[小説]僕は僕を信じて生きていた 中学生編episode 10
中学生編 episode 10
『私達は決して見放す事なんか無い
今までの出会いとは違うんだよ
出逢うべきして出逢ったんだ
塞ぎ込んでも何も生まれない
塞ぎ込んでいても先には進めないんだ
奇跡の出逢いを信じてるって言っただろ
暖かい陽の光とともに
土砂降りの雨はきっと上がるさ
虹の様な架け橋が君の為に架けられた
君には見えてるはずだと思い聞かせているんだ』
佐藤に当てられたスポットライトが五光にまで見えてきて、恥ずかしいけれど佐藤のファンになりそうなくらいだった。
『僕達は何も出来ないのがもどかしい
ほんの少しの勇気しか分けてあげる事しか出来ない
僕達と乗り越えようぜ
皆んなが君の帰りを待っているんだ
でも僕達は今と言う時間は
次の瞬間の為に存在してると確信してるんだ
今を僕達と乗り越えよう
僕達が君の帰りを待ってるんだぜ
そんな余裕も有るはず無い
あなたに私達の気持ちは分かるはずがない
そうさ私達は何処まで行っても君にはなってあげられない
君が何を言おうとも僕達の君への気持ちは変わらない
変われないんだ
何故そこまで俺の事を思ってくれる?
僕達の事が全く分からないなんて言わないで
君が僕達にしてくれた事を君にやってるだけ
良い加減見えてくるでしょ
可能性を秘めた虹の吊り橋が
END
演奏終了後、手の平が真っ赤になる程に一人拍手喝采。
「佐藤君!良いじゃな~~~い!私の目に狂いは無かったわね」
「いやいや、そんなに褒めないで下さい・・・そこら辺に居るただの中二ですよ」
何とメンバーの一人の方は、よっぽど感動したのか涙を流していた。
「あなた達は今後の練習具合によっては相当上手くなるわね!竜士君はドラム、佐藤君はボーカル確定でしょ~・・・。肝心なギターとベースはどうなってんの?」
二人共に顔を見合わせ、
「一人断られてしまって実は未だ二人だけなんです・・・」
「そうなのよね~。メンバー探しも大変なのよねぇ・・・。ねぇ暁美達さぁ、この子達のメンバーが見つかるまでの間だけでも協力してあげるって言うのはどう?」
「いえ!こちらがお願いしたいくらいです!お前らはどうよ?」
「まッマジッスか!佐藤はどう?」
「いやいや断れる訳ないでしょう。状況を考えろよ!・・・。いや暁美さん!そう言う意味ではないです。もちろんお願い致します!」
「はい決まり!暁美達のライブ今度いつだっけ?」
「ちょうど一ヶ月後です!」
「あ~そ~一ヶ月しかないんだぁ。まぁこの子達なら大丈夫と信じてるわ!」
僕はおどけ付いていたのに、佐藤は大きく首を縦にうなずいていた。
「そうと決まれば、今日から一ヶ月猛練習ね。暁美達も他人事じゃないわよ!この子達に色々と教えてあげないといけないでしょ!一ヶ月間Aスタは自由に使って良いわよ。もちろん無料でね!」
「とっともみさん。それはダメですよ・・・」
ともみさんは凄い形相で暁美さんを睨みつけ一言。
「何か文句でも有る!つぅか悶絶親父ども呼んで来てよ!」
まるで暁美さんは怯えている様だった。直ぐさま親父さんと良一さんを呼びにスタジオから出て行った。数分後、良一さん達は大事な所を抑えながら暁美さんに連れて来られた。しかも、親父さんは耳たぶを引っ張られながらの光景。誰がどう見ても確実に嫌々連れて来られたのは明らかだった。
「暁美様~良い加減離して頂けますか?本当、めちゃくちゃ痛いんですけど・・・」
「ほぉ~らよ。ハゲは本当に根性ねな~!だからハゲるんじゃねぇのか?」
親父さんの耳たぶを見ると真っ赤になり爪の跡がクッキリと浮き出ていた。
「良一!今日結成した子達の曲を聴いてあげて。もしかしたらお前も感激するかもよ・・・」
「どう言う意味ですか?まるでともみさんは感激したみたいな言い方じゃないですか・・・」
「まぁまぁ、良いから聴いてみなさいって!」
暁美さんと佐藤が、ヒソヒソ声で何やら打ち合わせをしていた。正直、悔しい反面も有り同じ曲はもうやりたくないと思う自分がいた。
「じゃあ行くよ!ハゲぇ~~~!耳の穴かっぽじって良~く聴きな!」
★何処までも続くレール★
『脱線なしで人生偉そうに語ってんじゃねぇよ
敷かれたレールをゆっくり引いてもらったんだろ
ポイントの切り替えも人任せだったろ
信号は全て青
今までどうしようも無くて
立ち止まった事なんてねぇだろ
そんなお前に俺達の声は届くのか
俺達は今まで敷かれていたレールは
自分達の手で全て捻じ曲げてやった
捻じ曲げたレールは全てスクラップ
売ったお金で新しいレールを敷いている最中さ
このお金が尽きるまで
何処までも敷いて行こうと強く心に決めたんだ
ルートなんかは皆んなの感覚次第
思いのままに敷いて行ける
夢のレールを手に入れたんだ
私だって好きで乗ってた訳じゃ無い
僕だって何度も何度もトライしたんだよ
その度に世間体とか言う
大きな絨毯に丸め込められた
挙げ句の果てにぐるぐる巻きに縛られて
息苦しさに耐えるので精一杯
今までやりたい放題の君達には
こんな僕達私達の気持ちなんか
これっぽっちも分からないでしょうよ
人の気も知らないで言いたい
放題言わないで頂けますか
何だよぉそうだったんだぁトライしてたんだ
今からでも遅くねぇよ どう どうよ
俺達と一緒に敷かれたレールをねじ曲げながら
新たなレールを敷いてみない
夢か誠か何処でどうしちまったか意味不明
気が付けば曲がりくねった
赤字路線をトボトボと走っていた
成功ばかりで脱線無しでは人生語れねぇんだ
人の痛みが分かって初めて語る権利
敷かれたレールをゆっくり引いてもらってたら
自分のやりたい事なんて出来るはず無いでしょ
ポイントだけでも自分で切り替えてみれば良かったと思うぜ
信号の電源は全て切っておいた
もう息苦しさに耐える事なく
自由に行けるんだ自由に生きれるんだ
自分の可能性を最大限まで
高められる状況が出来たんだ
やるしか無いでしょ
自分自身で引き出そう
必ず周りも力になってくれるからさぁ』 END
何と全く知らない曲で動揺を隠しきれずに居ると、良一さんが居ても立っても居られなかったのか、奇声をあげた後に泣き崩れてしまった。泣き崩れながも良一さんが、
「ともみさん!こんな事聞いてねぇですよ。しかも俺が一番好きな曲!こんなクソガキ共の演奏に感激するなんて・・・。有りえないですよ。俺達だって相当過酷な練習しましたけど、こんなにも・・・。お前らよぉ誰に教わったんだ?教えねぇとどうなるか分かってるよな!」
「さっ佐藤さ~どう言う事?俺達この曲練習してないじゃん。何で練習してねぇ曲まで完璧に歌えるんだよ・・・」
「ごめん!中々言い出せなかったんだけど、俺、一回聴けば大体歌えるんだよね~。キモイでしょう。前に親が、お前は絶対音感の持ち主だとか意味不明な事言ってたんだけどね」
すると、ともみさん、親父さん、良一さん、いやその場に居た全員が声を揃えて
「えっ?えぇ~~~~~~!絶対音感!お前それはミュージシャンが最も欲しがってる能力だぜ!しかも絶対音感は持って生まれた才能で、どれだけ練習したって身に付けられ無いんだぜ!まさかのまさか、地元に居たとは驚きだぜ!」
「すみません。絶対音感って何ですか?」
「竜士君はそんな事も知らずに音楽やってたの?確か、あなた達の二つ上の先輩達もバンドマンでしょう。教えてもらえなかったのね。確かサッカー部だったと思うんだけど・・・。あ~名前が思い出せ無い・・・。そう!仁(ジン)の兄貴よ~・・・」
「もしかして、仁志先輩の事ですか?」
「そうそう仁志、仁志よ!彼奴はイケメンよね~。私が同じ年代に生まれていたら、どんな手段を使っても自分の彼氏にしてたわよ~。あっ、ごめんごめん。そんな話どうでもいいわよね~。実は、仁志も絶対音感の持ち主なのよ!彼奴は自分の自慢話は本当にしないのよね・・・。そんな所も女子達を虜にさせてるのかもしれないけれど、もっと後輩に色々な事を教えてあげれば良かったのにさぁ・・・。そう言う所は全くダメなのねぇ~。今こんな事言うのもアレだけど、ハゲ親父はその点が良く出来る男でねぇ・・・。まぁ、そんな優しい部分が大好きになったんだけどね~。ところが馬鹿が付く程に後輩想いで、一時期は私なんかほったらかし。後輩の練習に真夜中まで。調子に乗って朝帰りも繰り返し離婚の危機だったのよ!あ~~~、思い出したらムカついてきた!何処に居るかだけでも連絡よこせって言ってんのによ~!」
よほど頭にきているのか、ともみさんが不良へと変身していくのが手に取るように分かった。そして、この一言でさっきの和やかな空気は一変した。
「おい、ハ~ゲ~~~!そんな所で感動してねぇではよこっち来いや!!!」
何と、この一言で親父さんがブチ切れてしまった。
「トモよ~、そんな言い方しなくたって良いじゃんかよ!大体、俺の事をハゲって言うのは週に二一回って決まってるだろうがよ!!!今ので二二回目。THE ENDだ!今まで、いい夢見させてもらって楽しかったぜ。来世のお前も見て見たいもんだな!今、子供達三人居ないのが非常に残念だ。子供達の事よろしく頼む・・・。最後に一言言わせてもらう。いいか!今回は完全にトモが約束を破った結果だ。これを認めねぇって言うのならば、三人が何を言おうとも子供達は俺が引き取る!聞かしてくれ、認めるのか?認めねぇのか?どっちだ!あぁ?」
「・・・。・・・。・・・」
「黙りこくってねぇで何とか言えやコラ!さっきの勢いはどうした?」
まさかの展開に皆んなが息を飲み込む。誰一人として発言する事も出来ない程の味わった事がない緊迫感にお姉様方の一人は気絶寸前にフラフラで白目をむいている。
「おい救急車!救急車呼べや!いや待て・・・、俺が連れて行った方が早いな!竜士、お姉さまをお姫様抱っこして来いや!。俺は単車回して来る!」
当然の事ながら、断れるはずもなく白目を向いてしまった二番目にキレ可愛いお姉様を抱きかかえ、狭苦しい急な階段を駆け上がった。駆け上がると同時に爆音と共に良一さんがノーヘルメットで登場。
「いっや~~~、今日はそんなつもりじゃなかったからメット持ってきてねぇんだよ。おっ、ちょうど良い所に工事現場があるじゃんか!竜士、現場用ヘルメットかっぱらって来いや!速攻な!!!」
「は、はい。でもお姉様は?」
「しょうがない。俺が見てるからその辺に転がしておけや!・・・?何だその目。お前、何か言いたい事でもあんの!」
何も言えるはずもない。バリケードを飛び越え工事現場へと忍び込んだ。休日とも有り職人さんは一人も居ないみたいでホッと肩をなでおろした。早いとこヘルメットをお借りして良一さんに届ける一心。一三階建てのマンション最上階から物色する事にし、サッカー部で鍛え上げられた脚力を生かし非常階段を一気に駆け上がる。ところが、何と二階部分の踊り場にちょうど良く二つのヘルメットが無造作に置かれていた。直ぐさま小脇に抱え良一さんの元へと猛ダッシュで現場を後にした。開口一番の良一さんの言葉に耳を疑った。
「何でお前の分も盗んで来なかったんだよ!しょうがねぇお前ノッペルな!」
良一さんの中では初めから決めていたみたいで、何と有り得ない事に三人で病院へ向かう事になった。
「いいか!お姉様が真ん中で、俺とお前で落ちない様に挟み込む。竜士、お前は俺のベルトを掴んで死んでも離すな!分かったらサッサとお姉様を乗せろよ」
良一さんがまるで悪人の様に感じショックで仕方がなかった。言われるがままにお姉様をタンデムシートにまたがせ僕は猫の額程の席へと飛び乗った。
走り出した直後、爆音にも劣らない大声で良一さんからの要望が浴びさられた。
「いいか、良~く聞けよ!お前がベルトを強く引き寄せる事により、お姉様のBIGオッパイが俺の背中に密着するって算段だ。ん?な~んだよ!その軽蔑の眼差し・・・。そんなの阻止してやるって面してるぜ~。無駄無駄~~~。もし、お前がベルトから手を離したらお姉様は落ちちゃうじゃんか~。速度を上げれば上げる程ベルトを引き寄せる力が強くなりBIGオッパイとの密着度があがり至福の一時だぜ!おらおら~!しっかり掴まれや!」
更にアクセルを回され、悔しい事にベルトを引き寄せる力も速度と比例してしまい自分の根性の無さにホトホト嫌気が差した。結局病院に着くまでお姉様のBIGオッパイは良一さんの背中に密着していた。
病院に着くと何故かストレッチャーを取り囲みお医者様を含む四人の看護婦さんがスタンバイしてくれていた。
「お~~~流石ともみさん!あの人は本当に顔が広いよな~」
「付き添いの方、お話はともみさんから伺ってます。え~っと、竜士君に良一さんですよね。和美の状況を見る限り今日は泊まる事になると思います。連れて来て頂き本当にありがとうございました。この子の病気は難病に認定されている程で、発作が出たら直ぐに治療しないといけないんです・・・」
「あぁん?まるでお姉様の知り合いみたいな言いっぷりじゃんかよ!」
「あれ?ともみから聞いてないんですね。お姉ちゃんじゃなくて母親。改めまして和美の母の里美です」
なな何とお姉様のお母様。
お姉様と同様のBIGオッパイと美貌にただただ見惚れる良一さんと僕。
「ちょっと~~~お二人さん!視線が谷間に集中しすぎ!もう付き添い結構ですのでお引き取り下さい!!!」
「そこまで谷間が出てりゃ男なら誰でも見るわ!。本当は嬉しいんだろ~。このての女は本当は見られて嬉しいくせに表面では嫌そうな顔しやがってよ~。見られなきゃ見られないでツンツンしやがる。本当に面倒臭い人種だよな~!」
この一言がきっかけで里美さんが豹変。
「はぁ?何お前!ともみの知り合いだと思って大人しく聞いてれりゃ調子に乗りやがってよ~」
「えっ?ともみさんの事を呼び捨てなんてやばくねぇ!ともみさんが怒ったらお前の綺麗なお顔なんて秒殺でドブスになるぜ!」
一瞬の出来事で何が起きたのか理解出来なかった。何と良一さんが泡を吐いて気絶していた。すると、一人の看護師が
「鬼竜さん。鬼竜さ~~ん!鬼竜さ~~~ん!」
身長は二メートルを超えてるだろう大男の白衣を着たお医者様だった。里美さんはお医者様の問いかけにも応じる事無く、気絶している良一さんの脇腹めがけ追い討ちを仕掛けようとした瞬間だった。
「良い加減にせいや!俺がどれだけトラブルが嫌いか未だに分かってねぇんだな・・・」
そのお医者様は、何と里美さんのポニーテールを思いっきり掴み投げ飛ばし里美さんも気絶。しかも何故かお巡りさんのサイレンが近づいて来る。もう何が何だか訳が分からなくなり自分も気絶したふりをした。他の人は、駆け付けたお巡りさんから事情聴取を受ける事になってしまった様。その時だった。
「いや~・・・。お巡りさん、本当に申し訳ない!うちの若い衆が早とちりして通報してしまったみたいなんです・・・。本当に申し訳ありませんが、お引き取り願えませんか?こんな時間にもかかわらずごお隣さんが、暗闇のカーテン越しから白目向いてるんですよ?白目で・・・。白い目で覗いてるんです!」
「まぁた~。そんな事を言って、気をそらしたいだけって言うのが見え見えですよ!」
「はぁ?気をそらしたいだけ?何言ってんすか?こちとらガチで本当に真面目な話ですよ。この病院が出来てから来年で五〇周年。先輩方から伺う所によると、お隣さんが越して来たのは一〇年前位らしいんです。大きな大学病院の隣に越して来るって事は救急車やドクターヘリの騒音位覚悟するじゃ無いですか~・・・。ところが全くの逆で、あの人が越して来てから分刻みの苦情。先週の会議なんかでは、『面倒くせぇから、土地ごと買上げるか!』何て意見まで出て、残念ながら既にお隣さん買い占め計画は進行中なんです」
「本っ当、忙しいんだよねぇ~。病院の自慢話なんてどうでもいいからさぁ、念の為ここに居る全員の住所名前を記入して!『ピーピーピー、こちら本部。応答願います!』はい、こちら現着。誤報で問題ありません!『了解。えぇ~、調書終了後ライブハウス『mugenn』に急行願います!現場、恋愛のもつれからなる成人男女の喧嘩。四〇代男性意識不明の重体』了解しました。おい!お前らは聞き耳たててないで、とっとと記入しろ!こちとら忙しいんだよ!あ~~~本当面倒くせ~。今度は喧嘩だってよ!今日は全くやる気が出ない日なのに・・・」
すると、見事なロマンスグレーのお巡りさんがパトカーから降りて来た。
「そりゃ~そうだろうよ!昨日は一軒目焼き鳥屋、二軒目は海鮮居酒屋、三軒目はキャバクラ、〆にラーメン。で、食ったラーメンを全部吐いてたからな~。あれだけ飲めば二日酔いになるに決まってんだろ。にしたってこの時間になってもまだ残ってるってどんだけだよ!」
「いやいやいや~、昼位まで部長だって全身めちゃくちゃ酒臭かったですよ!」
「権田武蔵が『帰り際に明日は二人共マスク装着ですね~。自分が持って来ます!』って言ってタクシーに乗り込んだじゃんかよ!どうせ覚えてねぇ~んだろ?」
「ですね・・・。海鮮屋のあたりから記憶が飛び飛びで~す」
「何が『で~す』だ。開き直ってんじゃねぇよ!仏の鮫島様だって怒るぜよ!」
「へ~~・・・。この僕に怒る?そんな事したら出世に響きますよ~だ」
「出~た~。必殺、親の七光り攻撃!お前、何かに付けて所長を盾に使うの止めろよ。お前の教育係りはこの鮫島様なんだからな!所長にもしっかり教育する様に言われてるんだ・・・」
「部長はいっつもその話しますけど本当なんですか~?父上からは一言も聞いてないですけど~・・・」
「権田武蔵も毎回疑ってんじゃねぇよ。このボンボン息子が、この際どんな感じで所長に教育係りに任命されたのか教えてやるよ!耳の穴かっぽじってよ~く聞けよ!昨日、権田武蔵と行った焼き鳥屋に所長から呼び出されたんだ。しかも、あの酒豪の所長が一滴も飲まなかったんだ。それは当然俺様も飲めるはずもねぇだろ?そんでもって、この鮫島様が店長に無理言って、朝まで酒無しで語り合ったんだぜ。まぁ、なんだな~。結論から言うと、息子、権田武蔵の事が可愛く仕方がなくて、怒る事すら出来ずに大人にさせてしまったんだとよ・・・。ここまでわがままに育ってしまうと今更怒っても響かないと思ったらしい。それはそれは後悔してたよ。そんでもって親友の権田様にオファーが来たって事だ!お~~~見てみろよ、今日は星が綺麗だな。分かったか、このボンボン息子!!!」
少し離れた所から様子を伺っていた僕は一人で大爆笑。夜空を見上げながら熱弁している隙に全員その場から立ち去っていた。暗闇で映える程の美白で若いお巡りさんはパトカーの運転席。他の人達は、とっくのとうに和美さんを院内へと運び込んで行いた。
「ん?どこ行きやがったぁ!お馬鹿息子の権田武蔵~!」
「ぷ、部長~~~!そんな所で一人熱弁してないで早く『mugenn』に急行しないとですよ~。って言うか、なんでいっつも僕の事フルネームで呼ぶんですか?いい加減やめてもらいたいんですけど~!」
「はぁ?そんな事気にしてんのかよ?器ちっちぇ男だな~!ってか、何で鮫島様より先に・・・、しかも運転席に乗ってんじゃねぇよ!お前を運転させるなって所長からきつく言われてるんだ!権田武蔵がめちゃくちゃ事故を起こしてきた事は散々聞かされてんだ。買って貰う車という車、全て廃車にしてきたんだろ?大体にして、一台も自分で買った事がねぇって・・・。こんな事言うべきじゃねぇと思うけど、所長の権田武蔵への愛情がちょっとアレだったんだろ~な。あぁ?何だその眼付きは?文句があんなら言ってみろよ!」
「もう、いい加減にしろや!こっちがペコペコ頭下げてりゃ、調子に乗りやがって。親父がどうのこうのなんて関係ねぇって言ってんだろうが!っ~か、次フルネームで呼んだら・・・」
「あれ、もしかして権田武蔵怒ってんのか?」
「だ~か~ら~!フルネームで呼ぶなって何回言わせんだよ!マジで次はねぇ」
「あ~~~、やっぱり権田武蔵が怒ってる~ぅ~」
二人の距離は五〇m位。この大声のやりとりがきっかけが更なる苦情を呼んだのか、二台のパトカーにピッタリと挟まれる様に黒塗りの高級車が現れた。
車列の停車と同時の事。前後のパトカーから三人ずつのお巡りさんが飛び降りて来て高級車の運転席ドア前に整列した。テレビで観る偉い人の登場パターンは後部左ドアのはず。僕は何だかよく分からない展開にワクワク。一部始終を見ようと身を潜め、ベストポジションが見つかった瞬間だった。
「りゅ~~~ゔ~~~じぃ~~~!!!!」
気絶してた良一さんが意識を取り戻し、こっちを物凄い形相で睨みつけているが。何でここに隠れているのがバレたか不思議で仕方がなかった。
「今の聞こえてんだろ!いつまで野次馬やってんだよ!お姉様は送り届けた。こうしちゃいらんねぇ!『mugenn』に戻るぞ!」
良一さんがバイクに跨ろうとした時だった。運転席から出て来た鮫島部長より更に偉そうなおっちゃん。良一さんを知ってるらしく親しそうに話しかけた。
「加藤良一~。久しぶりだな!最近どうだ、真面目にやってんのか?お前達のお祖父ちゃん、加藤良八さんには散々お世話になった。お前はまだ小さくて覚えてるはずないだろうけどな・・・」
「あ~~~、やっぱり権田さんでしたか。ド偉い人で運転するのは権田さんくらいですよね~。噂ですよ。何~つって・・・。爺ちゃんから散々聞かされて来ましたから。権田さんの車両は面は普通に見せかけて、中身は違法改造バリバリ。コンピュータまで改造してるメーカフルチューン。税金使って自分の好きな様に改造して心が痛まいんですか?」
「ちっちぇ事言ってんじゃねぇよ!お前らクソガキは、大した納税もしてねぇのに何かに付けて税金の無駄使いって言いやがる!普通に考えて、一般車より速くしねぇと、お前らみたいな違反者を検挙出来ねぇだろうが!。あん?納得いかねぇんだろ?加藤良一!お前だけ、お前だけに教えてやるよ。忘れもしねぇ武蔵の三歳の誕生日。三歳っちゃ~、親にとっては何となく節目じゃんか。その日だけはと、一年前から有給休暇申請出してたんだ。勿論申請も降りて、納車されたばかりの軽乗用車で、愛すべき妻、朋子の大好きな秘境の温泉宿に行った時の事だ。山奥の一本道。って言っても、ちゃんと舗装されて綺麗な道だ。対向車が来たらどちらかがバックして、待避所で何とかすれ違えるくらいだ。その待避所が人生の大きなターニングポイントだった。すれ違った暴走族の車。運転してたガキが、すれ違いざまに缶チュウハイ片手に持ちながら手なんか挙げやがって・・・。いくら非番だからって見過ごす事が出来るはずねぇだろ!」
なんと、権田さんが顔をくしゃくしゃにして泣き出してしまった。
「クソ狭い待避所で何回も切り返し、Uターンして奴が事故を起こす前に何とかして捕まえなければと言う一心だった。『ちょっと!あなた?今日、何の為に来てるか分かってるわよね?どうしても、あの暴走族を捕まえに行くって言うなら今日で終わりね。離婚します。私と武蔵は宿に行くからここで降ろして!』この会話が本当に朋子と最後の会話になってしまった。山道をちょうど降り切った所でようやくクソガキをとっ捕まえる事が出来て、さぁ!これからこのクソガキをどういたぶってやろうかと思っていたんだけどな、辺りが一瞬で真っ暗になって今にも降り出しそうな感じになっちまって・・・。ところが、降りそうでも中々降って来ねぇんだよ・・・。そしたらな、チョロチョロしか流れてなかった沢の水が、あっという間に濁流へと変わってよ~。山の方だけ降ってたんだな。朋子と武蔵の事が心配になって下って来た道を速攻を戻ったぜ。あまりの状況に愕然としちまったよ・・・。数時間前には有った道が崩れ落ちて、車で宿へ行く事が出来なくなっちまったんだ。幸な事にまだ降って来ない。いても立っても入れずに車を置いて道無き道をかき分けダッシュで宿を目指したんだ・・・」
「もう良いっすよ~!勘弁して下さい・・・。そんな権田さん見たくないです!まして、何でこんなどうしようもない俺なんかにそんな大事な話するんですか?」
しばらく沈黙の時が流れた。
「一度しか言わねぇから、よ~く聞いておけよ!お前ら二人が良八さんのお墨付な事は勿論。俺自身もお前らの事が大好きだ。今までの様にお前ららしく、この腐敗した世の中で、いつまでも不良?いや!自分らしさを貫いて欲しい。お前らには、俺達みたいな大人になって欲しくないだけだ。いつまでも人に熱く優しくいて欲しい!友達や彼女から悩みの相談を受けた時は、誰がどうとか関係なく、相手の気持ちになって答えてやれ!まぁお前ら二人はその辺については全く心配ねぇ。良八さんの教えが染み込んでるからな。実は俺にも嫌っつー程染み込んでるんだ。
