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【超短編ホラー小説】悪癖(人目を避ける)

悪癖(人目を避ける)

窓の外は、深い霧に覆われていた。しとしとと降り続く雨の音は、もはや遠い記憶となり、世界はただ重い沈黙の中に沈んでいる。この古い日本家屋の障子は、白く濁った光を僅かに通すだけで、外界の気配はまるで届かない。それが私にとって、唯一の安息の場所なのだ。人々の視線から隠れ、喧騒から隔絶された、私のための密室。
私の意識はいつも、内なる暗闇へと深く沈んでいく。人々の光に晒されることを極度に恐れ、私は自分自身の影の中に閉じこもるのだ。彼らの他愛ない冗談や、弾むような会話は、私にはただの耳障りな騒音に過ぎない。彼らの視線は、まるで鋭い針のように、私の敏感な肌を刺し貫く。彼らがそこにいるという事実だけで、私には耐え難い不快感をもたらすのだ。
夜の静寂は、私にとってかけがえのない友である。闇の中で、私はようやく自分自身と向き合うことができる。誰の目も気にすることなく、自由な呼吸をすることができるのだ。しかし、その静寂の底からは、常に、微かな不安の音が聞こえてくる。それは、外界が私を見つけ出そうとしているのではないか、という陰鬱な予感だ。私は、この深い闇の中に、永遠に隠れていたいと願う。



この家のあらゆる場所には、私が人目を避けてきた痕跡が残されている。常に固く閉ざされた雨戸、光の届かない部屋の隅、決して使われることのない裏口。これらの場所は、私の聖域であり、外界の侵入を拒む厳重な砦なのだ。私は、自身の周りに見えない薄布を織り上げ、人々との接触を最小限に抑える。それが、私にとっての唯一の生存戦略である。
食事の時間は、必要最低限の儀式に過ぎない。誰かと顔を合わせることは極力避け、一人で静かに済ませる。食物の味など、もはや重要ではない。ただ、空腹を満たすためだけの機械的な行為だ。向かいに座る人影など、私には想像すらできない。人々との共食など、考えるだけで胃が重くなる。
時折、どうしても外出せざるを得ない時がある。その際、私は入念に変装し、できるだけ目立たないように行動する。人々の流れの中に身を潜め、自分の存在を溶かすことを試みるのだ。しかし、彼らの目が私を捉える瞬間、体中に冷たい汗が滲み出る。まるで、何らかの罪を犯したかのような罪悪感に苛まれるのだ。
そして、私は悟る。この「悪癖」、すなわち人目を避けるという行動は、単なる内気な性格ではない、ということを。それは、より深く、より陰鬱な何かが、私の魂を蝕んでいる証なのだ。過去の心の傷か、あるいは生まれつきの性質なのかはわからない。ただ、人々の存在そのものが、私にとって耐え難い脅威なのだ。この状態から抜け出すことは、もはや不可能かもしれない。私は、この陰鬱な隠遁生活の中で、ゆっくりと、しかし確実に、自分自身を溶かしていくのだろう。人目を避けることこそが、私にとっての唯一の安心なのだから。


さて、読者の皆様、いかがでしたでしょうか?私が心を込めてお届けしたホラー小説が、この暑い季節に、少しでも皆様の体感温度を下げることができていれば幸いです。
じめっとした夏の夜に、背筋がゾクリとするような感覚、あるいは、じんわりと心に広がる静かな恐怖を味わっていただけたなら、これほど嬉しいことはございません。物語の冷気が、皆様の心に涼やかな風を運んでくれることを願っています。
ご感想やコメントをいただけると、私の創作活動の大きな励みとなりますので、どうぞお気軽にお寄せください。これからも、皆様の心に響くような物語をお届けできるよう、精進してまいります。


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