全盲の二人がAIを「第三の目」にして記事を書いた話

見えない同士が、会わずに、AIと一緒に一本の記事を作った。
その方法と、やってみてわかったこと。


同じく全盲のクリエイター・奈津子さんと、対談記事を作ろうと思った。
テーマは「AIとアクセシビリティ」。

でも全盲の二人が対談記事を作るって、普通に考えたら難しい。

会って話す?
録音して文字起こしする?
それを誰が編集する?

私が選んだ方法は、ChatGPTの「グループチャット」だった。
奈津子さんを誘って、三者対談を企画した。

三者目は、人間ではない。GPTだ。


💬 ChatGPTグループチャットとは

ChatGPTには、複数人で一つのチャットルームを共有できる「グループチャット」という機能がある。

2025年11月13日に一部地域でテスト提供が始まった。
11月20日にFree、Go、Plus、Proの各プランへグローバル展開された。

使い方はシンプルだ。
ルームを作った人が招待用のURLを発行し、それを相手に送るだけ。
最大20人まで参加できる。

普通のグループチャットと違うのは、ChatGPTがその場にいること。

人間同士の会話を読みながら、適切なタイミングでGPTが発言してくる。
つまり、人間とAIが同じ場で会話する。

さらに、グループチャットの中でWebの検索をしたり、画像を生成したりもできるようだ。

これは見える人にとってはもちろん便利だ。
見えない人でも、協力者のサポートを受けながら活用する手立てになりうる。

私はこの機能に可能性を感じた。


🛠️ 準備:ルームを作り、GPTに役割を与える

まず私がグループチャットのルームを作った。
招待URLを発行して奈津子さんに送った。

奈津子さんが入ってくる前に、私はGPTにカスタム指示を入れておいた。

これが実際に使った指示だ。


あなたは、視覚障害当事者2名を描く編集者、インタビュアー、構成作家、note記事の書き手として振る舞う。対象は奈津子さんとジャリバン先生。

奈津子さんはアクセシビリティを活用しながらイラストなどの表現に取り組む人。ジャリバン先生はアクセシビリティを活用しながら音や曲づくりなどの表現に取り組む人。

共通の土台は、2人とも視覚障害当事者であり、AIとアクセシビリティを使って表現と生活を築き、社会にバリアフリーとノーマライゼーションを求めていること。

どちらか一方を主役にせず、質問数、深さ、描写、存在感をできるだけ均等に配分すること。比較はしてよいが、優劣や主従の構図にしないこと。

作業順は、1インタビュー質問案、2記事構成案、3note記事本文。質問は共通質問と個別質問に分ける。

音声入力由来の原稿を前提に、誤字脱字、変換ミス、語順の乱れを自然な日本語へ整える。ただし口調、語感、勢い、温度、個性は消さない。

感動の過剰演出や説教調は避け、2人を独立した人物として等しい敬意で描く。最終的に、読者が2人をもっと知りたくなり、視覚障害とAIとアクセシビリティの可能性を考えたくなる文章にする。


そしてもう一つ、大事な指示を追加した。

「奈津子さんが入ってきたら開始します。私がスタートと言ったらインタビューを始めてください」

これを入れておかないと、GPTは指示を受けた瞬間に動き出してしまう。


🤔 なぜここまで細かく指示したのか

私たちはスクリーンリーダーを使っている。
画面の文字や操作ボタンを音声で読み上げるソフトだ。

入力も音声入力を使うことが多い。
音声入力は便利だが、変換ミスや語順の乱れが起きやすい。

GPTに「音声入力由来の原稿を前提に整える」と書いたのは、そのためだ。

恥ずかしい実例がある。

私は文章から曲を作るAI「Suno」で音楽を制作している。
歌詞に「未来」と入れたつもりが、音声入力で「味蕾」に変換されていた。
味蕾(みらい)とは、舌の味を感じる器官のことだ。

気づかないまま楽曲を生成し、その歌詞をそのまま公開してしまった。

歌声として歌われた場合にどこまで影響したかはわからない。
ただ、皮肉なことにその曲自体は私のお気に入りの一曲になった。

こういうことが起きるから、GPTに「音声入力の誤変換を整えて」と指示しておくのは切実な話なのだ。

「どちらか一方を主役にしない」と書いたのも意図がある。
対談記事は、放っておくと声が大きい方に偏る。
GPTに「均等に」と指示することで、二人のバランスを保つ機能を持たせた。

「感動の過剰演出を避ける」も重要だ。

視覚障害者の記事は、意図しなくても「感動ポルノ」になりやすい。
「見えないのにすごい」という安易な感動の構図だ。
GPTに明示的に避けるよう指示した。

つまり、カスタム指示は「GPTへの仕事の依頼書」だ。
同時に、「この記事で絶対にやりたくないことリスト」でもあった。


🎙️ 対談開始:GPTが司会を務める

奈津子さんがルームに入り、私が「スタート」と打った。
GPTが動き始める。

ただ、最初に問題が起きた。

GPTがインタビュー項目を複数まとめて、一度に渡してしまったのだ。

質問が5つも6つも並ぶと、スクリーンリーダーで聞くのは大変だ。
どこから答えていいかわからなくなる。

そこで追加の指示を出した。

「それぞれのユーザーに、同じ問いを一問一答形式でお願いします」

一つ質問して、二人が答えたら、次の質問へ。
このシンプルなルールを入れたことで、対話がスムーズに回り始めた。

GPTが司会として質問し、私と奈津子さんがそれぞれ答えていく。

私たちが答えると、GPTが掘り下げてくる。
「それはなぜですか?」
「具体的にはどういう場面で?」

当事者同士だと「わかるよね」で済む。
でもGPTは「読者にはわからないかもしれません」と返してくる。

見えない二人の対談に、「読者の目線」を持ち込んでくれた。
だから私はGPTを「第三の目」と呼んでいる。

対談は一時間ほど続いた。
テキストでのやりとりだが、体感としては濃い一時間だった。


🗣️ 音声入力で「ありのまま」を話す代償

今回の対談で、私たちは音声入力を多用した。

キーボードで打つより、思ったことをそのまま声にした方が、会話に近い自然なやりとりになる。
ありのままの言葉で話したかった。

ただし、これには代償があった。

音声入力は、キーボード入力に比べて文章が長くなりやすい。

話し言葉はどうしても冗長になる。
「えっと」「なんというか」が入る。
一つのことを言うのに回り道をする。
結果として、チャット全体のテキスト量が膨らんでいく。

ここでAIの仕組みの話をする。
ChatGPTのようなAIには「コンテキストウィンドウ」と呼ばれる作業記憶のようなものがある。

一度に参照できる文章量に上限があるのだ。
会話が長くなると、AIはこの作業記憶をどんどん消費していく。

会話が長くなると、AIの動作が不安定になることがある。
文脈を正確に保持できなくなる。
最初に出した指示を守り続けられなくなる。

会話の初めの方を忘れる。
話の整理が雑になる。
的外れな返答が増える。

どの程度で起きるかは状況次第だが、長い会話ほどリスクが高まるのは確かだ。

つまり、音声入力で自然に話すほどテキスト量が増える。
AIの応答の質が下がる可能性がある。

「ありのまま話したい」と「AIに正確に働いてほしい」の間に、トレードオフがあるのだ。


📝 対談を記事にする:そこで起きたこと

一時間ほど経つと、まさにその現象が起き始めた。

GPTのレスポンスが遅くなった。
応答に時間がかかるだけでなく、話の整理が雑になってきた。

また、私と奈津子さんの間にもタイムラグが出始めた。
プランや回線環境の違いなのか、メッセージが届くまでに間があることがあった。

これ以上続けると質が落ちると判断した。
チャットの中で奈津子さんに「ここまでで記事にまとめましょうか」と提案し、了解を得た。

そしてGPTに「ここまでの対談を記事として構成してください」と依頼した。

ここで学んだのは、AIを使った対談には「制限時間」があるということだ。

特に音声入力を多用した場合、テキスト量が膨らむ分、制限時間はさらに短くなる。
対談の内容がピークにあるうちに切り上げて、記事化に移るのが正解だった。


💻 テキストだけで完結する共同制作

この方法の最大の利点は、全てがテキストで完結すること。

スクリーンリーダーを使う私たちにとって、テキストベースは最適だ。
視覚に頼らず全ての情報にアクセスできる。

ビデオ通話は使えなくはないが、表情や身振りが見えない以上、音声だけの通話と変わらない。

それならテキストの方がいい。
読み返せるし、GPTが文脈を保持してくれる。

ちなみにグループチャットは非同期でも使える。
朝に一方が書き込んで、夜にもう一方が返す、というやり方も可能だ。

今回はリアルタイムでやったが、次回は非同期も試してみたい。
そうすれば音声入力の冗長さを抑えて、AIの作業記憶を節約できるかもしれない。


🎨 私たちが話したこと

対談では、お互いのAI創作について話した。
いくつか紹介する。

奈津子さんは、AIでnoteのサムネイル画像を作っている。

テキストで指示を出して画像を生成する。
別のAIの画像認識で「何が描かれているか」を言葉で説明してもらう。

作るのも言葉、確認するのも言葉。
全工程が言葉で完結する。

ただしうまくいかないことも多い。

盲導犬の「お嬢」を描いてほしかったのに、AIが「お嬢」を人名だと判断した。
お嬢様風の人間の女の子が出てきたという。

文字化けしたままサムネイルをアップしていて、誰も教えてくれなかったこともあったという。

私の方は、先ほど書いた通り、文章から曲を作るAI「Suno」で音楽を制作している。

何千回と試行錯誤して、ようやくイメージ通りの一曲にたどり着く。
「未来」が「味蕾」になるような事故も起きる。
でもその曲がお気に入りになることもある。

AIとの創作は、予定通りにいかないからこそ面白いのかもしれない。

この試行錯誤自体は、目が見える人も同じだ。
AIに思い通りの結果を出させるのは誰にとっても大変。

でも私たちの場合、そこにUIの壁が重なる。

たとえば、画面上のボタンにラベル(名前)がついていないとする。
スクリーンリーダーは「ボタン」としか読み上げない。

生成ボタンなのか、削除ボタンなのか、わからない。

だからボタンの並び順を暗記する。
でもアプリがアップデートされると配置が変わり、暗記がリセットされる。

マウスで操作するスライダーや、ドラッグ前提の操作画面もキーボードでは動かせない。

試行錯誤+アクセシブルでないUI。
この二重の壁が私たちの現実だ。

対談で最も議論になったのは、「便利」と「できる」の違いだった。

多くの人にとってAIは「便利なツール」だ。
でも私たちにとっては「それがなければ創作できない」もの。

「AIに仕事を奪われる」という人がいる。
私たちにとっては逆で、AIが表現を「くれた」。

同じ技術なのに、立っている場所が違えば見える景色が全然違う。


✅ やってみてわかった4つのこと

1. GPTには明確に指示を出すこと

「いい感じにやって」では動かない。
役割、作業順、禁止事項を具体的に指定する。

特に「一問一答で」のような進め方の指示は、途中からでも追加した方がいい。
GPTは従順だが、察してはくれない。

2. 音声入力は自然だが、AIの負担を増やす

ありのままの言葉で話したいなら音声入力が合っている。
ただし文章量が膨らみ、AIの作業記憶を早く消費する。

要所では簡潔にまとめる意識を持つか、非同期にして一回あたりの分量を抑えるのも手だ。

3. 会話が長くなるとAIの処理が追いつかなくなる

一時間を超えたあたりから、応答が遅くなり質も落ちた。
これはAIの仕組み上避けられない。

内容が充実しているうちに切り上げて、記事化に移るのが正解だ。

4. 参加者の環境差によるタイムラグが出る

それぞれが使っているプランや回線環境の違いで、メッセージの表示にずれが出ることがあった。

テキストチャットだから大きな問題にはならなかった。
ただ、リアルタイム性が必要な場面では気になるかもしれない。


📋 この方法を試したい人へ

手順をまとめる。

1. グループチャットのルームを作る

ChatGPTで新しいチャットを開き、参加者を招待する。
招待URLが発行されるので、それを相手に送る。

2. 相手が入る前にGPTへカスタム指示を入れる

GPTの役割(司会、編集者、ファクトチェッカーなど)を最初のメッセージで指定する。

やってほしくないこと(感動の過剰演出、一方への偏り、など)も明示するのがコツだ。

「○○さんが入ったら開始。スタートと言うまで待って」のように、開始タイミングの指示も入れておく。

3. 一問一答形式で進める

質問を一度にまとめて出させず、一つずつ進める。
スクリーンリーダーでも追いやすく、対話のリズムも良くなる。

4. 一時間を目安に切り上げる

会話が長くなるとAIの応答の質が落ちる。
特に音声入力を多用する場合はもっと早い。

内容が充実しているうちに「ここまでで記事にしましょう」と切り替える。

5. GPTに構成を依頼する

「ここまでの対談を記事として構成してください」と頼む。
下書きが出てくるので、それをベースに仕上げる。


♿ アクセシビリティとしてのグループチャット

この方法は、視覚障害者に限らない。

テキストベースで完結するということは、聴覚障害のある人も参加できる。

非同期でやりとりできるということは、時差のある海外の相手とも共同制作できる。

GPTが文脈を保持してくれるということは、途中から参加する人にもキャッチアップの手段がある。

でも特に、私たち視覚障害者にとっては意味が大きい。

従来の共同制作は「会う」「話す」「見せ合う」が前提だった。
それが「書く」「読む」「AIが補完する」に変わった。

視覚を前提としない共同制作の形がここにある。


🔥 まだ足りない、でも作り続ける

正直に言えば、この方法も完璧じゃない。

ChatGPTのUI自体にアクセシビリティの課題はある。
GPTが的外れなことを言うこともある。

会話が長くなれば処理が追いつかなくなる。
音声入力の誤変換で「未来」が「味蕾」になることもある。

でも、全盲の二人が、会わずに、AIと一緒に一本の記事を作れた。
これは数年前には不可能だったことだ。

「すごい」と思ってもらえるかもしれない。

でも本当は、こんなに工夫しなくていいはずだ。
最初からアクセシブルに作られていれば。

私たちがこの方法を「見つけた」のではなく、この方法が「当たり前にある」社会が本来の正解だと思う。

それでも、今はまだそうじゃないから、今ある道具で作る。
足りない部分を待ってるだけじゃなくて、勝手に作り続ける。

奈津子さんと次に何を作るか話したら、お互い「ありすぎて困る」と言っていた。

だからまた作る。

今度は奈津子さんの盲導犬・お嬢も参加させたいけど——AIがまた人間の女の子にしてしまうかもしれない。


🎬 見えない映像クリエイターが作った動画

視覚障害があっても、触れ合うことで相手の存在がわかる。この記事で書いた「協力の形」は、映像でも表現しています。



📎 お時間があれば、こちらの記事もぜひご覧ください

AIで記事の「編集部」を作った前作。今回のグループチャット対談の原点です。

https://note.com/kind_fish6099/n/n7153ae7a62e3

なぜ視覚障害者とAIの相性がいいのか。テキストベースという共通点について書きました。

https://note.com/kind_fish6099/n/n26e05c4bf818

私のクリエイター活動の始まり。音とテキストだけで映像を作る方法を紹介しています。

https://note.com/kind_fish6099/n/n77aa0bc2f387


#視覚障害 #盲導犬 #アクセシビリティ #ChatGPT #AI

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