見出し画像

「廃用身」(備忘録的感想)

医師でもある久坂部羊の小説デビュー作品である。
「廃用身」は造語かと思っていたが実際に使われている医学用語で、リハビリをしても回復が見込めない麻痺した四肢の事を意味する。

編集者の矢倉(北村有起哉)は、デイケアクリニックの院長である漆原(染谷将太)を取材していた。
漆原は現在の日本のデイケアに疑問を持っており、麻痺して回復の見込みのない四肢の重量が患者本人および介護者にとって大きな負担となっていて、これを切除するだけでも負担が減ると考えていた。
当初、漆原の考えは簡単には受け入れられない。
だが、脳梗塞で右腕以外の四肢が麻痺している岩上(六平直政)が、初めての事例となった。

岩上は一代で財を築き上げ、庭付きの大きな家に妻、息子と住んでいた。
なんとか以前のような生活に戻りたい岩上は過度なリハビリを自ら希望するが、回復の見込みはなくケアスタッフの負荷も大きくなっていた。
そんな岩上は気性的な問題のため妻と息子も介護に辟易としていて、家庭ではまともな介護をしてもらえなくなっており、腰と尻の間にできた床ずれも一向によくならない。
そして漆原は、そんな岩上の状態を見抜いていた。

ある日岩上は左足の敗血症が悪化し、切断を余儀なくされる。
岩上はどのあたりから足を切るのか気にするが、漆原は太腿の上のあたりから切断する事を提案する。
岩上は仕方なく漆原の言う通り左足を切断するが、麻痺した左足がなくなった事で血流もよくなり、少しずつ元気を取り戻し始めた。
そして岩上本人から、残った右足、そして左腕の切断を要望される。
岩上は右腕だけになるが、術後は性格も明るく穏やかになった。
そんな岩上を見て、自ら麻痺した四肢の切断を望む患者、そして家族が現れるようになった。
漆原は四肢を切断する治療をAケアと呼び、矢倉は漆原にAケアに関する書籍の執筆を依頼する。

冒頭で漆原は、岩上のリハビリのよる負荷が大きいと訴えるケアスタッフに、状況は理解できるができるだけ本人の希望にそうようにして欲しいと返答する。
このシーンで、漆原が単純に医師として研究を進めたいという事ではなく、患者の気持ちを考えた上で廃用身の切除を考えている事を表現している。
その後も淡々と患者に接する事で、漆原がマッドサイエンティストなのかそうではないのか、わからないような作りになっていた。
このあたりの見せ方が巧い。
岩上を含め、患者は本人もしくは家族の意思で廃用身切除を決断しており、岩上は決して無理な誘導はしていない。
だが、中盤以降に廃用身切除による問題が次々と持ち上がり、漆原は悪人のように取り扱われる。
ラストを含め、後半はある程度想像できる展開になるのだが、染谷将太の演技が、本心が見えてこない漆原にぴったりとハマっており、見事な世界観が構築されていた。

面白いと言える内容とは言えないが、高齢化社会の問題に一石を投じる作品と言っていいだろう。

84.廃用身

よろしければこちらもお読みください
渋谷の墓参り|K2sato

『選ばれない自分』(1)

房総高校書道部物語


いいなと思ったら応援しよう!

ラーメンと競馬と映画がたまらなく好きです。 こんな辺境の文章を読んでいただきまして、本当にありがとうございます!

この記事が参加している募集