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銀河漂流記 ーー遥かなる再会の空(9話)

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目次
登場人物
自己紹介

神の制約とアダムの孤独

「なるほど、環境と共生できる高度な文明社会を創造して、この星で人類が幸福に暮らし続けられるようにすれば、未来の人たちは異星に移住しなくても済みますね」
ピンチをチャンスに変える素晴らしい名案だ。ボクは、この絶望的な状況に一筋の光を見た気がして、思わず拍手した。


「アホか」 サブリーダーは、吐き捨てるように言った。 「そんなユートピアを創造できないから、オレらはプランAだのBだので右往左往することになったんだろうが。理想と現実は違うんだよ」

「簡単な話ではないのはわかっています」 熱意があふれたのか、珍しく、リョウさんの口調は少し熱を帯びた。 「でも、プランCで解決しないと、結局また同じ破滅を繰り返すだけです。今度は失敗の歴史を知っている我々がいる。もう一度、人類の歴史をやり直すチャンスをもらえたと思って、がんばりましょうよ」

確かに、技術開発ですべてを解決しようとするのも、当てもなく移住先を探すのも、ある種の博打ばくちだ。それに比べれば、今ここにある「白紙の母星」を正しく導くプランCの方が、よほど建設的に思えた。

酔った頭でもその現実は理解できたのか、サブリーダーは苦々しく舌打ちをするだけで、それ以上は何も言い返さなかった。

「簡単ではなくても、必ずできる。そう信じる根拠が、私たちには3つあります」
リョウさんは、暗闇の中で指を立てるようにして続けた。

「3つの根拠?」
暗闇の中、食い入るようにタクさんが身を乗り出した。

「そうです。1つ目は、自然豊かな時代に戻れたことで、そもそも環境危機が存在しない点。2つ目は、既存の利害関係や社会的なしがらみがない『白紙』の状態からスタートできる点。そして3つ目……これが最大のアドバンテージですが、太陽光や風力といったクリーンエネルギーの理論を最初から活用できる点です」

「なるほど……。汚染を引き起こす化石燃料の時代をまるごとスキップして、最初から持続可能な社会を目指せるわけですね」
パッと視界が開けた気がして、ボクの声が弾んだ。

リョウさんは「その通り。そうすればプランAの再生技術も、最初から『維持技術』として活かせる」と力強く頷いた。

「ヨ〜シ、やってやるか!」 サブリーダーは、急に現金な声を張り上げた。 「プランCを成功させれば、オレたちは持続可能な文明を築いた『始祖しそ』として、1万年後の教科書に神として名を残すことになるからな」

「そうですよね!」 タクさんも、鼻を鳴らして便乗した。 「ボクも歴史に名を刻むためにがんばります。スフィンクスよりすごい銅像、建てちゃおうかな」

ボクも、リョウさんの崇高な目的と、他の二人の俗っぽい野心に挟まれながらも、この「神様ごっこ」のような壮大な計画に協力することを誓った。

「皆さん、ありがとうございます」 リョウさんは深く感謝を述べた後、少し声を潜めて釘を刺した。 「……ただ、プランCを成功させるために、ひとつだけ絶対に守ってほしい約束があります」

「なんだ? 改まって」
機嫌のいい声で訊くサブリーダー。

「古代人たちを、決して奴隷のように扱わないでください。彼らは私たちの先祖であり、プランCの真の担い手です」

「んー……」 サブリーダーは不満そうに唸った。 「神として君臨したほうが、効率がいいんじゃないか?」

「力で押さえつければ、私たちがいなくなった瞬間に彼らは反旗はんきひるがえすか、教えを捨ててしまいます。何より……」 リョウさんは、冷徹な響きを含んだ声で付け加えた。 「強い恨みを買えば、寝首をかかれるリスクが高まる。毒を盛られるか、寝ている間に槍で突かれるか……」

「あ、暗殺、ひ〜っ!」 サブリーダーは見苦しいほどに震え上がり、 「わ、わかった! 暴君として悪名を残すのも本意じゃない。対等に、いや、寛大な神として接することにしよう」

「よろしくお願いします」
リョウさんはそう言うと、ようやく安心したのか、深い寝息を立て始めた。

みんなが寝静まった暗闇の中、ボクは一人、天井の隙間から見える星空を見つめる。
プランC。素晴らしい計画だ……。
けれど、ボクの胸には、小さなトゲが刺さったままだった。

一万年以上前の、過去の母星。 ここには、ボクのルーツは何一つ存在しない。ボクが愛したお母さんも、彼女がいつか生まれてくるはずの家系も、そのすべてがまだ影も形もないのだ。

「お母さんに似た女性と結婚する」というボクのささやかな、けれど人生のすべてだった夢は、このタイムスリップによって物理的に消滅してしまった。
ボクがこの星でどれほど文明の種をまき、神としてあがめられたとしても、ボクの「本当の孤独」を埋めてくれる人は、この時代には一人もいないのだ。

「……おやすみなさい、お母さん」
ボクは、さらに深まった絶望を噛みしめ、重いまぶたを閉じた。


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