第29回:資産形成の種を蒔き、キャリアに花を咲かせる
これまで2回にわたり、自分のキャリアにイノベーションを起こすためには「スキルの掛け算」が必要であり、その掛け算を完成させるには同じ場所で「打席に立ち続ける」ことが不可欠であるとお話ししてきました。
しかし、ここで一つの大きな壁にぶつかります。 「その打席に居続けること自体が、現実的に極めて困難である」という事実です。
1. 理想と現実の「生存率」
ある調査によると、大学病院で働く医師の半数以上が、過酷な労働環境や給与水準を理由に「将来は大学以外の病院で働きたい」と考えているといいます。一方で、「将来も大学病院で働きたい」と願う医師は約3割。その理由は、「研究を続けたい」「高度な技術を身につけたい」といった、まさに「スキルの掛け算」を志す前向きなものです。
しかし、現実はさらにシビアです。 私の周囲を見渡しても、医学部入学時に100人いた同級生のうち、最終的に大学でキャリアを全うできるのはわずか5人程度——「生存率5%」という印象です。多く見積もっても1〜2割程度でしょう。
志を持って「高度な知の掛け算」を始めた多くのプロフェッショナルが、志半ばでその打席を降りていく。その最大の理由は、能力の欠如ではなく、生活という現実的な重圧です。
2. 「やりたいこと」と「生活」のデッドヒート
大学病院のような高度な専門性を磨ける環境は、得てして「労働時間は長く、給与は抑えめ」という構造的な問題を抱えています。
若いうちは情熱でカバーできても、結婚、子育て、親の介護といったライフイベントが重なるにつれ、給与の低さは無視できないリスクへと変わります。「家族を守るために、今の専門的な環境(打席)を捨て、より高給な環境へ移らざるを得ない」。これは多くの優秀な医師が直面する、最も苦渋に満ちた決断です。
イノベーションに必要な「時間の蓄積」や「知の融合」は、生活の安定という土台が崩れた瞬間、その継続が不可能になってしまうのです。
3. 資産形成は「自由の購入」である
ここで、私が一貫して提唱している「資産形成」の真の意味が浮かび上がります。
私が投資を行い、戦略的にローンを活用して経済的基盤を整えているのは、贅沢をしたいからではありません。「お金のために、自分が大切にしたいキャリア(打席)を諦めないため」です。
経済的な余裕(盾)があれば、
本業の給与が多少低くても、自分が最も成長できる「打席」に居続けることができる。
目先の好条件を提示する「隣の芝生」に惑わされず、知的複利を信じて継続できる。
キャリアの難局に直面した際、焦って不本意な決断を下さずに済む。
資産形成とは、人生の主導権を取り戻し、自分の志を貫くための「挑戦権」を買う行為に他なりません。
最後に:あなただけの「花」を咲かせるために
「たかがお金」かもしれません。しかし、その「たかがお金」のせいで、一生をかけて磨き上げてきた専門性や、これから生まれるはずだったイノベーションを途中で枯らしてしまうのは、あまりにも大きな社会的損失です。
プロフェッショナルとして独自の価値(掛け算)を完成させ、世界に貢献し続けるために。 まずは、資産形成という「種」を蒔き、生活の安定という揺るぎない土台を育ててください。
その土台があってこそ、私たちは心おきなく「打席」に立ち続け、自分だけのキャリアという大輪の花を咲かせることができるのです。
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