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銀河漂流記 ーー遥かなる再会の空(4話)

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目次
登場人物
自己紹介

アダムたちに忍び寄る影

おそらく用を足しに行ったのであろう。リーダーがいなくなると、サブリーダーは隣に座るタクさんに楽しげに話しかけた。
「よかったなぁ、結婚できるチャンスがあって」

「いやいや勘弁してくださいよ。リーダーとは一回りも年が離れているんですよ。それに、あの性格ですよ?」  
タクさんは激しく手を振って断ると、厄介やっかい払いを押し付けるように、ボクとリョウさんのほうへ手を向けた。

「ボ、ボクも遠慮します」
リーダーはボクの理想とは程遠い。優しく美しかった母の面影は微塵みじんもなく、あるのははがねのような威圧感だけだ。
ボクはそんな結婚をするために、死ぬ気で勉強して宇宙飛行士になったわけじゃない。

「心配すんな。向こうもお前を選ばないから」
サブリーダーはゲラゲラ笑ってタクさんを切り捨てた。

「ひどっ……」
フグのように頬を膨らませてむくれるタクさん。

その顔を見てさらに笑いが止まらなくなったサブリーダーは、涙を浮かべながらボクに言った。
「ユウも、心配すんな。リーダーはガキは嫌いだ」

「24歳です。ガキじゃありません」  
本当に失礼な男である。こんな上司の下で一生暮らさなければならないのかと思うと、一気に未来が暗く沈んでいく。

「となると、リョウしかいないなぁ」 サブリーダーはリョウさんを指さして、くるくると回した。「そういえば、お前を見るリーダーの目は違う。本命はお前だ」

「いえ。結婚より前に、自分はまだやるべきことがあるので」
リョウさんは、サブリーダーの不謹慎な振る舞いにも、決して感情を乱さない。
やはり、ボクとは格が違う。やはりボクはガキなのかもしれない。恥ずかしくて、穴に入りたくなった。

「あ〜あ、全員にふられちゃった。ライバル不在になって、ようやく、人生初のモテ期が到来とうらいして喜んでいたのに。かわいそうなリーダー」
サブリーダーは、大げさにリーダーに同情するような声色をあげた。
しかしすぐに意地の悪い表情に戻すと、耳打ちをする時のように口を手で覆ってささやく。
「でもよ、結婚より仕事を選んだって言ってるけど、実際は、結婚できない悔しさを仕事にぶつけてきたんだろうな」

よく、そんなひどい陰口を言えるものだ。
でも、ボクらのやりとりを初めから聞いていたとしたら、リーダーはボクらにも腹を立てるに違いない。

タクさんはサブリーダーに調子を合わせていたが、急に真顔に戻るとため息をついた。
「でも、リーダーが言ったように、子孫を残せないというのは、問題かもしれませんねぇ」

確かに、その通りだ。
子孫を残せなければ、ボクらの代で終わりになる。要するに、この星で人類が絶滅するということだ。
そうなると、本当に、リーダーとの結婚は無理だと言っている場合じゃないのかもしれない。

とはいえ、リーダーは41歳。妊娠適齢期を過ぎている。
うまく妊娠できたとしても、産婦人科医がいないこの星で高齢出産をするのは、非常に危険だ。

いや、無事出産できても、その子には結婚相手がいない。
となれば、結局同じだ。

でも、その子が女の子だったら、話は変わるか。
男性メンバーのだれかと結婚すれば、子供をつくれるからな。

しかし、その女の子がボクの子だとして、サブリーダーと結婚するとしたら…。

ゾッとしてサブリーダーを見ると、サブリーダーは暗い表情でつぶやいた。「子孫を残せないのなら、張り合いがなくなるなぁ…」

「まったくです」タクさんは頷く。「食って寝るだけの人生じゃ、虚しいっす」

「そうですよ。前向きに生きなければ、もったいないです」リョウさんは暗さを吹き飛ばすような明るい声をあげた。「人生たった一度なのですから」

しかし、サブリーダーは暗い表情を一ミリも変えず、冷ややかに言う。
「いいなぁ、お前は能天気で」

そんな嫌味を言われても、リョウさんは一ミリも明るい表情を崩さない。
「絶望しないで、がんばってみましょうよ。人生何が起こるかわからないんですから」

「がんばるって、何を?」

「どうにかして使命を果たす方法がないか、いろいろ考えてみませんか」

「アホか」
サブリーダーは鼻で笑った。
そして、これ以上、くだらない話に付き合っていられないといった感じで、わざとらしくあくびをすると、草むらに上半身を倒した。

その時であった。サブリーダーの頭上のやぶから何かが飛び出すような物音がした。

「ギャー!」
サブリーダーは悲鳴をあげて跳ね起きた。
ボクも仰天して、飛び上がるように立ち上がる。

ところが、それは、かわいい野うさぎであった。

「なんだ、おどかしやがって」
サブリーダーはばつの悪い顔をしながら石を拾うと、逃げていくうさぎに投げつける。

しかし、うさぎの逃げ足は速く、うさぎから遠く離れた場所に石は落ちた。

「ああ、びっくりした」タクさんは胸に手を当て、呼吸を整えながら言った。「でも、うさぎで良かった」

「まったくだぜ。もし、あれが…」
サブリーダーはそこで何か恐ろしいことに気がついたらしく、急に顔色を変えた。

「ど、どうしたんですか?」
タクさんは恐る恐る尋ねる。

「この星に宇宙人がいたらどうする?」
サブリーダーは小さく声を震わせる。

間抜けな話だが、そのリスクを忘れていた。
宇宙人がいるかもしれないと思うと、さっと血の気が引く。

ところが、タクさんは無邪気な顔で、宇宙人の首を締める真似をした。
「見つけたら、捕まえて殺しますか」

「バカ。捕まって殺されるのはこっちだ」サブリーダーはタクさんの首を締めるポーズをとって、「奴らから見れば、オレらは侵略者なんだぞ」

「そ、そうでした。どうしましょう…」

サブリーダーはその返事に応えずに、リョウさんに訊く。
「宇宙人がいる可能性は高いと思うか?」

「う〜ん、どうでしょう…」リョウさんは少し考えて、「いたとしても、文明人じゃないと思います」

「なんでだ?」

「この星のどこかに高度な文明社会で暮らす宇宙人がいるとしたら、こんなに素晴らしい場所を未開のままにしておかないでしょう」

「そうか。そうだよな…」
サブリーダーは周囲を見回してから、少し表情を和らげる。

「でも、野蛮な未開人はいるかもしれませんよね」
タクさんが身をすくめて情けない声をあげた瞬間、背後でガサガサと物音がした。

「ひゃーっ!」  
悲鳴をあげたタクさんがボクに抱きつき、その勢いでボクも腰を抜かした。

地面にいつくばったまま振り返ると、そこには腕を組み、冷徹な視線で見下ろすリーダーがいた。
「何よ。化け物でも見るような目で見て。失礼ね」

「す、すみません。未開人だと思ったもので……」
タクさんは慌ててボクを突き放すと、深く頭を下げた。
しかしすぐに顔を上げ、股間に手をあてて足踏みを始めた。
「なんか、ビビったら、おしっこしたくなっちゃった」

「ちょっと、やるなら人のいない場所でしてよ」
リーダーは心底嫌そうな顔で、自分が出てきた方向の反対を指さした。

「は、は〜い」
タクさんは大慌てで、密林の奥へと消えていった。


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