銀河漂流記 ーー遥かなる再会の空(8話)
神頭山の再会~使命を捨てないアダム
サブリーダーは鼻で笑い、挑発するように言った。
「へぇー、どんな証拠だよ。酔っ払いの寝言じゃねえだろうな」
「これです」
リョウさんはそう言うと、多機能記録端末を差し出した。
高感度センサーが捉えた鮮明な写真が、バックライトで闇の中にサブリーダーの顔を青白く浮かびあがらせる。

「それ、なんだかわかりますか?」
「……中星だろ」
サブリーダーは即答する。
母星の唯一の衛星『中星』。数万年前からの先祖に親しまれ、幾多の詩や歌に詠まれてきた、我々の故郷の象徴だ。

「その通りです。では、ディスプレイを操作して次の写真を見てください。……これは?」
「何だよ。……これも中星じゃないか。少し角度が違うが」
「正解です」
リョウさんは静かに、だが重いトーンで種明かしを始めた。
「最初に見せたのは出発前に母星で撮ったもの。次に見せたのは、先ほどここで撮影したものです。クレーターの配置、海(暗い部分)の形状――演算上、0.01パーセントの狂いもなく一致しました」
「えっ!?」
ボクらは一斉に声を上げた。
「他にもあります。星座の配置、そしてこの山です」
次に見せられたのは、高層ビルの向こうにそびえる、人が両手を大きく広げているような形をした特徴的な山頂を頂く、その名も『神頭山』の写真だった。
母星では代表的な霊山で、世界に名の知れた有名な観光スポットである。
確か、この山のある地域は、サブリーダーの故郷だ。

それを、ここで撮影した神頭山に似た画像と重ねる。
端末が弾き出した結論は非情だった。
『同一物体であると判定しました』
端末から流れる無機質な音声が、真っ暗な室内を凍りつかせた。
「まさか……、じゃあ、ここは、オレたちが住んでいた母星だってのか!!!」
サブリーダーは、熱湯を浴びせられたような勢いで跳ね起きる。
激しく揺れる端末の光が、パニックに陥ったボクたちを狂ったように照らし出した。
「そうなります」
「そ、そんな馬鹿な! じゃあ建物は? 文明はどこへ消えたんですか!」 ボクはたまらず口を挟んだ。 「おかしいですよ。普通に航行していただけなのに、世界が原始時代に退化するなんて……!」
「退化したんじゃない。我々が遡ったんだ」 端末の光に偶然映し出されたリョウさんの瞳は、茅葺の天井を焦がすほど鋭い眼光を放っていた。 「恐らく、航行中に遭遇した高重力異常による『時間逆行事象』で、我々は、文明が生まれるはるか昔――過去の母星に漂着したんだ。ここは、未来ではなく、我々のルーツそのものなんだよ」

リョウさんの説明を聞きながら、ボクの脳裏にいくつもの符合が浮かび上がった。
この星の懐かしい匂い、教科書で見たような古代の住居、そしてあの白濁した飲み物――。
「……あのお酒」 古代史で学んだ『口噛み酒』。神仏の使者として崇拝される老婆が米を噛んで吐き出し、唾液で発酵させる神聖な、だが現代人の感覚では受け入れがたい製法……。
それを自分が飲み干したのだと気づいた瞬間、猛烈な吐き気がこみ上げてきた。

通信もナビゲーションも死んだ理由が、ようやくわかった。
助けを呼ぶべき『現代』そのものが、この時間軸の宇宙には、もう、存在していないのだ。
「じゃあ、オレたちはどうすればいいんだ……」
膝から力が抜け落ちたサブリーダーは、藁の床に崩れ落ちる。
「使命を果たすだけです」
リョウさんだけは、絶望の淵でなお、明かりを灯すような声をあげた。
「使命……? 家族も、救うべき同胞もいないこの時代で、それに何の意味があるんだよ!」
タクさんが叫ぶ。その声は泣きそうだった。
リョウさんには悪いけど、ボクも同じ想いだった。
お母さんに似た女と出会う夢…。類人猿に近い風貌の古代人しかいないこの世界では、その夢を叶えることは物理的に不可能なのだ。
「プランB(異星移住)は、もう無意味です。救うべき『未来』は、これから我々が作るしかない。だから――」リョウさんは、暗闇の中でボクらを見回した。 「プランCを提案します。……プラン・カルマ(業)。あるいは、プラン・創世記です」
「創世記だぁ?」
サブリーダーが顔を上げる。
「未来の破滅を知る我々が、この時代の始祖となり、二度と同じ過ちを繰り返さない文明の『種』を植える。彼らに知恵を授け、環境を破壊しない文明社会の発展のさせ方を伝え続ける礎を築くのです。それこそが、未来の人たちを救う唯一の方法です」
リョウさんの目は、暗闇の中で恐ろしいほど澄んでいた。
次回の話
この続きも見たいと思ったら、応援いただけると励みになります。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは明るい未来を創造する活動費として大切に使用致します。