと感じました。事業がすごく大変な時期でも毎晩ソファに座って、お父さんに事業の話をして相談していた。的確なアドバイスをくれたかどうかはわからないけれど、常にサポーティブに話せる存在が会社の外にいるということはすごく大事です。
一時期から1日の最後に12マイル走っていたという話も面白い。自分で考える時間、内省する時間を走るということに当てていた。散歩でも走ることでも、思考を整理する時間を日常に組み込むことは本当に大事です。
ナイキの歴史がアディダスやプーマよりもずっと後だったというのは意外でした。3大スポーツブランドとして昔から並んでいるイメージでしたが、割と遅めに出てきてここまで追い抜いたというのは燃えるものがあります。
ナイキのスウッシュロゴは他のスポーツブランドと比べても、あれほどすぐれたロゴはないと思います。アディダスの三本線もブランドと間接的につながっているけれど、ロゴがそのまま載っているわけではない。スポーツ選手が身につけているところをテレビで見て「誰々が何を履いている」とわかる世界において、あのロゴの力はすごいです。
赤裸々に全てを語っているのがこの本の特徴です。普通なら飛ばしていいところだけ書くけれど、「ハワイに残りたい」とか「理想郷がどうの」とか、そんな話まで全部入っている。ビル・ゲイツもコメントしていましたが、あそこまで赤裸々に全てを語っている起業家は少ないと思います。
当時、ランニングという行為自体に全然肯定的なイメージがなく、ビール瓶を投げられるレベルだったというのは驚きです。今では考えられないですが、そのネガティブなイメージを変えようと頑張っていたコアコミュニティの存在があった。バウアーマンがオリンピックチームを率いるコーチレベルだったからこそ、周りにランニングにセンシティブな人が集まったのだと思います。
輪読会で議論したこと
ジョンソンという存在
「ジョンソン欲しい」が輪読会の合言葉になりました。ナイキという名前を考え、店舗をオペレーションし、5000通もの手紙を書いて本社に送り続けた。ソーシャルワーカーになろうとしていたのを引き留めてくれて本当に良かった。会社に忠実な人を初期に入れておくことの重要性、ナンバー2が会社を大きく左右するということを改めて感じます。
フィル・ナイトは手紙の返事を全然書かなかったし、ちょっとでも褒めてほしいと言っても褒めなかった。忙しかったのか、放っておいてもいいと思ったのかわからないけれど、それでもジョンソンは独自で試行錯誤して改善していった。そういう人がつもりつもってチームとして大きなものを作り出すのかなと思います。
日本との深い関わり
日本がめちゃくちゃ出てくるのが嬉しい反面、ちょっとハラハラもしました。鬼塚との関係は、日本人としてはかなり気になる部分です。「あれがスタンダードだと思われたら困る」という声もありました。
一方で、日商岩井のスメラギさんは好きでした。日商岩井がプライベートバンク的、ベンチャーキャピタル的な存在として機能していたというのは日本人として誇らしいです。「好きだったからわざと支払い期日を遅らせていた」という情緒あふれるエピソードも面白い。アイスマン伊藤は最初「またこいつ日本人のイメージ下げるのか」と思ったけれど、最後の方はめちゃくちゃかっこよく描かれていて「俺は伊藤だ」と武士道が出ていた。
手紙でのやり取りという時代
日本とアメリカの間で手紙でやり取りして事業が進むという時代。在庫管理も契約も全部手紙です。今ではメールやメッセンジャーで一瞬でやり取りできるけれど、コミュニケーション手段が変わったことで感情の共有はしやすくなったのか、それとも逆にしにくくなったのか。
Zoomでピッチするよりも、フィル・ナイトのようにわざわざアメリカから来た若者が目の前に現れた方が印象に残るだろうし、「How to do business with Japanese」という本を暗記していたというエピソードも含めて、当時ならではの人間臭さがあります。
フィル・ナイトのキャラクターは見えたか
周りの人が集まる理由として、事業そのものの魅力(ランニング界隈の通な人にアプローチできた)という説と、フィル・ナイト自身のキャラクターの魅力という説がありました。正直、本を読んでいてフィル・ナイトのキャラクターがそこまで見えなかったというメンバーもいて、どうしてあそこまで人が集まったのかをもう少し知りたいという声がありました。
真ん中にいてしきっている人間がひどかったら周りはついてこない。でもフィル・ナイトの場合は完全に任せるスタイルだったからこそ、自律的に動ける人が集まったのかもしれません。ビジョナリーカンパニーで言われていたように、誰をバスに乗せるかが全てなのだと思います。
引用
臆病者が何かを始めたためしはなく、弱者は途中で息絶え、残ったのは私たちだけ
「自分の価値は、自分に関わる人たちで決まる」(映画『最高の人生の見つけ方』より)
天職を追い求めてほしい。天職とはどういうものかわからずとも、探すのだ。天職を追い求めることによって、疲労にも耐えられ、失意をも燃料とし、これまで感じられなかった高揚感を得られる
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