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銀河漂流記 ーー遥かなる再会の空(11話)

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目次
登場人物
自己紹介

孤独な帰還と遺された希望

目が覚めると、視界はまばゆいばかりの純白に包まれていた。
ぼやける意識の中でボクの顔を覗き込んでいたのは、白衣を着た、穏やかな眼差しの50代くらいの男性と、薄いブルーの制服をまとったボクと同い年ぐらいの女性だった。

「良かった。気がついたようですね」
女性が春の陽だまりのような笑顔を見せると、隣の男性も安堵したように深く頷いた。

いったい、今はいつ? ここはどこ? 宇宙飛行士になったのは、もしかして夢? それともこれは夢?
ボクは夢か現実かわからなくなり、混乱した。
驚くべきことに、その女性の顔が、幼い頃に失った母の面影にあまりにもよく似ていた。

「ここは……?」
高鳴る鼓動を抑えながらたずねる。喉が焼けるように乾き、声は枯れ果てた木の葉のようにかすれていた。

「病室ですよ」 男性は落ち着いた声で答え、丁寧に頭を下げた。「私は医師のタニタです。あなたの主治医を務めます」

続いて、女性も深々と一礼した。
「看護師のミタです」

「いくつか確認させてください」 タニタ医師がペンライトで瞳孔を確認しながら問いかけた。「ご自分の名前はわかりますか?」

あまりに初歩的な質問に、少しだけ自尊心がうずいた。
だが、どんな逆境でも冷静だったリョウさんの姿を思い出し、ゆっくりと、一音ずつ自分の名前を告げた。

「意識は明晰ですね」
看護師のミタさんが胸をなで下ろし、医師と視線を交わした。

タニタ医師は右手の人差し指を一本立て、核心に触れる質問を投げかけた。 「最後にもうひとつ。あなたが、なぜあの『装置』に入ったか……覚えていますか?」

「もちろんです」
ボクは迷わず即答した。
ついさっき、リョウさんの穏やかな、けれど有無を言わせぬ声に送り出されたばかりなのだ。あの冷たい棺桶の感触を、忘れるはずがない。

「パーフェクトだ!」 医師の顔が満面の笑みに変わった。「これでもう安心です。あとはリハビリで、眠っていた体力を取り戻すだけですよ」

「……ということは」ボクは、重いなまりのようになった自分の腕を見つめ、その目を医師へ真っ直ぐに向けた。「今は、あの時から60年が経過した世界なのですか?」

「その通りです。あなたは60年間、冷凍睡眠装置(コールドスリープ)の中で眠り続け、今、蘇生処置によって目覚めたのです」

生きていた。あの「物言わぬ肉塊にくかい」になるリスクを乗り越え、ボクは未来へ辿り着いたのだ。
安堵の次にこみ上げてきたのは、仲間の顔だった。60年という歳月。もし存命なら、リョウさんは88歳だ。この星の医療が進歩していれば、まだ会える可能性がある。
「あとのみんなは……リョウさんは、どこにいますか?」

ボクの問いに、タニタ医師は悲しげに視線を落とし、静かに首を振った。 「……残念ながら、皆さん既に鬼籍に入られました。最後に息を引き取られたのはリョウさんでしたが、それも1年前のことです。享年87歳でした」

「1年前……」
せめて、あと1年早く目覚めていれば…。
まぶたの裏に、誰よりも冷静で、誰よりも優しかったリョウさんの面影が浮かぶ。胸を締め付けるような喪失感に、視界は瞬く間ににじんでいった。

「ですが、リョウさんはあなたに、大切なメッセージを遺しています」
タニタ医師の合図で、ミタさんが枕元にある小机の上に4冊のクリアファイルを置いた。

さらに医師は、小さな銀色のデバイスを掲げた。
かつて森の中でボクらの命を救った、あの空中投影プロジェクターだ。
当時は最新鋭の輝きを放っていたそれは、今では無数の細かい傷が刻まれ、大切に使い込まれた骨董品のような風合いを帯びていた。

「これに、動画メッセージが保存されています。……今、再生しますか?」

リョウさんに会える。ボクの命を未来に繋いでくれた、あの憧れの先輩に…。
エネルギーが枯渇していたはずの体に、熱い血潮が駆け巡った。

「お願いします……。ただ、一人で見させてください。落ち着いて向き合いたいんです」
感極まって泣き喚く姿を、彼らに見られたくなかった。何より、母に似た面影を持つこの若い女性の前では。

「承知しました」 医師は快く頷き、デバイスを操作した。「30秒後に起動するようタイマーをセットしました。……リョウ氏との再会をお楽しみください」

「よろしければ、これをお使いくださいね」
看護師のミタさんは、クリアファイルの上に何かを置き、医師と共に音を立てずに病室を出ていった。

震える首をようやく動かし、視線を落とす。
そこにはリョウさんの遺した記録の上に、淡いピンクの縁取りが施された、真っ白なハンカチが置かれていた。


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