「伝道師」か「傭兵」か|Airbnb創業者が証明した、情熱だけが世界を変えるという真実
「エアビーアンドビーの創業者は伝道師で、ウィムドゥの創業者はカネで動く傭兵だ。たいていは伝道師が勝つ」。ポール・グレアムのこの言葉が、本書の核心をひとことで言い表しています。
今回取り上げたのは、Airbnb創業者ブライアン・チェスキーの創業ストーリーを描いた『Airbnb Story』です。デザイン学校を出た無名の若者ふたりが、シリアルを売りながら食いつなぎ、世界最大の宿泊プラットフォームを作り上げた。その軌跡は、スタートアップのサクセスストーリーとして広く知られています。しかしこの本が伝えるのは、その表面だけではありません。差別問題、ゲストの死亡事故、規制当局との衝突……輝かしい成長の裏にあった壮絶な意思決定の連続が、リアルに描かれています。
輪読会では「ここまで読んでいなかった側面を知った」という声が重なりました。知っているつもりだったAirbnbが、実はこれほど泥臭い現場の積み重ねの上にあったのだという認識の更新が、この本の一番の価値だと思います。
この本を読むべき人
スタートアップの創業ストーリーに興味がある人
プロダクト・マーケット・フィットがどういうものかを知りたい人
シェアリングエコノミーの光と影の両面を理解したい人
危機の中でどう意思決定するかを学びたいリーダー
輪読会で議論したこと
危機のときコンセンサスで決めてはいけない
本書で最も輪読会に刺さった言葉のひとつが、チェスキーが危機の経験から学んだ教訓です。「危機のときコンセンサスで決めると、中途半端な決定になる。それはたいてい最悪の決断だ。危機のときには、右か左かに決めるべきだ」という言葉が、ハイライトとして何人もの手元に残りました。
最高のアドバイザーに囲まれていたのに、みんな言うことが違った。それでも全員に納得してもらおうとすると何も決まらない。逆説的ですが、優れたアドバイザーが多ければ多いほど、最終判断を自分でできる強さが要る。
輪読会では「アドバイスを聞く・聞かないのセンスがすごい」という話になりました。ポール・グラムに「ニューヨークに行け」と言われたらすぐ行く。でも自分の事業の根幹に関わるコンセプトについては、誰に何を言われても曲げない。その使い分けはファウンダーが事業に関して一番深く考え抜いているからこそできる判断です。外から見た人間の意見はその人が持てる情報の限界内でしか言えない。自分が一番考えている領域は、自分が決める。
1万人の軽いユーザーより100人の熱狂
「1万人の軽く使ってくれるユーザーよりも、100人の熱狂させるユーザーを作らなければならない」。Airbnbが初期にニューヨークのホストを実際に訪問し、写真を撮り直して掲載数を増やしていったエピソードは、この哲学の体現です。
ウィムドゥというヨーロッパの競合が「電動感がない」という理由でポール・グラムの評価を得られなかったという話も印象的でした。プロダクト・マーケット・フィットとは数字の話ではなく、誰かが本当に必要としているかどうかという感覚の話で、それを見抜ける人間が適切なアドバイスをできる。
輪読会ではここからGlaspの話にも接続しました。Glasp入会の理由として「ファウンディングストーリーへの共感」を挙げる人が多い一方で、プロダクト自体にバリューがないと使い続けてもらえない。伝道師として事業を始めながらも、プロダクトで価値を届けるという両立の難しさが、Airbnbの創業ストーリーから改めて見えてきました。
人の命を預かる事業の重さ
本書の後半で扱われる差別問題やゲスト死亡事故の章は、輪読会でも静かに重く話題になりました。法的にAirbnbに責任はない状況でも、チェスキーはゲストの遺族に支払いをして一切その事実を公表しなかった。その判断に込められた倫理観と責任の取り方が、この会社の文化の根底にあるものを示しています。
「プラットフォームが大きくなると、カバーしなければならない領域が膨大になる」という話も出ました。スタートアップのスピードが強みと言われる理由は、こういうところにある。大企業になればなるほど、どんな新しい動きにも倫理的・法的・社会的な影響への配慮が求められ、意思決定が遅くなる。
「文化が壊れることはプロダクトを作る機械が壊れること」
本書の最後に近い箇所にあるこの言葉が、今回の輪読会の締めになりました。どれだけ優れたプロダクトがあっても、それを生み出す組織の文化が壊れれば、プロダクトも壊れていく。Airbnbがここまで来られた理由は、チェスキーが事業の成長と同時に文化の維持にこだわり続けたからだと、この本は示しています。
感想
Airbnbのサクセスストーリーは知っていました。でもシリアルを40ドルで売りながら続けていた時期の話、ポール・グラムに「これはうまくいかない」と言われながらも投資してもらった経緯、ザッカーバーグからのアドバイス……こうした細部を読んで初めて、あの会社が「情熱で動く伝道師たちが続けた結果」だとリアルに感じられました。
個人的に起業のアイデア相談を受けるとき、「好きな企業・好きなプロダクトのファウンダーを挙げて、その要素を分解してみてください」と伝えることがよくあります。その分解した要素と、自分ができること・やりたい方向性・スキルを組み合わせることで、自分なりのアイデアが見えてくるからです。
その文脈で自分がよく例に挙げるのが、このAirbnbです。Airbnbには自分が特に好きな4つの要素があります。ひとつめはファウンディングストーリーの面白さ。「ゴキブリみたいだから入れてやる」と言われたYCでの話、ニューヨークへ飛んで自分たちで写真を撮り直した話、オバマの選挙キャンペーンでシリアルを配って資金を作った話……どれも突飛で、でも本気です。ふたつめはビジネスモデルの強さ。在庫を持たずにホストとゲストをつなぐだけで、利益率が高く、スケールする構造になっています。みっつめはネットワーク効果。一度マーケットを取ってしまうと競合に崩されない。最後が、価値観で世界を変えたこと。知らない他人の家に泊まるという概念自体を、Airbnbは当たり前にしてしまいました。
Glaspでもこの4つが当てはまるように動いています。ファウンディングストーリー、スケールするビジネスモデル、ネットワーク効果、そして知識の共有という価値観で世界を変えること。この本を読み直して、自分たちが目指しているものの輪郭が改めてはっきりした気がします。
「理性的な人は自分を環境に合わせる。理性的でない人が環境を自分に合わせる。だから世界を変えるのは理性的でない人だ」というバーナード・ショーの言葉を、この本は体現しています。セオリー通りに見れば誰もやらないようなことを、やり続けた人たちの話です。
この記事で掲載した引用は、Glaspの機能を使ってエクスポートしています。Kindleのハイライトをエクスポートすることに興味がある方は、以下の記事をご覧ください。
また、この本のトップハイライトは以下のリンクよりご覧ください。
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