「なぜ?」を深掘りできる人の思考術|『知的複眼思考法』レビュー
この本は物事を複数の視点から見て、自分の頭で考える力を身につけるための一冊です。構成がとても丁寧で、創造的読書で思考を鍛え、考えるために書いてみて、問いを立てて見直して、最終的には複眼思考を身につけましょうという流れになっています。
大学生向けに書かれた本という印象が強いですが、情報を早く処理することに慣れてしまった社会人にとっても、立ち止まって考える習慣を取り戻すきっかけになります。一つの現象は複数のベクトルの重なりであるという考え方は、事業の仮説を考える時にもそのまま使えるものでした。
📖 この本を読むべき人
物事を深く考える力を鍛えたい人
常識やステレオタイプから抜け出したい人
読書の仕方を改めて見直したい人
著者プロフィール: 苅谷剛彦
1955年、東京都に生まれる。東京大学大学院教育学研究科修士課程を修了後、ノースウエスタン大学大学院博士課程を修了、社会学博士。ノースウエスタン大学大学院客員講師、放送教育開発センター助教授を経て、東京大学大学院教育学研究科教授。
著書には『大衆教育社会のゆくえ』(中公新書)、『変わるニッポンの大学』(玉川大学出版部)、『学校って何だろう』(講談社)などがある。
感想
大学1、2年生向けの本。
著者と対等な立場に立つ。鵜呑みにしない。肩書などは関係無い。
一番は視野を広げるという意識を持たされるきっかけになる良い本だと思った。
本の読み方を改めて考え直すきっかけになると思った。
創造的読書で思考を鍛える。考えるために書いてみる。問いを立てる、見直す、
関係論の中で見直すというのは、他の要因を探すということ。
複眼思考というのは、T字っぽいの横っぽい。広さを求めるという点で。
Whyを求めるというところは、T字の縦っぽい。深さを求めるという点で。
輪読会で議論したこと
ABCDとラベリングの力
ABCDの話から、ラベリングが人に与える影響について議論が深まりました。過去にスタンフォード大学で行われた実験で、囚人と看守に分けただけで人はその役割通りに行動し始め、実験が取り止めになったという話。学校のクラスでジーニアスクラスと最低クラスの生徒だけを入れ替えたら、最下層に行った生徒の学力がめちゃくちゃ伸びて、もともとジーニアスにいた生徒の学力が落ちたという話もありました。
ラベルで変わるのは不思議です。能力は本来一緒で、やっていることも一緒なのに、ラベルが変わるだけでパフォーマンスが変わる。周りにいる人のレベルが高ければ自然と自分のレベルも上がるのは、目線が合っていくからなのか。「自分の年収は周りの5人の平均」という有名な説がありますが、実はもっと複雑で、友達の友達が肥満の場合でも統計的に有意に太っている確率が高いというデータがあるそうです。喫煙でも同じ。5人どころではなく、もっと広い範囲の影響を受けています。
自分でラベリングできたら最強
他者にラベリングされることは要素の一つでしかなくて、最終的には自分が自分をどうラベリングするかに依存するのではないかという話になりました。周りがビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグだったら「俺もそれぐらいだ」と思うだろうし、周りが不良少年ばかりだったら自分もそうなのかなと思ってしまう。
でも、自分が誇らしいことを常にキープしておいて、どんなことを言われてもそれさえ持っていれば、自分に近づいてやっていけるのではないか。自分の意思だけで高く生き続けられる人がいたら最強です。
ここでスティーブ・ジョブズの話が出ました。ジョブズは他者からのラベリングではなく、自分をラベリングする要素がすごく強い人だったのではないか。何かを言われて自分の認識が変わったのではなく、ただただ自分の意志に愚直に進んでいった。
ジョブズの生物学的な親は、父親は最終的にウェイトレスになっていて、母親は精神を病んで生活保護を受けている。血筋的にめちゃくちゃすごいというわけではない。それなのにあれだけの人物になったのは何なのか。実際の生物学的な親に育てられなかったということが影響しているのか。普通は親に承認されて自己意識が育つのに、その承認がなかったことが逆に強い衝動や自信の裏返しになったのかもしれない。完全に仮説ですが、そういう可能性もあるのではないかという議論でした。
子供の教育とラベリング
子供によく「頑張る子だね」と褒め続けると、本当に頑張る子になるという話が出ました。結果を褒めるのではなく、努力のプロセスを褒めた方が伸びるという研究です。なぜそうなるのか。承認欲求なのか、子供は軸がまだないから一番身近な人を喜ばせることに幸せを感じるのか。
上司から「あなたは優秀な人だ」と認められると本当に優秀になっていくという心理効果もあります。ラベリングの力は教育でもビジネスでも同じように働いています。
オーディオブック vs 活字
この本では、本を読む時に「もっともらしい内容自体を疑う余裕がある」のが活字の良さだと書かれていました。これに対してオーディオブック派のメンバーから反論がありました。
本を読んでいる瞬間に疑うのと、本を聞いた後にふとしたタイミングで目の前のものと照らし合わせて考えるのは、どちらも「疑う余裕」です。潜在意識の中に入って、歩いている時にふとその内容が思い浮かんでそれについて考える。疑う余裕を今この瞬間だけに限定する必要はないのではないかという意見でした。
確かにオーディオブックも聞き返せるし、会話の中で聞き返すのと同じ。活字だけが考える余裕を与えるわけではないという点は、この著者の主張に対する一つの反論としてありえます。
定義し直すことのコスト
ABCの話から、そもそも全ての前提を定義し直していたら会話が成り立たないのではないかという疑問も出ました。みんなある程度の常識がある中でコミュニケーションを取っているから円滑に進む。ABCDから定義し直していたら切りがない。「好き」って何?「好き」ってどういうこと?となったら永遠に進まない。
思考を深めることは大事だけど、日常のコミュニケーションとのバランスが難しい。脳はレイジーだから簡単な方に行くのをいかに防ぐか。ABCDのトリックを知った直後は意識できても、1週間後にCって言われたらまた「えっ」って思ってしまう。常にそこから抜け出し続けるのは、相当な意識が必要です。
単純化とメディア
一つのことに集約したがる傾向はメディアに顕著です。切り取ってそこだけを簡単に言って宣伝する。ラベルを貼られるとそうなっていくという話は、メディアの報道姿勢にもそのまま当てはまります。
ピーター・ティールのZero to Oneにも似た考え方がありました。パラドックスを見つけろ、問題と正面から向き合うのではなく逆説を探せという考え方は、この本の複眼思考と通じるものがあります。なぜを繰り返す過程で、存在論的にどうなっているのか、なぜなのか、を繰り返す思考プロセスは、深く知る上でも横に広げる上でも大事な基本姿勢です。
なぜかなぜを6回繰り返すと、最後は「信じているから」という主観に行き着くのではないか。知識とは正当化された確からしい情報であり、最後は主観になる。この輪読会自体がまさにこの本の実践の場でした。
引用
自分でわからないことにぶつかると、勉強不足・知識不足だと感じてしまうのです。
世界のことすべてを説明してくれる大正解がある。それを求める態度からは、ものごとには多様な側面があること、見る視点によって、その多様な側面が違って見えることは認めがたいでしょう。唯一の正解というひとつの視点からものごとをとらえようとするからです。そうした正解を求める態度は、複眼思考とは対極にある考えかたといってもよいでしょう。
複眼思考とは、ありきたりの常識や紋切り型の考えかたにとらわれずに、ものごとを考えていく方法のこと。
それでも本でなければ得られないものは何か。それは、知識の獲得の過程を通じて、じっくり考える機会を得ることにある──つまり、考える力を養うための情報や知識との格闘の時間を与えてくれるということだと私は思います。
知識受容型から知識創造型に変わるためには、どうしても考えるための批判的な本の読みかたが重要になってくるのです。
書き手の論理の進めかたを、他の可能性も含めて検討していく。つまり、対等な立場に立って、本の著者の考える筋道を追体験することで、自分の思考力を強化しようというのが、批判的読書の方法です。
1. 著者と対等になって文章を読む。書かれたものを不動の完成品だとは思わない。
2. 批判的に読書するためには二〇のチェックポイントがある。
3. その中でも重要なチェックポイントとして以下の四つをあげることができる。(1)著者を簡単には信用しないこと(2)著者のねらいをつかむこと(3)論理を丹念に追うこと、根拠を疑うこと(4)著者の前提を探り出し、疑うこと
科学的な思考には、原因と結果の関係を確定するための三つの原則があるといいます。
• 原因の時間的先行
• 共変関係
• 他の条件の同一性
1. なぜ、という問いは、考えることを誘発する。
2. なぜを問う「因果関係」を確定するには、三つの原則がある。中でも、第三の原則(他の条件の同一性)が重要。
3. 原因だと思われている要因が、じつはあまり重要でない場合(疑似相関)に着目する。そのためには、原因以外の要因が影響を及ぼしていないかどうかに目を向ける。他の社会や組織、違う時代との比較が有効なヒントを与えてくれることがある。
1. 目の前の問題(事象)は、どのような要因(要素)の複合かを考える(=分解)。
2. それぞれの要因の間にはどのような関係があるのかを考える(=相互作用の抽出)。
3. そうした要因の複合の中で、問題としていることがらがどのような位置を占めているのかを考える(=全体の文脈への位置づけ)。
この本が好きな人におすすめの記事
▶ 逆説の経営者: 死んだはずの常識を掘り起こせ|ピーター・ティール『Zero to One』
▶ 読書の質を劇的に変える「線の引き方」|一流の人の読書術を学ぶ
▶ エリートの雑談には「戦略」がある|一流のスモールトークの技術
この記事で掲載した引用は、Glaspの機能を使ってエクスポートしています。Kindleのハイライトをエクスポートすることに興味がある方は、以下の記事をご覧ください。
また、この本のトップハイライトは以下のリンクよりご覧ください。
