「金髪」(備忘録的感想)
「君の顔では泣けない」の坂下雄一郎が、監督と脚本を担当したオリジナル作品だ。
中盤やや構成がぎこちない部分もあったが、かなり面白い作品であった。
市川(岩田剛典)は、30歳の公立中学校教師だ。
ある日自分が担任の生徒たちが、何人も金髪で登校する。
当然学校は大騒ぎとなる。
話を聞くと、少し前に隣のクラスの家後と言う生徒が、髪が赤いから染めてくるようにと担任教師から指導され、それをきっかけに不登校になっていた。
それを知った市川のクラスの板緑(白鳥玉季)がクラスメート数人に金髪になることを提案すると、話をまた聞きした他のクラスメートもノリで金髪にして登校した。
なぜ金髪に染めることがダメなのかと生徒が尋ねても、学校側は「校則だから」としか答えない。
生徒たちはさらに元々の「髪を染める」と言う校則にも異議を唱え、校則の見直しを訴えた。
すると生徒の中に、文部科学大臣の後援会長の孫がいて、話が文部科学大臣まで伝わってしまう。
大臣が現在の社会状況にそぐわないという発言をすると、校長は教師たちに校則の見直しを指示する。
だがその後、総理大臣が校則に異議を唱えるにしても金髪にするのはどうか、と言う発言をすると、今度は一転して校則の見直しは行わないことになった。
コロコロと変わる学校の対応に、担任の市川は振り回され続けていた。
30歳となり、学校内では若手扱いだが社会的にはオジサンに分類されることもある。
友人と飲みながら職場、そしてオジサン扱いされる自分の環境を嘆き、お互いに共感しあうのだが、付き合っている赤坂(門脇麦)からは、SNSを見ても文句ばっかり言っている時点でもうオジサンだ、と痛烈に批判される。
だが市川は赤坂の言っていることがよく理解できないレベルでズレており、そういう意味では大人になり切れていなかった。
生徒が金髪になっている時点でSNSで話題になっていたが、大臣を巻き込んだため世間一般で大騒ぎになってしまうが、騒動の発端となった板緑は冷静だった。
ヤケになった市川からキレ気味に黒髪に戻せと説得されても、理路整然と反論する。
その後市川は別の生徒を説得しようとするが、話をした直後に生徒を軽く突っ込むと、勢いで転んでしまった。
その場面を切り取られ、生徒を突き飛ばして馬乗りで殴った、と言う噂が流れてしまう。
市の教育委員から聴取をされる市川。
だがその聴取の場面でも、市川はうまく弁明ができず、停職の処分を受けてしまう。
そしてさらに、市川が板緑の髪をつかみ、無理やりスプレーで髪を黒く染めようとする動画が拡散する。
教員の過酷な職場環境、学校の校則、そしてSNSを含む新旧メディアの裏取りをしない無責任な報道、拡散など、現代社会の問題点を皮肉った作品だ。
大人になりきれていない教員市川と、その場しのぎではなく、冷静に根本的な問題解決にこだわる中学生の板緑の構図が巧く機能している。
そこに、市川を心配する赤坂、市川と同じような大人になり切れていない友人、事なかれ主義の校長、現場の実情を理解しながらも他人事感覚の市教委の二人、などが絶妙に絡んでくる。
また、この監督はセリフの間が絶妙だが、この作品では空間の使い方も巧いと思った。
理科室の扉を開け、こちらを見ながら驚きの表情をする板緑を映し、板緑が何を見て驚いているのかを想像させるなど、映像に奥行きを感じた。
ただ、中盤で市川が生徒を殴ったと風評被害を受けるあたりから、ちょっと話がぎこちなくなる。
ここから板緑の髪を染める動画が拡散し、ストーリーは大きく動くのだが、この二つのエピソードをつなぐ説明が少ないため、観ていてちょっと違和感を感じた。
とは言え、先日観た「君の顔では泣けない」でも思ったが、この監督は卓越したセンスの持ち主だ。
今後もこの監督には注目していきたいと思う。
164.金髪
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