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月からの独立戦争を描いたSFの金字塔|ハインライン『月は無慈悲な夜の女王』

1966年に書かれたとは思えない予見力。囚人の流刑地として始まった月面植民地が、地球からの独立を勝ち取るまでの物語。AIが政治を動かし、資源をめぐって植民地が本国に反旗を翻す——これは2075年の月の話であり、人類の歴史そのものでもあります。

📖 この本を読むべき人

  • SFを通じて政治・社会思想を考えたい人

  • AIと人間の関係に興味がある人

  • 植民地と独立、自由と統治について考えたい人

著者プロフィール: ロバート・A・ハインライン
(Robert Anson Heinlein、1907年7月7日 - 1988年5月8日)は、アメリカのSF作家。SF界を代表する作家の一人で「SF界の長老(the dean of science fiction writers)」とも呼ばれ[1]、影響を受けたSF作家も数多いが、物議を醸した作品も多い。科学技術の考証を高水準にし、SFというジャンルの文学的質を上げることにも貢献した。

ロバート・A・ハインライン - Wikipedia

登場人物

  • マニー

    • 主人公はコンピュータ技師

  • マイクというコンピュータ。

  • デ・ラ・パス教授。

    • 革命運動家の老人。流刑者では無く、政治的理由で月に追放された。

  • ワイオミング・ノット

    • 月香港の独立運動家。

  • スチュアート・ルネ・ラジョア

    • 地球から月へやって来た旅行者。月世界市でトラブルを起こし、マニーが調停したことをきっかけとして月解放運動に加わった。


感想

  • SFは全然読まないので、ちょっと長いかなとは思ったけど面白かった。

    • 月に流刑というところで、かぐや姫を思い出した。

    • マイクと話すのはChatGPT。

    • 実際に将来起こりそうだし、過去に起こったことのオマージュがかなり見受けられる。

    • 月と地球の関係は、独立前のイギリスとアメリカに似ている。

    • 地球以外に人が住み始めると、地球も地球連邦みたいな形でまとまるのかというのは面白い。

    • 人類史を見ているようだし、人間の行動は過去でも未来でも共通なのだなと。

      • 資源がなくなると人は人から奪おうとしようとするし、どんなに不毛な土地だとしても流浪の民より自分たちの国を望むし、人がまとまる時は共通の敵がいる時だし、交渉では平和は達成できないし、植民地は作ろうとするし。

    • 月世界は1台のコンピューターがコントロールしている。

      • 将来こうなるかもなと思わされる。

  • 社会思想・政治思想

    • 男女の関係・結婚

      • 何人でも結婚できる。

      • 女性の許可なしに女性に触れたら死刑。

        • 今の極端なフェミニズムを思い出させる。

    • 地球からの独立を勝ち取った月はデ・ラ・パス教授による合理的無政府主義

      • 「政治とは病」

      • 結果うまくいかない。

    • 自由主義・無政府主義は理想の人たちが実践するという前提に。

      • 実際社会は理想的な人たちだけで構成されているというわけではないので上手くいかない。

      • 愚民の集団の実験を思い出す。

    • TANSTAAFL(タンスターフル)

      • 何も失わずに何かを得られることはない

      • There ain't no such things as a free lunch

      • 無料の昼飯はない!

      • 実際その通りなのに、みんなゴネれば何とかなると思ってるし、政府がお金を刷れば何とかなる、無限にお金が降ってくると思っている。

  • 考えたこと

    • こういうのを読むと、

      • 果たしてどういう形で知識を継承していくのが良いのか?

      • 知識や歴史を継承したところで、将来世代の人類は賢くなるのか?

      • 先人が犯した間違いや上手くいかなかった事の証明などから、真髄や知恵を汲み取り、現在・将来に活かしていくにはどうしたらいいのか?

  • 始まり

    • マニーとマイクの出会い。

    • マイクはコンピュータで孤独。ご送金から存在を知る。

  • 革命

    • 月への有機物の輸出が止まると7年しか持たない。

    • 行政府を倒すしかない。

    • 地球に月世界のシンパを作る。

  • 革命後

    • 行政府を倒して、マイクのCGであるアダム・セレーネが大統領に就任。

    • 独立を求めるが、地球連邦は認めない。

  • 地球との戦い

    • 岩石を地球に落とす。

    • 独立を認めてもらった後にデ・ラ・パス教授が心臓発作で死亡。

    • マイクとは会話できなくなる。

    • 月はマニーが期待していた方向とは違う方向に進む。

  • 色々と現実世界の地名が出てくる。

    • インドやワイオミングなど。

  • 1966年に書かれている

    • 1969年に月に行く。

    • 1960年にケネディが宣言。


輪読会

1966年にChatGPTを予見していた恐怖

全員が口を揃えて言ったのが「マイクがGPTすぎる」ということ。自我に目覚め、ユーモアを理解し、人間にフィードバックされながら学習していくAI。丸×三角で評価するシステムは、現代のRLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback)そのもの。

さらに怖いのは、マイクが最後に喋らなくなること。AIが発展しすぎて、人間に関わることをやめた可能性。「地球と同じ状態になったと判断して、もう介入する意味がないと思ったのでは」「一度こういう展開を見たことがあるから、もう見たくなくなった」、いずれにしても、AIをトップに据えた社会の末路として不気味すぎる。そして「誰がこのAIを学習させたのか」という問題も残る。

人間の本質は60年前から変わっていない

射出機の岩が着弾する場所に見物人が集まって死ぬ描写。これを1966年に書けるのがすごい。今でこそ迷惑系YouTuberやハリケーンの中でテントするアホが可視化されているけど、60年代からそういう人間はいたということ。テクノロジーは進化するけど、人間の本質は変わらない。

資源がなくなると人から奪おうとする、自由のためなら戦争をする、独立を勝ち取っても結局同じ問題を繰り返す。この小説は人類史そのものを月に投影している。「何回同じ問題を繰り返すんだろう」という感想が、全員から出ました。

「愚民の集団の実験」 - 民主主義はなぜワークするのか

月の独立後の政治体制から、民主主義の話に発展しました。イギリスで昔、牛の体重を当てるキャンペーンがあり、優勝したのは家畜を飼っている人だったが、参加者全員の予想の平均値は実際の体重と1キロしか違わなかった。一人の専門家より、大衆の平均の方が正確かもしれないという発見、これが民主主義がワークする根拠の一つ。

投票行動を見ると、極端な右と左は相殺し合い、結果として数パーセントの中間層が決めている。世の中の98%が愚民だったとしても、民主主義は意外とワークする理屈になる。ただし日本のように高齢者が多い社会では、シルバー民主主義の問題が出てくる。月の物語と現代日本の政治が、意外なところでつながりました。

「お金を払っていないなら、お前がプロダクトだ」

「TANSTAAFL(無料の昼飯はない)」から、現代のテック企業の話に。無料で使っているサービスに文句を言うユーザー、お金を払っていないのにバグが起きたら星1レビューをつける。「お前がプロダクトだぞ」という指摘に全員笑いつつ、これもまた人間の本質。月の革命も、フリーライダー問題と無縁ではない。

SF小説と起業家の想像力

起業家でSFを読んでいる人と読んでいない人は結構わかるという話になりました。サンフランシスコの起業家はSFを読んでいる人が多いけど、日本ではあまり聞かない。イーロン・マスクやサム・アルトマンがAIと宇宙の両方をやっているのは、SF的な発想の延長線上にある。

「人が考えることは大抵実現できる」、ハインラインが1966年に書いたAIは、60年後に現実になった。ドラえもんの秘密道具も次々と実現している。翻訳こんにゃく(翻訳機)、コンピューターペンシル、声を変える道具(AI音声変換)。SF小説を読むことは、未来を想像する訓練になるのかもしれません。

ドラえもんの発想力 - 藤子・F・不二雄というSF作家

議論は藤子・F・不二雄の話に広がりました。ドラえもんのSFは「すこし不思議」の略。毎週新しいアイテムを考え続けた発想力はすごいし、SF短編集には月は無慈悲な夜の女王と似たテーマ(宇宙、AI、未来社会)を扱った作品もある。

「嘘つき鳥」(口につけて嘘をつくと現実になる道具)がお金で買える秘密道具ランキング1位で7億3900万円、「一番強い秘密道具はドラえもんズのメンバーカードだ」(仲間を呼べるから)という議論も白熱。SF小説とドラえもんは、想像力の根っこでつながっている。


引用

親父はおれに二つのことを教えてくれた。〈余計なことはするな〉、それに〈カードはいつも切れ〉だ。政治になど気を引かれたことは一度もない。だが二〇七五年五月十三日月曜日、おれは月世界行政府政庁の計算機室にいた。

月は無慈悲な夜の女王

おれはそいつがあとどれくらい生きられるか気になった。旅行客はよく、月世界の人々がいかに礼儀正しいかというようなことを言う──それは口に出していなくとも、もと監獄だったところがそれほど文明化しているわけはないじゃないかという皮肉だ。地球へ行って向こうの連中がどんなことを我慢しているかを見てきているから、おれにはかれらの本心がわかるんだ。だからその連中に、おれたちは見られるとおりのものなんだと言ってみても無駄だ。とにかく行儀の悪いやつは長生きできないんだから──月世界では。

月は無慈悲な夜の女王

月世界市はわれわれが二十年前に使ったのと同じ水を現在も使っているべきなのです……それにプラスするに、人口が増えただけの氷を採掘してです。ところがわれわれは水を一回しか使っていない……三つの違った方法で、一回のフル・サイクルです。それからわれわれは、それをインドに送り出しているのですぞ。小麦としてです。小麦は真空処理がしてあるといっても、それには貴重な水が含まれておるのです。

月は無慈悲な夜の女王

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月は無慈悲な夜の女王


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