見出し画像

あんた、それ楽しい?





時々、急に思い出す人がいる。

高校時代の友人だ。

私は今でこそ、一人で焼肉にも山岡家にも行くし、ファミレスにもスタバにも入れる。

けれど、高校生の頃は違った。

友達がトイレに行くなら一緒に行く。
買い物に行くならついていく。
友達が好きな先輩を見に行くと言えば、特に興味がなくても一緒に行く。

友達とは、そういうものなのだと思っていた。

そんな私に、彼女が言った。

「貴美子、あんた、それ楽しい?」

たぶん私は、その時まで考えたことがなかった。

自分が楽しいかどうか。

誰かに合わせることが、友達でいるために必要なのだと思っていたから。

その言葉を聞いてから、私は友達が先輩を見に行く時についていくのを徐々にやめていった。

けれど、友人関係は何も変わらなかった。

ついていかなくても、友達は友達だった。

今考えると、あの一言は、私が「自分はどうしたいのか」を考える最初のきっかけだったのかもしれない。

彼女は、私よりずっと活発で、目立つタイプだった。

私はその隣にくっついていた一人。

取り巻きというほどでもないし、スネ夫ほど要領が良かったわけでもない。

どちらかといえば、のび太に近かったと思う。

いじめられていたわけではないけれど、自分から前に出るタイプでもなかった。

そんな私が、修学旅行では、じゃんけんに負けて班長になった。

その時、彼女と、同じ班の別の女の子との間で、少し揉め事が起きた。

詳しい内容はもう曖昧だけれど、私は突然、班長としての使命感に目覚めたらしい。

「しゃーない。班長の私が、その子に言ってくる!やってやるぜ!やらねばならぬ!」

漫画『動物のお医者さん』の犬ぞりのような勢いで宣言した。

すると彼女は、

「お願い!それだけはやめて〜!」

と、必死に止めた。

だから私は行かなかった。

本人が望んでいないのに、勝手に話を大きくするのも違うと思ったのだろう。

彼女の強張った表情を緩めたくて、わざとおどけて見せた。

その後どうしたのかというと、問題の相手とは少し距離を置き、私は犬のように振る舞って、彼女にお菓子をねだった。

結局、飴か何かを買ってもらったような気がする。

私の記憶では、それだけだ。

何も解決していない。

立派な班長でもない。

注意しに行ったわけでも、誰かを説得したわけでもない。

ただ大騒ぎして、止められて、最後はお菓子をもらっただけだ。

けれど、ずっと後になって彼女は言った。

「あの時、貴美子があぁ言ってくれたの、忘れないよ」

私は驚いた。

だって、私は何もしていないと思っていたから。

彼女は、結果ではなく私の気持ちを受け取ってくれていたのだ。


そんな風に、お互いの不器用さや優しさを笑い合える時間が、ずっと続くのだと信じて疑わなかった。

そんな彼女と、ずっとこのままの関係が続くと思っていた…。


彼女はその後、二人目の子どもを出産したあとに、重い脳の病気になった。

話すことができなくなり、身体も自由に動かせなくなった。

私は結婚前に一度病院へ会いに行った。

ご主人から、

「昔の話は覚えているみたいだよ」

と聞いた。

話しかけると、彼女は時々、少しだけ笑った。

どこまで伝わっていたのかは分からない。

あの修学旅行のことを覚えていたのかも、分からない。

けれど私は今も、彼女の「あんた、それ楽しい?」を覚えている。



最近、高校の合同同窓会があった。

私はその頃体調が悪くて参加できなかった。

彼女は高校の同窓会の学年代表をしていた。

だから同窓会のことを知った時、ふと思った。

彼女が亡くなったことを、ご主人は同窓会の人たちに伝えているのだろうか。

彼女が学年代表をしていたことを、今も覚えている人はいるのだろうか。

昔の仲間が集まる場所に、彼女の記憶も残っているのだろうか。

もちろん、今となっては確かめようのないことも多い。

それでも、時々考える。

彼女のことを、今も思い出している人がいるのだろうか、と。

そして今日、私はまた彼女を思い出した。

「あんた、それ楽しい?」

あの時、私に、自分の気持ちを尋ねることを教えてくれた人。

私が何もできなかったと思っていた出来事を、

「忘れない」

と言ってくれた人。

人に残るのは、立派な解決ではなく、
自分のために動こうとしてくれた気持ちなのかもしれない。

人は亡くなっても、言葉や記憶の中から、突然こちらに話しかけてくることがある。

今日は、そんな日なのかもしれない。



#うつ病 #メンタル #日常 #暮らし #40代の暮らし
#自分を大切に #無理しない
#疲れたときに #心の余白 #回復時間 #ちゃんと休む  #函館 #ひとり時間 #整える時間


#CoinBridge (コインブリッジ)
構造を言語化し、現場と制度をつなぐ

現在は療養中のため、無理のない範囲で地域活動やボランティアに関わりながら、日々感じたことを発信しています。

現場で感じた違和感や、制度との間にあることを、少しずつ言葉にしています。

はじめて読んでくださった方へ。私の活動やCoinBridgeについては、こちらをご覧ください。

いいなと思ったら応援しよう!

貴美子|構造を言語化する人 よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費や将来の居場所カフェ運営に使わせていただきます。