インテル元CEOが語る「偏執狂だけが生き残る」経営論|アンドリュー・グローブ
著者プロフィール: アンドリュー・S・グローブ
インテルの3番目の社員で第3代CEOを務め、同社を世界最大の半導体企業に成長させた。インテルでの仕事、著書や専門的な論文の結果、グローブは世界中の電子機器製造業界に多大な影響を与えた。彼はシリコンバレーの「成長期を牽引した人物」と呼ばれている。 1997年、『タイム』誌は彼を「マイクロチップのパワーと革新的な可能性の驚異的な成長に最も貢献した人物」として「マン・オブ・ザ・イヤー」に選んだ。ある情報筋は、インテルでの業績だけで、彼は「20世紀の偉大なビジネスリーダーと並ぶに値する」と指摘している。
「テクノロジーの基本ルールは、技術的に可能なことはいつの日か必ず実現されるということだ」——インテルをメモリーからマイクロプロセッサへと大転換させたアンドリュー・グローブが、企業の生死を分ける「戦略的転換点」の見極め方を語る一冊です。半導体業界の話でありながら、AIが業界の地図を塗り替えつつある今、驚くほど現在にそのまま当てはまります。
📖 この本を読むべき人
自分の業界にAIがどう影響するか考えている経営者・起業家
「まだ大丈夫」という空気に違和感を覚えている人
技術の転換期にどう判断すべきか、実例から学びたい人
感想
インテルの本ではあるが、なぜGoogleが強いのかわかる一冊だった。
技術に強い、かつ、すぐにプロダクトに活かす・試してみるという文化を作らなければいけない。
インテルの創業期の話はあまりなく、成長期・ビジネスの変革期に焦点を当てた本だった。とはいえ、かなり学びの深い本だった。
テクノロジーの基本ルールは、「技術的に可能なことは、いつの日か必ず実現される」である。という引用が響いた。本当にその通り。業界の中にいると、保守的に考えてしまうことがあるけれど、常に技術をキャッチアップしていかなければならない。
1906年まで、医薬品の原材料を公開する必要がなかった。
1968年まで、アメリカの電話事業はAT&Tの独占。その後、顧客の敷地内において、電話会社が電話会社の製品を使うことを要求できないという法律に変わった。
全体を通して、非常に痺れる内容だった。学びが本当に多く、我々の現状と共通するところがとても多い。深い。
ものの見方・視点が多様で、学びになるところが多い。
もし取締役会が新しいCEOを任命したらどうなるか?
IBMの技術者が優秀で、その彼らが脅威に思っている。
カサンドラ。危険を知らせる存在。中間管理職の営業担当。
新しい技術の採用や開発に知見がある、もしくは、積極的な人が技術担当の方が良いのだろうか?Product・ビジネス側からすると、Robustに動く保守的な運用を求めたいところ。また、枯れた技術の水平思考というコンセプトとは、どう折り合いを付けたら良いだろうか。
結構、Glaspのカルチャーと似ているところがあるなと思う。ディベートだったり、専門家読んで勉強したり、など。
輪読会で議論したこと
インテルの文化が、Googleに重なる
この本はインテルの話ですが、読んでいて真っ先に思い浮かんだのはGoogleでした。技術に強く、すぐにプロダクトに落とし込んで試す。この文化がインテルとGoogleで共通しているように感じます。
グローブ自身が技術畑の出身でありながら、長年CEOを務めたことで、ものの見方が一つの分野に閉じていない。「もし取締役が新しいCEOを任命したら、その人間は何をするだろうか」「IBMの技術者が脅威を感じているなら、それは何を意味するのか」こうした問いの立て方に、技術とビジネスの両方を深く理解している人ならではの視点を感じました。
戦略的転換点 - DeNAのモバオク転換に重なる
ちょうどこの時期、DeNA創業者の南場さんから初期の話を直接聞く機会がありました。
当時、楽天の後追いとしてECを始めたDeNAは、どれだけ頑張ってもフライウィールが回り始めた楽天に追いつけず、マーケットシェアは30%が限界だった。しかし、モバイルオークションへの転換点を見極め、パケ放題の到来を読んで張ったことで、モバオクで圧倒的1位になった。この経験から「1位になることの重要性」と「来る波を見極めて張ること」の大切さを語っていて、まさにグローブが言う戦略的転換点の実例そのものだと感じました。
さらに、モバオクのユースケースで面白かったのが、オークション目的ではなくチャットだけしているユーザーが大量にいたこと。その発見からモバゲーが生まれ、ローンチ直後の飲み会中にバズって、年間400億の利益が出たという話も印象的でした。「出ている利益は全部、次の1位になるところに張っていった方がいい」——南場さんの言葉が重く響きます。
新しいリーダーの「しがらみのなさ」と、ビジョナリー・カンパニーの矛盾
グローブは、新しく入ってくる経営者は前のしがらみがないという点で絶対的に優位に立てると書いています。Appleに戻ったジョブズが、大量のプロダクトラインを一瞬で切り捨てて数個にフォーカスしたのが典型例です。
一方で、『ビジョナリー・カンパニー』では、同じ経営者が長くカルチャーを作り続けた方が強いという話もある。この矛盾について議論した結果、「うまくいっている時は経営者を変える必要がない。経営者を入れ替える局面とは、すでにうまくいっていない時」と整理できました。つまり、この2つは状況が違うだけで矛盾していないということです。
初期バージョンで未来は判断できない
「初期バージョンの仕立てを見て、戦略的転換点の重要度を判断することはできない」。この指摘が議論を呼びました。インターネットも初期は「なんだこれ」だったし、iPhoneも「おもちゃ」と言われた。
話はPerplexityに及びました。正直、ChatGPTで十分じゃないかと感じるけど、根強い支持がある。あれこそまさに、初期バージョンで将来を判断してはいけない例かもしれない。AIの世界では次々と新しいプレイヤーが出てきていて、その中のどれが本物の転換点なのかを見極めることが、まさに今求められています。
今、我々はAIという転換点の渦中にいる
グローブたちが経験したメモリからマイクロプロセッサへの転換と、今のソフトウェアからAIへの転換が驚くほど似ている。これが輪読会の共通認識でした。
Googleですら安泰ではないかもしれない時代に、新参者が切り込めるチャンスがある。OpenAIやAnthropicがまさにそれです。グローブが言う「重要視するライバルの序列が変わるときは、何か重大なことが進行している」というサインは、今のAI業界にそのまま当てはまります。
基盤モデルがどんどん上がっていくなら、その上に乗っているだけのプロダクトはいずれ駆逐される。だからこそ、マスアダプションで得た利益を次の転換に投資し続けるしかない。枯れた技術の水平思考はマスアダプションでは有効だけれど、純粋なイノベーションの局面ではもっと技術を知っていなければならない。この危機感は、参加者全員が強く感じていました。
AIは漫画業界を駆逐するか? - 編集者の視点
輪読会メンバーに漫画編集者がいたことで、AIが漫画業界をどう変えるかという議論に発展しました。
編集者の立場からすると、AIが漫画のプロットを出しても「面白い」と思ったことがまだない。コメディやギャグは特に難しい。一方で、美少女イラストは既にプロと見分けがつかないレベルに達している。作画の補助としてAIを使う作家は実際にいて、レベルも高い。
ただ、議論の核心はそこではなく、「漫画業界の外から、技術だけわかる経営者がディスラプションを起こすのではないか」という点でした。TikTokの構造、コンテンツを自動生成し、機械学習でA/Bテストし、良いものだけをディストリビュートするを漫画やアニメに適用したら?まさにグローブが書いた「全く違う業界からテクノロジーを使ったディスラプション」そのものです。
漫画という文化を残したいなら、パラノイアでなければならない。
人類の知的体力はどうなるのか - 無知は力なり
議論は最終的に、AI時代の人類の知性というテーマに行き着きました。MITの研究では、AIを使う学生と使わない学生で思考力に明確な差が出ている。ただし、最初に自分の頭で考えてからAIをフィードバックに使った学生は、むしろ思考力が向上したという結果もある。
問題は、「まず自分で考える」ことを意識的にできる人が、人類のトップ何パーセントかしかいないのではないかということ。AIがレコメンドするものだけ消費して、何も考えない人間が増えていくと、知的な二極化が進み、「山が2つできる」分布になっていくのではないか。
輪読会の最後、誰かが言いました。「戦争は平和なり、自由は奴隷なり、無知は力なり」。ジョージ・オーウェルの『1984年』の言葉が、冗談で済まなくなる日が来るかもしれないと。
引用
事業の成功の陰には、必ず崩壊の種が存在する。成功すればするほどその事業のうま味を味わおうとする人びとが群がり、次々に食い荒らし、そして最後には何も残らない。だからこそ、経営者の最も重要な責務は、常に外部からの攻撃に備えることであり、そうした防御の姿勢を自分の部下に繰り返し教え込むことだと思う。
第一に、ほかと比べても大差のないものを無闇に差別化しない、ということだ。顧客に実質的なメリットもないのに、競合企業を出し抜くためだけに、改良するのはやめておくことだ。
そして3つめに、市場に受け入れられる価格をつけること、販売する量を設定して価格をつけること、である。そして、猛烈に働き、その価格で利益が得られるようにすることだ。
テクノロジーの基本ルールは「技術的に可能なことは、いつの日か必ず実現される」ということである。
ここで一番重要なことは、われわれが今まで通りR&D、すなわち研究開発に重点を置いていたということだ。結局のところ、われわれはテクノロジーを基盤としている企業であり、すべての問題は技術的に解決できると考えていた。
「もしわれわれが追い出され、取締役会が新しいCEOを任命したとしたら、その男は、いったいどんな策を取ると思うかい?」 ゴードンはきっぱりとこう答えた。 「メモリー事業からの撤退だろうな」。
新しく入ってくる人たちが、経営者やリーダーとして前任者より能力があるとは限らないだろう。しかし、ひとつだけ前任者より確実に優れている点があり、それがおそらく非常に重要な点なのだ。それは、自分の全人生を会社とともに過ごし、現状の混乱の原因に深く関わってしまった前任者と違い、新しい経営者には思い入れやしがらみがない、という点だ。すなわち、現況においても割り切ったものの考え方ができ、前任者よりはるかに客観的に物事をとらえることができるのである。
したがって、ビジネスの基盤が根底から覆される状況で、その時の経営陣が引き続き経営に関わっていきたいと望むならば、知的で客観的な部外者の目を持たなくてはならないのだ。経営者は、過去の感情的なしがらみにとらわれずに、戦略転換点をくぐり抜けるために必要なことをしなければならない。
主要なライバル企業の入れ替わりがありそうか。まず、一番の競争相手が誰なのかを明らかにするため、私が「銀の弾丸」と呼んでいる診断法を試みるとよい。方法は次の通り。仮にピストルに弾が一発しかなければ、どの競争相手を射止めるために取っておくか、といきなり尋ねる。このようにすると、たいていの人は本能的に反応し、あまりためらわずに答えられるものだ。答えが以前ほど明快でなくなったり、以前にはどうでもよかったような競争相手の名前が出てきたりする場合には、特別の注意を払わなければならない。重要視するライバルの序列が変わるときは、何か重大なことが進行している兆候であることが多い。
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