燃え尽き症候群からギバーを救うには?
来年の夏、アダム・グラントに会いに行く。これは、そのために始めた連載企画(No.9)である。今回のテーマは「燃え尽き症候群からギバーを救うには?」だ。
1.ギバーには2種類ある
ギバー(与えることに喜びを感じる人)には2種類ある。
「他者志向のギバー」と「自己犠牲のギバー」 だ。
このうち、「自己犠牲のギバー」は、文字通り自分よりも他者を優先させてしまう。人を助けることに強い動機づけをもつがゆえに、それが達成されないと自分を責める傾向がある。その結果、最悪の場合、「燃え尽き症候群」(バーン・アウト)に陥ってしまう。
人は燃え尽きると、仕事のパフォーマンスが損なわれる。注意力がガタ落ちし、仕事の質も量も低下する。そして心身ともに不調になり、うつ病、肉体疲労、睡眠障害、免疫システムの低下、心血管疾患にかかるリスクが高まる。
こうしたギバーを生まないために、いったいどんな方法が考えられるのであろうか?
2.全米ワーストの学校に赴任した教師
オーバーブルック高校は、全米ワースト1位に数えられる教育困難校だ。
悪名高い麻薬密売地から、わずか数ブロックしか離れていない。
高校に在籍している1200名のうち、500名近くが停学処分を経験し、暴行容疑は50件、武器・麻薬不法所持容疑も20件に上っている。
この高校に、有能でやる気のある若い教師が派遣された。教師を派遣したのは「Teach For America(TFA)」という教育系NPOで、大学の学部卒業生を教育困難校に派遣し、教育格差の是正に取り組んでいる。
TFAは、ギバーでいっぱいだ。調査によれば、ここにいる教師の多くが
「恵まれない生徒たちの力になりたい」「生徒の人生を変えてあげたい」と考えているという。
今回派遣されたのは24歳の教師、コンリー・キャラハン。高校時代は
女子サッカーとラクロスチームのキャプテンを務め、ジュニアオリンピックの選手に選ばれたこともある。知的な才能を兼ね備え、成績も優秀だった。
彼女は、次世代をになう子どもの未来に高い理想を持っていた。
「低所得者層の子供たちのために、教育のチャンスを向上させたいのです」
3.燃え尽きてしまったコンリーがとった手は?
ところが、コンリーの理想は、学校に到着した途端に打ち砕かれた。それからの毎日は、生徒のケンカをやめさせ、犯罪と戦い、授業に出てこない生徒を探し出すことで過ぎていった。
自分の力ではどうしようもない現実。コンリーはついに我慢の限界に達した。
「最悪でした。ボロボロに燃え尽きて、何もかもやめたくなりました。学校にも足を運びたくなくなってしまったのです。」
コンリーは自分でも「あまりにも生徒に尽くしすぎている」と感じていた。
朝7時に出勤し、夜中の1時まで自宅で仕事をし、週末も働いていた。
このような場合、「与えるのを減らす」のが最も有効な方法に思える。
ところが、コンリーはそうしなかった。
それどころか、さらに「与えた」のである。その結果、コンリーの疲労症状は逆に消えていき、気力が回復していった。
いったいコンリーの復活の秘訣は何だったのだろうか?

4.「意味のない仕事」に誰もが燃え尽きる
少し別の話をしよう。10年前のことだ。アダム・グラント(※註)のもとに大学のコールセンターから相談の電話があった。「どうすればオペレーターのやる気を維持できるか」という内容だった。
オペレーターは大学の卒業生に連絡をとって、寄付を頼むのが仕事だった。ところが「断られる割合」が98%を超えていた。
「電話をかけても全然うまくいかないんです。出だしの言葉を言い終わらないうちに遮られ、寄付には関心がないと言われてしまうのです。」
アダムは、ギバーのオペレーターが燃え尽きてしまうのは何故かを考えた。
調べてみると、このコールセンターのオペレーターは、
「誰が寄付を受け取るのか」「寄付金がその人の生活にどのような影響を与えているにか」、全く知らされていなかった。

5.「自分は感謝されている」という意識が エネルギーに変わる
ギバーは「自分がが感謝されていない」と感じると、燃え尽きてしまう。
アダムは、ギバーのオペレーターが最も喜ぶ見返りが与えられていないことが原因だと考えた。
そこでアダムは、オペレーターの前でウィルという奨学生からの手紙を読んでもらった。ウィルの奨学金はコールセンターが集めた奨学金で賄われていた。
こんな内容の手紙である。
「どこの大学に入るか決断するとき、他の州の大学の授業料がとても高いことを知りました…。祖父母はこの大学で出会いました。父と4人の兄弟も
全員ここに通いました。僕の中にはこの大学の血が流れているのです…。
僕はずっとこの大学に通うことを夢見ていました。だから奨学金を受けられるとわかったときは、うれしくてたまりませんでした。ここで与えられた
チャンスは必ず大切にしようと思っています。奨学金は僕の人生を変えてくれました。」
燃え尽きそうになっていたギバーたちは、この手紙に内容を聞いて活力を取り戻した。寄付金を集めれば集めるほど、ウィルのような奨学生をたくさん助けることができるのだ。
アダムは、オペレーターを直接奨学生に会わせることにした。
その結果、寄付してくれる卒業生は、毎週144%の割合で増え、センターの収入は5倍になったという。
6.ギバーを「燃え尽き」から救うには
コンリーに話を戻そう。このとき彼女は、「与える」ことをあえて減らさなかった。逆に山ほどの仕事を抱えながら、仕事を増やしたのである。
新しくTFA(教育系NPO法人)の教師指導のボランティアを始めた。教師たちとテストづくりや教案づくりを手伝った。さらに2人の友人とともに非営利の組織を立ち上げた。
なぜ仕事を増やすことが彼女を蘇らせたのか?
ギバーが燃え尽きるのは、与えすぎたことが原因ではない。
それによってもたらされた影響を、前向きに認めてもらえないことが原因である。
コンリーが高校で精神的に疲れ果てたのもそうだった。彼女は言う。
「教えることで自分が何ができているのか、確信が持てませんでした。
人の役に立てず、自分の時間を無駄にして、何も貢献できていないだけなのではと…」
彼女は新しくボランティアを始めたり、非営利法人を立ち上げたりしたことで、いっそう忙しくなった。しかしこれらの経験は、それまで高校で経験した「影響力の空白」(無力感)を埋めることが出来た。
「自分は誰かの役に立っている」という感覚が、コンリーの活力を回復してくれたのである。
ギバーは、与えることにエネルギーを注ぎすぎるせいで燃え尽きるのではない。困っている人をうまく助けてやれないときに、燃え尽きるのである。
自己犠牲のギバーを復活させる方法。
それは、「自分は誰かの役に立っている」という感覚だ。それさえあれば、燃え尽きることなく、どんな仕事でも頑張っていける。
自分がギバーだと思う人は、覚えておくといいだろう。
(連載:第9回はここまで)
この内容は、アダム・グラントの「GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代」(三笠書房:楠木建監訳)のパート6に掲載されている記述をご紹介するものです。
※註)アダム・グラントは、アメリカの心理学者でペンシルベニア大学ウォートン校の組織心理学教授。ベストセラー作家としても知られ、特に著書は「GIVE&TAKE」が世界的に有名。組織の心理学、創造性、成功、人間関係などを研究し、TEDの講演や企業へのコンサルティング活動も行っている。
