「円谷プロは昔から経営が下手だ」という誤解〜円谷HD株主総会総括〜
特撮マニアの間で「円谷プロは昔から経営が下手だ」といった言い方を見かけることがあります。しかし、現在の円谷プロをそのイメージで語るのは、正直雑な見方だと思います。
確かに、昭和・平成期の円谷プロには経営面で苦しい時期がありました。作品の評価や特撮技術の蓄積とは別に、会社経営としては不安定な面もあったことは否定できません。
ただし現在の円谷プロは、かつての円谷プロとは経営母体そのものが異なります。フィールズ、つまり遊技機(パチンコ・パチスロ)の企画・販売を主力としてきた企業の傘下を経て、現在は円谷フィールズHD体制の中にあります。遊技機事業を強い収益エンジンとして持つ、IP企業グループの一部になっているわけです。
つまり、今のウルトラマンは「経営の弱い特撮会社が苦労しながら作っている作品」ではありません。良くも悪くも、巨大なIP循環型ビジネスの中で展開されるコンテンツなのです。
だからこそ、現在のウルトラマンを批評するなら、「昔から円谷は経営が下手」という古臭い印象論ではなく、円谷フィールズHDという新しい経営体制の中で、何が改善され、何が新たなリスクになっているのかを見なければ、的を得た議論にはなりません。
遊技機を収益エンジンとするIP企業へ
2026年6月17日(水)に開かれた円谷フィールズHDの株主総会資料を読むと、現在の成長戦略はかなり明確です。
短期的には、フィールズの遊技機事業で利益を稼ぎ、その収益を円谷プロ、アニメIP、物販、映像事業へ再投資する。いわば「遊技機を収益エンジンとしたIP循環型ビジネス」です。
遊技機事業は短期的な収益力が高く、その利益をIP投資へ回すことで、作品やキャラクターを長期的な資産として育てることができる。しかも株主総会の質疑応答では、3期連続で過去最高益を更新している一方で、株価が下落基調にある現状を重く受け止め、利益を将来の成長投資へ振り向ける方針が語られています。
つまり現在の円谷フィールズHDは、経営が弱い会社ではありません。むしろ、利益を出したうえで、その利益をどこへ投資し、どのようにIPを伸ばすかという段階に入っている。
ただし、ウルトラマンファンとして見ると、そこには複雑な感情もあります。
ウルトラマンは、子ども、家族、ヒーロー、公共性、教育的価値と強く結びついてきたIPです。一方で、円谷フィールズHDの現在の収益エンジンはパチンコ・パチスロです。
ウルトラマンという“光”の物語が、巨大な収益化装置の中に組み込まれていく。そのこと自体に、一定の危うさを感じるのも事実です。
しかし、ビジネスとして稼がなければ作品は続きません。理想だけではIPは維持できない。だから収益化そのものを否定するつもりはありません。
問題は、何を守りながら広げるのかです。
ウルトラマンが持っている正義、共存、やさしさ、子どもへの誠実さ。そこを失って商品展開だけが広がっていけば、短期的に収益が上がっても、長期的にはIPの求心力は弱まってしまうのではないかと、私は思います。
※6月17日の株主総会の決算概要に関してはこちらのnoteが、わかりやすくまとめられています。
中国市場の大きさと、そのリスク
今回の資料で特に印象的だったのは、ウルトラマン関連市場における中国市場の大きさです。
資料によれば、ウルトラマン関連の中国市場は約1,500億円規模。一方で、日本国内市場は約150億円規模にとどまっています。単純に見れば、約10倍の差があります。
日本で生まれ、日本の子どもたちに長く親しまれてきたウルトラマンですが、商業規模だけで見れば、すでに中国市場の方が圧倒的に大きい。
ウルトラマンファンの間では、ときどき「中国市場から撤退すればいい」といった声も聞かれます。しかし、少なくとも経営判断として見れば、それは現実的ではありません。ウルトラマンIPを今後も維持し、映像制作や商品展開を継続していくためには、中国市場はすでに無視できない規模になっています。
これはかなり重い現実です。
私たちはつい、ウルトラマンを日本の特撮文化の文脈で考えます。昭和、平成、ニュージェネレーション。日本のテレビ放送、玩具展開、親子視聴、劇場イベント。その記憶の中でウルトラマンを語りがちです。
しかし企業経営の視点で見れば、ウルトラマンはすでに日本国内だけで完結するコンテンツではありません。中国市場、アジア市場、グローバル展開の中で動く巨大IPになっているのです。
その一方で、中国市場には大きなリスクもあります。
資料では、中国市場の落ち込み要因として、トレーディングカードゲームやブロック玩具の大ヒット後の反動減、中国カード市場そのものの急縮小、そして日中関係の冷え込みによるイベント等の中止が挙げられています。
ここは非常に重要だと思いました。
ウルトラマンのようなグローバルキャラクターIPは、作品の出来や商品の魅力だけで成長するわけではありません。国際関係、外交摩擦、政治発言、イベント開催の可否といった外部要因によって、大きな影響を受ける。
特に、中国市場が日本市場の約10倍規模になっている以上、台湾有事をめぐる高市総理の政治発言や、暴走した自衛官の中国大使館侵入事件 のような外交リスクが、ウルトラマンIPの海外展開に与える影響は軽視できません。
もちろん、特定の事件が中国市場低迷の原因だと断定することはできません。資料にもそこまで細かい事情については言及されていません。
ただ、少なくとも会社側が「日中関係の冷え込みによるイベント等の中止」を要因として挙げている以上、政治とエンタメビジネスは無関係では無いのでしょう。
ウルトラマンを海外へ広げるということは、単に作品を翻訳して売ることではない。国際情勢の中で、IPがどのように受け止められ、どのように展開できるかを考え続けることでもあるのです。
なお、中国本土でウルトラマンがどのように成功を収めたのかを知るうえで、笈田雅人氏の証言が収録された書籍『映画は中国を目指す』(映画秘宝collection)は非常に参考になります。
笈田氏は『ウルトラマンティガ』のプロデューサーでもあり、本書では中国で『ティガ』が放送されるまでの経緯や、現地展開における交渉、法務管理、権利保護を含むビジネス上の苦労が詳しく語られています。
中国市場での成功は、作品を輸出すれば自然に起きたものではありません。現地パートナーとの関係構築や権利管理を含め、長年の積み重ねがあって成立したものです。
その顛末が詳しく書かれているという意味でも、ウルトラマンの中国展開を考えるうえで必読の一冊です。
日本国内市場の再拡大
そういった前提から、円谷側が日本国内市場を再拡大しようとしていることは理解できます。
資料では、日本市場は約150億円規模とされています。中国市場と比べれば小さい。しかし見方を変えれば、まだ伸びしろがあるということでもあります。
現在の日本国内におけるウルトラマンは、未就学男児向け市場では一定の成果を出している一方で、大人向け、女性向け、雑貨、アクセサリー、ぬいぐるみ、ファッションといった分野では、まだ十分にシェアを取れていないとされています。
今後はここを伸ばす。
つまり、ウルトラマンを「男の子向けの特撮ヒーロー」だけではなく、大人も、女性も、インバウンド客も楽しめるキャラクターIPとして展開を広げてゆくということです。
資料では、『モフサンド』とのコラボ商品、ぬいぐるみシリーズ、直営店舗、原宿店、SNSマーケティング、ライブイベント、映像展開などが挙げられています。
さらに株主総会の質疑応答では、これまで日本市場では主にライセンシーに商品化を委ねる手法が中心だったが、今後は商品の企画・製造から販売までを自社で一貫して担う方針へ転換すると説明されています。原宿の直営店を皮切りに、全国でウルトラマン関連オフィシャルショップの展開も拡大していくという。
これは、今のキャラクタービジネスとしては王道の戦略です。
ウルトラマンを、玩具売場だけではなく、雑貨店、観光地、ファッション、推し活、ぬいぐるみ、限定グッズ、イベント体験へ広げていく。作品を見るだけでなく、持ち歩く、飾る、撮る、共有する、会いに行く。そうした体験型・所有型のIPへ変えていく。
ビジネスとしては正しい方向だと思います。
ただし、この方向には正直、難しさも感じます。
ウルトラマンは、単なる“かわいいキャラクター”ではありません。バルタン星人、ピグモン、カネゴンのように、デザインとしてキャッチーな怪獣や宇宙人は多い。しかし、過去にも「ウルトラマンキッズ」や「かいじゅうステップ ワンダバダ」のように、ファンシーな方向へ広げようとした展開はありましが、それがサンリオ的な意味での大きなキャラクター市場にまで広がったかというと、そこには限界もあったと思います。
一方で、現在は状況が少し変わっています。
中国を中心に、ウルトラマンのぬいぐるみ商品が大きな人気を得ているという現象があります。これは、ウルトラマンを「かっこいいヒーロー」としてだけでなく、「抱きしめる」「飾れる」「推せる」キャラクターとして受け止める層が確実に存在していることを示しています。
つまり、ウルトラマンの大人向け、女性向け、インバウンド向け展開には難しさがある。しかし、盛り上げ方次第では可能性も十分にありえる。
大事なのは、ウルトラマンを無理に“かわいいキャラ”へ変えることではないと思います。
ウルトラマンが持つかっこよさ、やさしさ、孤独さ、神秘性、怪獣たちのデザイン的魅力。そうしたイメージを壊さず、どう商品や店舗体験に翻訳するか。
ここが、今後の国内市場再拡大における課題だと思います。
近年のウルトラマンへの「反省」は、作品評価と同じではない
もうひとつ気になったのは、経営陣が語ったとされる、近年のウルトラマン作品に対する「反省する」という言葉のニュアンスです。
※ちなみに公式の質疑応答要旨には「反省」との記述はありません。
ここで注意したいのは、それを単純に「作品が失敗だった」という話にしてはいけないということです。要旨では「映像品質低下」と記述されていますが、企業経営としての売上や事業面での反省と、作品そのものの評価は必ずしも一致しません。
たとえば『ウルトラマントリガー』以前のニュージェネレーションシリーズは、過去作との接続や人気キャラクターの客演を、作品を盛り上げるカンフル剤として活用してきました。
ゼロやティガのような人気ウルトラマンが登場すれば、それだけで話題性は生まれます。短期的な売上やイベント性を考えれば、非常に強いカードです。
しかし、その一方で、過去作の知識が必要になりすぎると新規視聴者は入りづらくなります。客演キャラクターが強すぎれば、現在の主人公や本筋のドラマが食われてしまう。シリーズ全体が「過去作の人気に支えられたお祭り」に寄っていく危険もあります。
そう考えると、『ブレーザー』以降の方向性は、単なる失速ではなく、かなり意識的な転換だったのではないかと思います。
過去作とのクロスオーバーに頼りすぎず、単独作として見られるウルトラマンを作る。新規視聴者が途中から入っても理解できる作品にする。ゲストキャラの話題性ではなく、その作品自身の世界観や主人公で勝負する。
これは、シリーズの入り口としての「入りやすさ」を重視した戦略だったと思います。
Netflixで配信された『Ultraman: Rising』やマーベルコミックとのコラボレーションも、その流れの中で見ることができます。既存ファン向けの客演サービスではなく、ウルトラマンという存在を初めて見る人にも届く形へ再構成する。そこには、欧米圏を含むグローバル展開を意識した長期的な判断があったのではないでしょうか。
ただし、結果として『アーク』『オメガ』と続く近年の流れは、中国市場を含むグローバル展開において、円谷プロが想定していたほどの反応や評価を得られなかったのかもしれません。
個人的にも、『ブレーザー』以降の作品にはそれぞれ違う個性がありながら、大きく見ると「初代ウルトラマンの再解釈」あるいは「原点回帰」的な構造が続いたように感じます。
未知の巨人が現れ、怪獣と戦い、人間との関係性を築いていく。防衛チームや地球人側の視点を通じて、ウルトラマンという存在をもう一度見つめ直す。
その方向性自体が間違っているとは思いません。シリーズを長く続けるためには、定期的に原点へ立ち返る必要があります。
ただ、似た方向性が続くと、どうしてもキャッチーさには欠けます。
「今年のウルトラマンはこれだ」と一発で伝わる強いフックが弱くなる。玩具展開やキャラクター展開においても、過去の人気キャラクターを客演させた時ほどの爆発力は出にくい。
つまり、『ブレーザー』以降の方向性は、作品としては誠実だった一方で、商業的な訴求力や物語の派手さという点では、やや地味に見えた可能性があります。
ここが難しいところです。
では、ブレーザー以降も客演を多用するクロスオーバー路線を続けていればよかったのか。
私は、そう単純には思いません。
クロスオーバーやマルチバース展開の過剰さが、観客を疲弊させることは、すでにMCUで起きています。
一時期のMCUは、作品同士がつながり、過去キャラクターが集結し、マルチバースが広がることで大きな熱狂を生みました。しかし展開が複雑化すると、ひとつの作品を楽しむために別の映画やドラマを大量に追う必要が出てくる。物語の焦点は拡散し、キャラクターの登場そのものがイベント化していく。
ウルトラマンにも、同じ危険はあったと思います。
『劇場版 ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』から『ウルトラマンZ』、『ウルトラギャラクシーファイト』三部作、『ウルトラマントリガー』、そして『シン・ウルトラマン』へと連なる2020年前後から2022年頃までの流れは、非常に情報量の多いクロスオーバー展開でした。
この時期のウルトラマンは確かに大きく盛り上がっていました。過去作との接続、歴代ウルトラマンの客演、ファン向けの文脈、劇場作品、配信作品が重なり、シリーズ全体に強い熱量があった。事業的にも大きな成果を上げた時期だったと思います。
しかし、この路線をそのまま続けていれば、ウルトラシリーズも「ウルトラ疲れ」を起こしていたのではないでしょうか。
過去ウルトラマンの客演は盛り上がります。けれど、それに頼り続ければ、今のウルトラマン自身が弱くなる可能性もある。
だから私は、『ブレーザー』以降に一度クロスオーバー路線へブレーキをかけたこと自体は、間違いだったとは思いません。
むしろ、長期シリーズとしては必要な判断だったと思います。
種まき期間をどう回収するか
個人的には、『ブレーザー』以降の3年間を、失速の期間というより「種まき期間」として受け止めています。
過去の人気キャラクターに頼るのではなく、新しいウルトラマンを立たせる。新しい世界観を作る。新しい視聴者が入れる余地を作る。
その試みは、短期的な作品評価や商業的な訴求力で見れば、地味だったかもしれません。しかし、シリーズを長く続けるためには、過去の遺産だけでなく、新しい柱を育てる時間が必要です。
問題は、その種まきを今後どう回収するかです。
ブレーザー、アーク、オメガという近年のウルトラマンたちを、このまま単独作として終わらせるのではなく、次の展開でどう活躍させるのか。彼らを新しい世代のウルトラマンとして、どうシリーズ全体の熱量につなげていくのか。
ここから必要なのは、派手な客演を単純に否定することではありません。
大事なのは、ゼロやティガのような人気既存キャラを、単なる懐かしさの再利用で終わらせないことです。過去の光に頼るのではなく、新しい光を強くするために、過去の光を使う。そのバランスを取れるかどうかが、今後のウルトラマン展開にとって重要だと思います。
円谷フィールズHDが進めようとしている国内市場の再拡大、大人向け・女性向け・インバウンド向け展開、映像・ライブ・イベントの強化も、大きなチャンスです。
うまくいけば、ウルトラマンは「懐かしのヒーロー」ではなく、今の子どもにも、大人になったファンにも、海外のファンにも届く、現在進行形のIPであり続けることができる。
しかし失敗すれば、単に商品点数が増えただけの、芯の薄いキャラクタービジネスになってしまう。
だから今後見るべきなのは、売上が伸びるかどうかだけではありません。
ウルトラマンが何を守りながら広がっていくのか。
円谷フィールズHDのこれからは、その問いにどう答えるかにかかっていると思います。
だからこそ、ファンとしては過度に悲観するのではなく、期待と厳しい目の両方を持って、これからのウルトラマンを見守っていきたい。
ウルトラマンがこれからも、新しい子どもたちにとっても、かつて子どもだった私たちにとっても、そして世界中のファンにとっても、現在進行形の「光」であり続けられるのか。
その未来を、楽しみに見守っていきましょう。

