新しい民主主義へのスタートライン
90歳の父は先月7日、背骨の骨折と前立腺がんで入院しました。幸い、自分で歩いてトイレに行けるまでに回復し、23日に退院することができました。
昨日は、退院後初の外来通院の日でした。父と二人で暮らす家から病院までは2キロほど。車で病院へ向かい、父に付き添って泌尿器科の待合スペースの椅子に座っていると、胸が痛くなるような懐かしさがこみ上げてきました。
「またこの景色を眺めることになるとは……」
そこは、18年前の私が患者として何度も通った場所でもあったからです。
この病院の泌尿器科は形成外科と隣接しており、待合スペースを共有しています。40歳だった私は、今の自分が見ているのと同じ景色を、形成外科の患者として眺めていたのです。
翌月に40歳を控えていたあの頃、勤めていた食品工場で年末の大掃除をしていた際、私はコンベアのプーリーにゴム手袋を巻き込まれ、利き腕に大けがを負ってしまいました。すぐに救急室へ運ばれ、そのまま1か月間の入院を余儀なくされたのです。
その年の大晦日のことは、今も鮮明に思い出されます。
4人部屋の病室で、同室の方に見えないようカーテンを閉め、NHK紅白歌合戦を観ていた私は、ある曲を聞いて声を殺して泣きました。馬場俊英さんの『スタートライン』でした。
「青春と呼べた時代は過ぎたのに」まだ夢を追い、うまくいかず、「これからのことを思うと、負けそうになる」。「心配なことがあって、しゃがみそうになる」。 40歳になっても理想を捨てきれず、大けがで心が折れかけていた自分に、売れなかった時代の苦しさを歌った馬場さんの歌詞が痛いほど重なりました。
布団の中で大泣きしながら、「信じることをやめないで」という言葉に励まされ、「いつかきっと、真心が何かにかわる」というフレーズに、震えるような勇気をもらったのです。

入院中、私はシャープの「ザウルス」という小さな携帯情報端末に、独自に研究していた新しい社会システムのアイデアをひたすら打ち込み続けました。それが、今の私が描いたユートピアの原型となりました。
歌詞の中に「大切なことはいつも、誰も教えてくれない」という一節があります。ならば、その大切なことを自ら提示できるような作品を世に出したい。その思いは18年経った今も変わりません。
世の中には、現状のシステムを批判する本があふれています。鋭い指摘に学ぶことは多いのですが、具体的な対案が示されないまま終わるものが多く、どこか消化不良のような不満を感じていました。
私たちが本当に知りたくって困っているのは、問題の多いシステムに代わる新しいシステムなのです。
だからこそ、私は具体的なシステムを提示し、世に問いたいと思ったのです。
ユートピアという手法の良さは、ゼロから新しい形を創造できる点にあります。
もちろん、空想の世界のアイデアをそのまま現実に使えるわけではありません。しかし、既成概念に縛られない柔軟な発想の中からこそ、現実の閉塞感を突破するアイデアが生まれると信じています。
私の考えたシステムは、まだ未熟で発展途上です。一人の知識で完成させることはできません。
だからこそ世に出し、多くの人の力を借りて育てていきたいと考えています。
また、私の提案に触発され、自らのユートピアを提示する人が増えることも期待しています。
多様なアイデアが集まれば、現実の壁を突破する力はより強くなり、新しい世界の光が見えてくる可能性が高まると確信しているからです。
「でも、大切なことはいつも、誰も教えてくれない」。 この歌詞の通り、答えは誰かに教えてもらうものではなく、自分で決めた道を進む中で見つけていくものです。
政治家や他人のせいにせず、自ら考え、提案し、新しい流れを作る。それこそが、真の民主主義へ近づく道ではないでしょうか。
政治家に丸投げをし、投票だけで責任を果たしたつもりでは、同じ道を辿るだけです。それでは、この閉塞感から抜け出すことはできません。
ユートピアの手法で人々の叡智を積み重ねていけば、「いつかきっと、真心は何かにかわる」はずです。
今は未熟でも、次のシステムを諦めずに考え続け、示していくこと。それこそが、真の民主主義への「スタートライン」になると信じています。
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