【読了】天然痘予防のために種痘の接種に命をかけた町医者の物語『雪の花』吉村昭
『雪の花』は天然痘で命を奪われる人々を救おうと、種痘という新しい予防策を命を賭して広めようと努めた、福井藩の町医者、笠原良策の物語です。
今年に入って、吉村昭作品を2冊読みました。
『海の祭礼』は長崎通詞守山栄之助を中心とした、幕末開国の話。
『冬の鷹』は「解体新書」の翻訳に従事した前野良沢と杉田玄白の話。
どちらも読み応えのある、素晴らしい内容でした。
この物語は、解体新書が世に出たあと、蘭方医学がかなりよく知られるようになってきた頃から始まります。
笠原良作は、元々は漢方医で、初めは蘭方医学には懐疑的でした。
ある時、彼は湯治先でひとりの蘭方医と出会い、意見交換をしました。
これからの医療のために、蘭方医学を学ばなければならないと気持ちを入れ替え、新しい知識を手に入れるべく勉学に励むようになります。
そんな中、天然痘の予防策として、「種痘」という方法があることを知ります。
牛痘を皮膚に埋め込む方法で、これをすると免疫ができ、生涯天然痘にかかることがないというのです。
国内でも、長崎では確実に効果が出ていることを知り、良策はなんとかして、この牛痘を手に入れて、人々を天然痘から守ろうと奔走します。
ここから、彼の過酷な運命が始まります。
まず、牛痘を手に入れるのが大変なんですよね。
当時はオランダ船で長いことかけて日本に来るまでに、変質して使えないことが多く、牛痘は大変貴重なものでした。
他には、種痘をした子どものかさぶたを持ち帰るなどもしたようです。
やっとの思いで手に入れ、子どもに接種しても、うまく反応が出なければ失敗になります。
牛痘を持って福井に帰ってからも、親たちは怖がって子どもに種痘を受けさせません。
藩の役人や、藩医(漢方医)からの理解も得られず、苦しい立場に置かれてしまいます。
悪魔の医者と言われて石を投げられたりして、虐げられてしまいます。
当時の日本は鎖国をしていたこともあり、西洋のものを必要以上に恐れ、嫌悪していたこともあるのでしょう。
辛い状況が続き、良策はどんどん疲弊してしまいます。
それでも、種痘さえ行えば、もう天然痘にはかからないことがわかっているため、彼はひたすら前に進んでゆきます。
良策を理解してくれる人が少しずつ増えていったのは、やはりその想いの強さに打たれたからでしょう。
幕末の不安定な時代に、疫病から人々を救うことができました。
やはり、オランダとの交易を通じて、西洋からの医学の知識が日本に入ってきたことが大きな時代の変化の一つになったんだと感じます。
この時代の日本には、好奇心旺盛な「西洋の知識を知りたい」人々がたくさんいて、もうその流れは鎖国政策では止めることができなくなっていたんだろうと思います。
『雪の花』は映画にもなっているそうです。
なるほど、確かにこれは映画に向いていそうな作品です。
笠原良策という一人の医師のまっすぐな生き方に感銘を受けました。
吉村昭作品の中では短めなので、ぜひ手に取っていただきたいです。
Happy Reading!
