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第28回:「打席」の回数を増やし、キャリアのイノベーションの確率を増やす


前回の記事では、自分のキャリアにイノベーションを起こすためには、複数の専門性を掛け合わせる「新結合」が不可欠であるとお話ししました。


「100人に1人のスキルを3つ掛け合わせれば、100万人に1人の存在になれる」。

このロジックを実現するために最も重要なのは、「一見すると関連がないように見える点と点をつなぎ合わせる」というプロセスです。そして、その点をつなぎ、価値ある「線」へと昇華させるためには、同じ場所でじっくりと打席に立ち続ける時間が必要なのです。

1. イノベーションは「点」の蓄積から生まれる

イノベーションとは、全く新しい「点」をゼロから生み出すことではありません。自分の中に散らばっている、既存の点と点を新しく結びつけることです。

例えば、私が歩んできた道もそうです。 「高度な手術の研鑽」「低侵襲なロボット手術」「患者さんの生活の質(QOL)の向上」。これらは一見関連しているようですが、それぞれ異なるスキルです。

しかし、同じ環境で打席に立ち続け、試行錯誤を繰り返す中で、ある時、これらの点と点が一本の線でつながりました。それが、「高度な手術手技を、低侵襲かつ精緻な操作が可能なロボット技術で体現し、患者さんの生活の質を向上させる医師」という私独自のスタイルです。今は、それを後進に伝える「教育」にも力を入れています。

キャリアにおいて、無駄な経験はありません。今は無関係に見える「点」も、打席に立ち続けることで、いつか必ず意味のある「線」として結びつく時が来ます。

2. 「時間を信用に変える」という投資

プロフェッショナルにとって、時間は単に過ぎ去るものではなく、「信用」へと変換すべき資源です。

どれほど優れた「点(スキル)」を持っていても、昨日今日現れたばかりの人に、組織や顧客は「人生を左右するような大きな仕事」を任せることはありません。同じ場所に留まり、誠実に打席に立ち続ける。その積み重ねが「あの人なら間違いない」という信用に変わり、その信用が、さらに新しい点(経験)を獲得するための「最高の打席」を呼び寄せるのです。

時間をかけて信用を築くことは、自分という資産の価値を最大化させる、最も確実な投資と言えます。

3. 転職による「獲得」と「喪失」のトレードオフ

もちろん、転職によって新しい環境に飛び込み、新しいスキル(点)を手に入れることも有力な選択肢です。しかし、そこには見落とされがちな「喪失」があります。

新しい点を得る代わりに、これまでその場所で積み上げてきた「時間の蓄積による圧倒的な信用」を、一度手放すことになるのです。

人間関係も、その場所特有のナレッジも、信頼貯金も、すべてが一度リセットされます。新しいスキルは手に入っても、それを掛け合わせ、価値あるアウトプットに変えるための「土壌(信用)」を失ってしまえば、イノベーションが完成するまでの時間はさらに遠のいてしまいます。

4. 「知的複利」を途中で解約しないために

知と知が混ざり合い、独自の型に昇華されるまでには、ある種の「発酵期間」が不可欠です。

目先の好条件や外部の雑音に惑わされ、スキルが混ざり合う直前で環境を変えてしまうのは、せっかく複利が効き始めた資産を途中で解約してしまうようなものです。トップ層がひしめくレッドオーシャンで競うのではなく、自分だけの「掛け算」を完成させる。そのためには、自分が最も研鑽を積める場所で、じっくりと腰を据える勇気が必要です。

最後に:打席を守り抜く「盾」の存在

「打席に立ち続ける」とは、単なる現状維持ではありません。同じ場所に留まりながら、新しい知を取り込み続け、自分の中で点と点をつなぎ続ける「動的な継続」なのです。



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