不安を洗うプチ旅行
様々な不安を抱え、一人で家にこもっていても気持ちが沈むばかり。昨日は思い切って、日帰り温泉へ出かけました。父が入院している今だからこそ行けるのだ、という思いが背中を押してくれたのです。
その温泉は山の中腹にあり、車で20分ほどの距離にあります。
桜の名所としても知られており、道すがら、昭和の懐かしい風景が残る集落に癒やされながら山を登っていくと、ちょうど桜が見頃を迎えていました。
毎年、ここには両親を連れて花見に来ていました。
昨年も同じです。しかし、その数日後に母が病に倒れ、2ヶ月後には他界。さらに今年の4月には父が入院しました。
一年後にこれほど過酷な運命が待っていようとは、当時は思いもしませんでした。
今年も両親を連れてこられたらどんなに嬉しかっただろう……そう考えると、胸が熱くなります。
温泉施設の手前にある桜はまさに満開で、まるで桜の森の中にいるようでした。
到着したのは9時40分。駐車場はまだ空いており、入り口に一番近い特等席に車を停めることができました。
この温泉を訪れるのは、今日が初めてです。
市営の施設なので入浴料も安く、家でお湯を沸かすより経済的かもしれない。そんな計算も、ここを選んだ動機のひとつでした。
施設自体は古いものの、館内は旅館のような風情があり、どこか遠くへ旅行に来たような気分にさせてくれます。
何年も旅行から遠ざかっている身には、この空気感を味わえただけでも、来た甲斐があったと感じました。
営業開始の9時から入浴できると勘違いしていましたが、実際にお湯に浸かれるのは10時からとのこと。
ロビーのソファで15分ほど待つことになりましたが、そのおかげで客もまだ少なく、男湯では「一番乗り」を果たすことができました。
大浴場は大理石の床で、源泉かけ流しの温泉が広い湯船を満たしています。私のすぐ後に70代くらいの男性が入ってきましたが、二人きりでゆったりと湯に浸かる贅沢を味わえました。
温泉に入るのは、実に10年ぶりでしょうか。「やっぱり温泉はいいなぁ」としみじみ感じ入りました。
窓の外には眩しい青空と満開の桜が広がり、まるでこの世ではないどこかへ迷い込んだかのようです。
心身がとろけるような心地よさで、体を洗おうと湯から上がると、力がほどよく抜け、雲の上を歩いているような不思議な感覚に包まれました。
休憩を挟みながら3回ほど入浴を楽しんでいると、次第に客が増えてきたので上がることにしました。
誰もいない脱衣所で着替えていると、80歳前後の男性が入ってきて「もうお帰りですか」と親しげに声をかけてくれました。
開始と同時に入ったことを伝えると、今度は私から「よく来られるのですか?」と尋ねてみました。
どうやら時々訪れる常連さんのようです。私は初めてであること、そして父が入院している間しか来られないので利用させてもらったことを話しました。
するとその方は、自分も一年ほど前に入院していたのだと話し、完治してこうして温泉に来られるようになった証として、手術の痕まで見せてくれたのです。
驚いたことに、病気の内容も入院先の病院も父と同じでした。そこに不思議な縁を感じずにはいられませんでした。
「お父さんもきっと良くなるよ」と、神様か仏様が励ましてくれているような気がして、「ああ、今日ここに来て本当によかった」と心から思えました。
「またお越しください」というスタッフの声に見送られて山を下ると、このまま帰るのが惜しくなり、車で10分ほどの距離にある巨大なショッピングモールへ立ち寄ることにしました。
この複合施設を訪れるのも、実は初めてです。
両親の介護を始めてからオープンした場所で、ずっと興味はありましたが、広大な施設の長い距離を歩く体力がない両親を連れてくることは難しく、これまで願望を果たせずにいたのです。
店内に一歩足を踏み入れると、そこもまた別世界でした。まるで都会に来たような華やかさで、ここでもまた観光気分を味わうことができました。

よし、それなら今日は「やりたくてもできなかったこと」をもう一つ叶えよう。そう決めました。
それは、介護生活の中でずっと食べたかった「思い出の味」を口にすることです。
地域のソウルフードであり、子供の頃に母と街へ買い物に行った際、よく一緒に食べた懐かしい味。
その夢を実現するため、一度帰宅し、混雑する昼どきを避けて午後1時に市街地にある名店へと向かいました。
家から市街地までは約4キロ。あえて徒歩で向かうことにしました。節約のためでもありますが、歩くことで今の鬱々とした状態を払い、空腹という最高のスパイスを利かせて念願の味を楽しみたかったのです。
このご時世、値段はかつての倍(それでも大盛りで850円)になっていましたが、私にとっては感動も倍。それだけのお金を払う価値が十分にある一杯でした。

久しぶりに、実に贅沢な時間の使い方ができました。魂の洗濯ができ、今日は苦しみが少しだけ和らいだような気がします。
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自己紹介
私が現在書き進めている小説はこちら。
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