寿司食いねェ!(ただし芽ねぎの味が分かるヤツだけ)
この記事は12月14日(日)に行われる「紅白記事合戦」の参考記事になります。詳細は11月29日(土)に発表します。
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うちの入居施設は当然ながら年中無休だ。お盆だろうがクリスマスだろうが大晦日だろうが、そして元旦だろうが入居者の生活は止まらない。
僕は仕事始めをできるだけ一月一日にしている。
「一年の計は元旦にあり」と言われるように、年の初めに入居者一人ひとりにちゃんと「あけましておめでとうございます」と挨拶をすることを決めている。顔を見て笑顔でそう伝えると、入居者は本当に嬉しそうにしてくれる。それだけで、今年一年頑張れる気がするのだ。
少しでもお正月の気分を味わってもらうために、元旦は食事を特別なメニューにしている。おもちは喉に詰まるリスクが高いため残念ながらNGだが、その代わりにお刺身や天ぷら、紅白なますに伊達巻きなど、とにかく”正月っぽさ”を全力で演出している。入居者たちは毎年「豪華やなぁ」と目を輝かせてくれる。
そして、これはスタッフにも同じことが言える。正月にも関わらず出勤してくれるスタッフたちに、僕は毎年、自腹でお寿司をご馳走している。大事なことなのでもう一度言う。自腹でお寿司をご馳走しているのだ。何のため?もちろん僕の好感度を上げるためスタッフたちを労うためだ。
さて、ここで皆さんに問題です。
僕がご馳走しているお寿司とは、いったいどんな寿司でしょーか?!
チッチッチッチッ(シンキングタイム)
え?回転寿司? いいえ!違いまーす!
は?デリバリー専門のお寿司?ブッブー!残念でしたー!
正解は……ドルルルルルルル、ドン!(ドラムロール)
回らない地元のちょっと高級なお寿司屋さんの寿司でしたー!\(^o^)/
お店の大将が、わざわざ市場で仕入れてきてくれる旬の魚たちを使った極上のお寿司。金額にすると……まあ〇万円である。それを毎年、自腹で提供しているのである。(3回目)
毎年注文していると、だんだんと大将と顔なじみになってくる。すると、「今年は活きのいいブリが入ったから握っといたよ!」とか、「いい甘エビ見つけたからサービスしとくわ!」など、お寿司の質が豪華になっていくのである。
特に去年の正月は、過去最高と言っても差支えないほどだった。来店した僕に大将が興奮気味に語った。
「今年は質の良い中トロが手に入ったんだよ。あと、国産のサーモンにしといたから!そして——何と言っても今年の目玉はコイツ、芽ねぎだ!!」
芽ねぎ。
皆さん、芽ねぎをご存知だろうか。発芽して間もない若くて細い青ねぎのことだ。柔らかい食感と鼻を突き抜けるような爽やかな香りとねぎ特有の辛味が共存する、高級なねぎのことだ。
安定生産が難しいため市場に出回る量が少なく、寿司屋で「芽ねぎ握り」はお目にかかることはそうそうないだろう。
そんな高級な一品である芽ねぎの握りを、大将は人数分握ってくれたのだ。僕はもう感謝しかなかった。毎年〇万円を落とし続けて本当に良かった……。
さっそくお寿司を施設に持ち帰り、スタッフみんなでいただいた。
みんな「うおー!」「豪華すぎる!」「美味しい!」と大喜びだった。僕の好感度はもはや青天井だ。こうやって部下からの信頼を得ていくのだ。上司の人たちは覚えておくといい。
ただ、笑顔でお寿司を食べるスタッフの中で、一人だけ少し違った感想を抱く者がいた。若手男性スタッフのI君だ。
I君は美味しそうに寿司を食べるのだが、少し……いやかなり独特な食レポをするのだ。
中トロを食べて、「こいつ、マグロみたいで美味いっす!」(いやマグロより格上やぞ!)
さらにサーモンを頬張り、「やっぱサーモンはスシローで焼いてあるヤツが1番っすね!」(国産サーモンやで!ほんで”焼く”じゃなくて”炙る”だからな!)
極めつけは高級食材の芽ねぎだ。
彼は高級芽ねぎを躊躇なく口に放り込むと、「あ、このネギみたいなやつ、なかなかいけるっすよ」と言った。
……ネギ……みたいな……やつ……だと……。
芽ねぎをネギみたいなとI君が発言した瞬間、僕の中で何かが崩れ落ちる音がした。
I君、君の来年からの正月ご飯はおにぎりに決定です。
そんなこんなで、毎年僕は年始から元気に働いております。
一年の計は元旦にある。
だからこそ、僕は元旦に最高の笑顔と、最高の寿司を用意するのだ。
ただ、芽ねぎの味が分からんヤツは食べんでよろしい。
おしまい
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