なぜ人類はこれほどまでに「金」に魅了されるのか?
――“barbarous relic”は、なぜまだ生き残っているのか
「金」という資産は不思議だ。配当を生まないし、利息も無い。キャッシュフローも生み出さない。それにも関わらず、人類は数千年に渡って金に魅了され続けてきた。しかも現代でも、各国の中央銀行、世界中の投資家、国家、そして一般人まで誰もが依然として金を欲しがっている。何故なのか?
今回は以下のThe Economistの記事についての考察になる。
https://economist.com/culture/2026/05/14/the-weird-wild-story-of-humanitys-obsession-with-gold
◼️誰も手放したがらなかった
この記事で面白かったのは、若き日のロイド・ブランクファイン (後のゴールドマン・サックスCEO)のエピソードだ。1980年代、彼は金のトレーダー時代に1kgの金塊を自分用に購入した。
当時で15,000ドル。現在なら約50,000ドルに相当する。彼はそれをディナーパーティーに持ち込み、人々に触らせた。すると、
“No one ever wanted to let go of it.”
「誰も手放したがらなかった」のだ。
これは凄く象徴的なエピソードだと思う。
◼️金は「本能」に近い
著者のDominic Frisbyは、人類の金への執着を「primal instinct(原始的本能)」と表現している。実際、ギリシャ神話の黄金の羊毛、ミダス王、そして、黄金のリンゴなど、人類の神話は金だらけだ。そして古代国家も、その象徴性を理解していた。リディア王国は金貨を鋳造していたし、アレクサンダー大王は、金供給地帯を制圧することに固執した。どの帝国も金と権力を結び付けていた。つまり、金の歴史は、そのまま「権力の歴史」でもあるのだ。
◼️金本位制 nostalgia とその危うさ
著者はかなり「goldbug(ゴールド原理主義者)」寄りだ。1971年にアメリカが金本位制を終わらせた後の不換紙幣のシステム、中央銀行の金融政策、インフレ対策、そして財政拡大をかなり批判的に見ている。しかしThe Economistは、そこから距離を置く。実際、金本位制は、デフレ圧力・度重なる金融危機・世界恐慌の悪化にも関与したとされるからだ。つまり、「金に戻れば全て解決する」という話では全くないのだ。
◼️それでも人類は金を捨てられない
だが、もっと面白いのはここからだ。ニクソンショック以降、世界は金本位制を捨てた。不換紙幣へ移行した。ドル中心システムになった。それでも、各国は金を大量保有している。しかも、最近は更に増やしている。なぜなのか?
◼️「ドルの武器化」が始まったから
2022年のウクライナ侵攻後のロシアへの制裁以降、ドルは「中立的な通貨」ではないと、世界は気付いたのだ。アメリカは、SWIFT・外貨準備・経済制裁・決済網管理などを通じて、ドルを「武器化」できる。すると各国は当然「ドル以外の避難先が必要では?」と考える。そこで再び浮上したのが金なのだ。中国、サウジアラビア、タイなど、ドル依存を減らしたい国々ですら、結局は金を買っている。
◼️ビットコインですら金を置き換えられない
近年はビットコイン(Bitcoin)が「デジタル・ゴールド」と呼ばれている。しかし現実には、ビットコインをはじめとするデジタル通貨はボラティリティが高過ぎ、リスク資産と連動し、投機色が強過ぎるのだ。結果として、「完全な避難先」にはなれなかったのだ。そして皮肉なことに、人類はまたしても数千年前の資産に戻ってきたのだ。
◼️Keynes の “barbarous relic”
1924年に、ケインズは金を"barbarous relic(野蛮な遺物)"と呼んだ。これは有名な表現だ。実際に、合理性だけで考えれば、金は非効率だ。冒頭に述べた通り、キャッシュフローを生み出さない。現代金融理論とも相性が悪い。しかし、それでも金は消えなかったのだ。なぜだろうか?
◼️金は「合理性」ではなく「文明」の資産だから
自らのビジネスであるリユース業で、私は日常的に金を扱っている。すると分かることがある。金は単なる投資商品ではないのだ。本能的にかもしれないが、人間は金を見ると反応するのだ。金を手に持つと静かになる。本能的に「価値」を感じているのではないだろうか? これは株やETFとは全く違う反応なのだ。つまり、金は「金融商品」である前に、「文明レベルで共有された価値の記憶」なのだと思う。
◼️おわりに
世界は金本位制を捨て、デジタル化し、AI時代に入り、ビットコインをも生み出した。それでも最後に戻ってくるのは、数千年前から人類が握り続けてきた金属なのだ。合理的ではないかもしれない。しかし、人類は必ずしも合理性だけで動いている訳ではない。そして、それこそが金という資産の本質なのかもしれない。
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