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[小説]僕は僕を信じて生きていた 中学生編episode 9 

中学生編 episode 9 

 『mugenn』に着くと、受付の親父さんに度肝を抜かされた。ななんと、凛花ちゃんの親父さん。覚えていてくれている事を信じ意を決して、自宅にお邪魔した事とは関係ない話題をふってみた。
「す、すみません・・・。以前、仁志先輩達のライブを見に来た事が有るんですけど覚えてらっしゃいますか?・・・」
『お願いですから覚えていてください!』と、数秒の間強く強く念じた。
「はぁ?見た事ねぇ~顔だな・・・。まぁ、そんな事関係ねぇな。今日は練習か?」
 ショックのあまりに声が出なかった。すると、そんな空気を全く察する事の出来ない佐藤が一言。
「はい!初めてなんですけど大丈夫ですか?」
強面の顔が一瞬笑みをこぼし少し緊張がほぐれた。
「なんだ、お前ら初めてか!とりあえずメンバーズカードを作るから、ここに住所、氏名、年齢を書いてくれ。おぅ、最初に言っておくけど、他のスタジオではポイントが貯まると一時間無料とか有るみたいだけど、うちはポイント制はやってねぇから、そこんとこよろしくな!」
「はい、大丈夫です!なっ、竜士!」
「う、うん・・・」
 親父さんに覚えてもらってなかった事と、ポイントカード好きにはそれはそれはショックだった。
「Aスタジオが一番大きな部屋で機材も充実しててレコーディングまで出来る。Bスタジオは機材はAスタとさほど変わりなく部屋が少し小さい。C~Gスタは、とにかく安く練習できる。ってな感じだな!おうおう、言い忘れた。DスタとFスタは禁煙。マジで吸ったら張り倒すからな!そこん所ヨロシク~!ちなみに一番安いのはCスタ、機材はオンボロ。しかもエアコンが故障中」
「いやいや!僕達、タバコなんて吸ってないですよ~・・・。まだ中二ですよ!中二・・・。タバコは二〇歳からじゃないですか~!なっ、佐藤?」
佐藤のを見ると何故か微妙な表情を浮かべていた。
「竜士に任せるよ。何スタに入る?」
「お~~~!説明しといて悪いけどよ~、今、Aスタしか空いてねぇんだよ」
「あ~・・・。ちなみに料金はおいくらですか?通常のAスタは一時間四五〇〇円なんだけどな・・・ん~~~。なんとなくお前ら気に入ったから、今日は俺のおごりでAスタ三時間入っちゃえよ!」
「えっ、本当ですか!」
「余計な事なんか考えねぇで・・・。ノリとタイミングって重要だぜ!は~~~い、Aスタ二名入りま~す!ともみさ~ん、初めての子達なのでご案内ヨロシク!」
「あら~、竜士くんじゃない!バンド始めたの?あっ、愚問よね・・・。よりによって初めてのスタジオがAスタってね~・・・。機材のいじり方なんかぜ~ったいわからないでしょ~。しばらく居てあげるからやってみなよ!」
まっ、まさかのともみさんの登場に二人とも度緊張。色々といじってみたけれどもウンともスンとも言ってくれずに一時間が過ぎてしまった。二人顔を合わせ、意を決してともみさんに聞いてみた。
「すっ・・・。すみませんともみさん!何をやっても音が出て来ないんですけど・・・」
ともみさんを見ると、体育座りをして巨大なスピーカーにもたれながら爆睡していた。そんなともみさんをみながらの佐藤の言葉に耳を疑った。
「おっ俺さぁ~、前っから思ってたんだけど・・・ともみさんってめちゃくちゃ可愛いと思わない?いや~、この寝顔!マジでちょ~可愛いんですけど!竜士はどう思うよ・・・?」
 正直、同じ思いを抱いていた。けれどもそんな想いは口が裂けても言えるはずがない。どこでどう凛花ちゃんに知れてしまうかが心配だったからだ。
「佐藤、何言ってんだ!そんな事より、ど~やったら音出るんだよ~・・・。も~~~!トイレ行くついでに操作方法聞いて来るよ!」
 薄暗い廊下の突き当たり。どっピンクのスポットライトに照らされ、扉いっぱいに描かれた糞所の二文字がいやらしく浮き上がっている。こう言う所のトイレは兎に角汚いイメージ。恐る恐るドアノブに手をかけた。ところが、右に回しながら押しても引いてもビクともしない。左に回しながら押しても引いてもビクともしない。よ~く目を凝らして見ると、丸いドアノブが付いているのにも関わらず、なんと開き戸でも引き戸でもなくシャッター式。ノブの下に手を掛け勢い良く開けようとしたけれどもビクともしない。ノブの中心に視線をずらすと、どっピンク。単純に他の人が入ってるみただった。もう限界でモジモジ。太ももを思いっきり抓りながら我慢していた。
「マジでムカつく!本当、このシャッター重すぎるんだよ!」
 図太い声が聞こえたと思ったら、シャッターを思いっきり蹴る音が廊下に鳴り響いた。怖くなり、太ももを抓ったまま待合室まで後戻りしてしまった。すると待合室では、凛花ちゃんの親父さんが綺麗なお姉さん達に熱く語りかけている様だった。更に強く抓りながらも耳を傾けると、なっなんと
「いや~~~!君達めちゃくちゃキレ可愛いねぇ!!!」
完全なるナンパ。ともみさんの様なキレ可愛い奥様がいても、満足出来ないんだと不思議でしょうがないのと同時に腹が立ってきた。思わず口に出てしまった言葉に自分の耳を疑った。
「す、すみません。全然トイレが空かないんですけど・・・」
「ん?ははぁ、さては、お前大の方だろ!綺麗なお姉さん達の前じゃ言えないってが?」
 お姉さん達は苦笑い。
「小便だったら外でやればいいだろ?ここに来る奴らはほぼほぼ立ちションだぜ!シャッターにも描いてあったろ?まぁ、あの絵では分かりづらいと思ってんだけどな!大体の人に気持ち悪がられるだなぁ~」
 確かに、シャッター一面に謎の絵が描かれていた。それはそれは原色のみの奇抜な配色。おそらく人間だと思われるお尻に真っ赤な糞所の漢字二文字。あまりにも糞所の二文字に目を奪われ、シャッターの全体に目を通す余裕は全く無かった。
「漢字が物凄く達筆ですよね!」
「ん?なんだお前、その若さでこの書の良さが分かるのか?」
「なんと無く。なんと無くですよぉ・・・。お母さんが書道をやっていて、展覧会でも入賞してたんです。書道やってたなんて全く知らなかったです。ソコソコやってたんだと思います。色々と連れまわされましたよ~。正直、最初はこんな意味の分からない字の良さが全く分からなかったんです。ある作品展の事だったんですけど、八畳位の巨大な半紙に書かれた作品を見せられた時に度肝を抜かれた事が有りまして、自分の脳みそが逆さまになってしまったんじゃないかと思う程の衝撃を受けたんです。もはや書道の領域は無く、あれは完全な絵として見れてしまったんです。その影響ですかねぇ・・・。トイレの文字は有名な方が描かれたんですか?」
「なるほどな~。そこまで聞かれたのは初めてだ!しょうがねぇな!お前だけ、マジでお前だけだぞ!嫁さん、ともみのおばあちゃんが描いたんだよ」
「いやいや、だっ大丈夫ですか?お姉さん達にも聞かれちゃってますよ?」
「こいつらは俺のファンだからいいんだ。気にすんな!そんでもってな、そのおばあちゃんがただ者じゃ無くてよぉ。世界的に有名だったんだぜ!いや~~~、ともみの奴、糞所の字を描いてもらった直後に言いやがってマジでムカついたぜ。恥かかせやがってよ~。小学生でも知ってる位、世界的に有名なお祖母様だったんだよ~・・・」
 内心、これ程までに不良の親父さんが、『お祖母様』だなんて丁寧な言葉を言うとは思いもよらなく、よっぽど有名な人だと言う事が感じられた。
「お名前をお聞きしてもいいですか?おっ、お~~~そこまで突っ込むか?
しょうがねぇ、教えてやるよ。押部レツ。押部なんて苗字聞いいた事ねぇだろ~。俺もともみの苗字を聞いた時はビックリ仰天だったぜ」
「おっ、押部ですか?友達にこの字で飯部だったらいるんですけど・・・。まっまさか押部がいるなんて・・・。もしかして、もしかしたら繋がってるんじゃないですか?」
 すると、五人のお姉様方で、ずば抜けて綺麗なお姉さんが一言。
「ねぇねぇちょっといい?君達はお馬鹿さん?もし本当に親戚とかだったら、雌部って書くでしょ!飯って漢字なんて有り得ないじゃない!大体にして、押部の押が雄じゃねぇしよ!本当、こんなくだらねぇ話に付き合ってらんねぇ!おい!ハゲ親父。いつ迄もハゲ散らかしてんじゃねぇよ!いい加減Aスタの奴ら追い出せよ!予約書き忘れてたじゃねぇだろうが!残り数少ない毛髪、根こそぎブチ抜いてやろうか!」
 えっ、え~~~!まさかまさかのお姉さん達はAスタ待ち。最悪の場面に居合わせてしまった。シャッター全体の絵を理解出来ていたらこの場には確実に居る事は無かったはずだと自分の芸術センスの無さに打ちのめされた。そんな僕をよそに親父さんは泣きそうな顔で、
「君~その言い方はねぇだろ!人間誰にだって間違えはあるってんだ・・・。・・・、はいはい俺です。俺だよ。俺がぜ~んぶ悪いんです!
いや、髪の毛は俺のせいじゃねぇよ。遺伝だろ。遺伝!」
 その一言を皮切りにお姉さんの怒りのボルテージがMAXになってしまった。最近では見かけなくなった受付脇のピンク電話。ダイヤルをめちゃくちゃ高速回転させ電話し始めた。
「あっ、忙しい時にごめんね~~~。ちょっとmugennに来てくれる?
いや!強制命令で!そんでもってさぁ・・・プツ プー プー プー」
「フッザケンナヨ~!またあいつ一言も喋らずに切りやがった!」
「おっおい・・・。まさか親父様呼んだんじゃねぇだろうな?」
「あぁ~~~?呼ぶに決まってんだろうがぁよ!」
「マジかよ!それだけは勘弁してくれ~・・・」
 数分後訪れた人に驚かされた。爆音と共に現れたのはなんと良一さん。
「おう!ハゲまたやらかしたのか?あれほどうちの娘を怒らせるなって言っただろうがよ!前にやらかしたのは確か調度一年前じゃねぇか??年間行事じゃねぇだろうが。このエロハゲ親父。定期的に怒らせてるんじゃねぇよ!」
「えっ、そうでしたっけ?いやいや、エロハゲはないじゃないですかぁ」
「あぁ?だいたいよ、そんな風貌して内面は変態でチャラチャラってどうなんだ?普通は男気が溢れてるはずだろうがよ!!!」
 あまりにも直球な良一さんの言葉に親父さんは完全に打ちのめされ、なんとその場で泣き崩れてしまった。その姿を見た良一さんの娘様が更に追い討ちをかける。
「で~た~!相変わらず泣けば済むって思ってんだろ!それでも金玉ぶら下げてんのかよ!ともみさんがこんな奴となんで結婚したのか全くもって理解出来ないね!あっ、ともみさんごめんなさい。本心じゃ無いですよ~」
「とっ、ともみさん!いらっしゃったんですか?」
「ったくうるせ~つ~んだよ!スピーカーの切り替えやって無かったろ。こっちの音まる聞こえだっつ~の。せっかくいい気分で寝てたのにうるせーから金勘定してたんだ!」
?どうやらAスタジオとバックヤード扉一枚で繋がってたらしい。
「えっ?ずっとバックヤードにいらっしゃったんですか?」
「だから、ずっとじゃね~って言ってんだろ!何がバックヤードだよ!
こ洒落た言葉使っってんじゃねぇよ。どうせ良一の事だからつい最近覚えたんだろうがよ!」
流石ともみさん!昨日覚えたんです・・・。まさかこんなに早く使えるとは思いもしませんでした!な~んつって・・・。」
「馬鹿につける薬はないね!本当に昔の人は良く言ったもんだね。大体にしてバックヤードってのは、商品の在庫の保管場所や加工場などがある売場の裏側のことじゃんかよ!」
 受付の裏は広々した事務所だったらしい。
「事務所の事をバックヤードなんつって呆れてため息しか出ないは~私なりの馬鹿に付ける薬を処方してやろうか?」
 と言った瞬間だった。親父さんと良一さんの大事な所を蹴り上げた。二人とも悶絶し動かなくなてしまった。周りの皆んなは、ともみさんの行動に圧倒され言葉さえ出てこなかった。
「あ~スッキリした。で、どう言う状況だったっけ?」
「もうよく分からなくなっちゃいましたよ~・・・。最初はハゲ親父がAスタの予約を取り忘れていた事から始まったんです」
「なるほどねぇあっ、私Aスタで寝てたんだった。竜士君、竜士君達がAスタよね~」
僕はもう覚悟を決めた。
「お姉様。す、本当にすみません!最初から言えていればこんな事にならなかったと思います。実はAスタに入ってるのは僕達なんです・・・」
「なるほどね。こんな状況で言えるはず無いわよね!悪いのはハゲなんだから気にしないでよ~。暁美!ってぇ事で、あなた達も入っちゃいなさいよ!私が指導してあげるわよ」
「え~~~。って言っても、ともみさんが指導してくれる事なんて・・・。竜士君って言ったっけ?君さえ良ければ是非一緒にどう?」
佐藤に確認なんて出来る状況じゃなかった。佐藤なら必ず分かってくれると信じて、
「すみません!僕だけじゃなんです。でも喜ぶと思います!是非ご指導お願い致します!」
「竜士君もノリが良いじゃない。暁美!暁美と一緒にスタジオ入るなんて何年ぶりかね?
テンション上がるねぇ!悶絶野郎どもは置き去りにしてさっさと行こうよ」
「やった~~~!!!ともみさんと又スタジオ入れるなんて夢にも思いませんでした」
 暁美さんバンドのメンバーの方々も大興奮。僕の目の前は真っ暗闇に包まれた。正直、佐藤の反応が気になって仕方がなかった。
 Aスタの近くまで行くと、演奏の音は全く聴こえず佐藤の歌声だけが音漏れしていた。すると、ともみさんが一本指を立てて一言。
「ちょっと!シ~~~よく聴こえないだろうが。〇〇〇〇〇〇○。へ~~~・・・。友達良い声してるじゃん!もうちょっと盗み聴きしちゃおうよ・・・」

『たった一人の精神戦争
武器は全てを思いやる気持ちと
全てに対する優しさだけ
誰か最高の武器を僕にくれないかい
誰か最強の力を僕に貸してくれないかい
誰か!誰かがきっと!
一緒に戦ってくれるはず
皆んなの優しい気持ち
全てを思いやる気持ちを待ってます
手をさしのべようよ!
声をかけようよ!
永遠に続く精神戦争に勝利する為に

皆んなと同じかは解らない
僕は一人じゃ寂しくてたまらないんだ
永遠に信じたい
勝利は目の前と

分かっているはず
次に暗黒の世界に行くのは君
本当は分かっているはず
僕達しだいで世界は変わり続けて行くんだ』

「えっ?まさかこの曲って
『BURAKUS`』の、二〇一六〇九二一〇四三七 『NO END SPIRIT WAR』じゃん!何よこの子!バックサウンド無しで、完璧に歌えちゃってるじゃないのよ~」
 ともみさんと暁美さん達は息を飲み佐藤の歌声に聴き入っていた。
「あぁあ、最後の所間違えてたでしょ。あそこは『君しだいで』でしょ~。ざ~ん念、惜しかったわね~。さて入るとしますか!」
 佐藤は突然大勢の訪問者に驚きを隠せずにいた。
「竜士、どういう事?」
「まあまあ、佐藤君だっけ?入る前に盗み聴きさせてもらったんだけど、あまりにも上手で皆んな聴き入っちゃったよ。相当練習したでしょう。
『BURAKUS`』の、二〇一六〇九二一〇四三七 『NO END SPIRIT WAR』なんて歌えないわよ!私達がバックやるからもう一回歌ってみてよ。ねっ、お願い!
さあ皆んなスタンバッテ・・・。ちょっと~暁美!ぼけっとしてんじゃないわよ」
 お姉さんを見ると佐藤を見たままウルウルしていた。
「どうしたのよ?暁美が泣くなんて初めて見たわよ!ただ事じゃないわね。何でも聞くから言って見なさいよ!」
お姉さんは肩を震わせながら話し始めた。皆んなはと言うと、場の空気を感じながらもスタンバイしていた。
僕はどうしても気になって聞き耳を立てた。
「実は私の両親は離婚してしまって、私はお父さん、弟はお母さんに付いて行く事になったんです。その弟が間違えなく彼、希です」
「何それ~、そんな事良一から聞いた事ないよ!」
「私の事を気遣って誰にも言ってないんだと思います。お父さんは、私に誰にも言うなとか言った事無いです。私も、何となくお父さんの気持ちを感じ取って今までの一〇年周りの皆んなに嘘を付いて来たんです。お父さんにあんな言葉遣いしてますが本当は、本当は大好きなんです!弟が四歳の時だったんですけど、一〇年ぶりの再会です」
 お姉さんは号泣してしまい、演奏どころでは無くなってしまった。佐藤にも確実に聞えていたはずが張本人の佐藤はと言うと、四歳と言う事もあってほとんど覚えてないらしくまるで他人事の様だった。
「何よ!良一も暁美も水臭いね!今の世の中じゃ離婚なんて珍しい事じゃ無いでしょうが・・・」
「いえ、私もそう思うんですが、お父さんの中で色々な葛藤があったんじゃ無いでしょうか?」
「まぁ何となく分かる様な気がするけど・・・。ハゲにはいいけど、私には言って欲しかったわよ。良一らしいって言っちゃらしいけどねぇ。でも何で佐藤君が弟だって言い切れんのよ~・・・」
「ですよね。目と目の真ん中にタバコを押し付けられた跡が有るじゃないですか、あれはお母さんが虐待して出来たやつなんです」
「いやいや、そんなのおかしいじゃんか!そんな事されたのに何でお母さんに付いて行くのよ~。いくら四歳だったからって私は理解出来ねぇよ!」
「ですよね!離婚が決まった次の日の早朝、お母さんと弟は既に居なくなってたんです。きっとお母さんが真夜中強引に連れて行ったんだと思います」
「分かったからそれ以上は言わなくていいわ。ごめんね、辛い過去の話を蒸し返す様な事して・・・」
「いいんです、このタイミングでともみさんと皆んなに言えてスッキリしました。本当にありがとうございます!」
 ともみさんとの会話が終わると、お姉さんは佐藤の所に来てもたれかかる様に崩れ落ちた。全ての会話をぬすみ聞きしていた皆んなは、その状況を目の当たりにして僕を含む全員が啜り泣きだと思った。ところが、ともみさんを見ると大きな瞳を更に大きくして涙に堪えていた。数分が過ぎた時ともみさんが一言。
「おまらシクシク泣いてんじゃねぇよ!二人を見ろよ。視線を上げると、既にお姉さんは立ち上がり佐藤と熱い抱擁を交わしていた。何とも微笑ましい光景に皆んなが拍手喝采。
「お姉ちゃんが居た事はうっすらと覚えてます。さすがに一〇年も経つと寂しさも思い出も無くなって来た所だったんです。まさか、こんな所で再会出来るなんて思いもよらなかったです。
「希・・・。別れてからもタバコの火を押し付けられる様な事は続いたの?」
すると佐藤は、おもむろに上着ではなくズボンとパンツを下ろしケツを見せた。何と真っ白のケツにはタバコの火を押し付けられた跡が無数に出来ていた。
皆んな口に手をて目を見開くばかり。ところが更に驚かされたのがお姉さんの行動。何と佐藤と同様にパンツまで脱ぎ皆んなにお尻を見せて来た。そこには佐藤よりも数多い跡が残されていて、さすがのともみさんも言葉を失った。
「それ、お母さんに?」
「離婚の原因はお母さんの虐待だったのよ.。希と離れ離れになってから一日たりとも忘れた事はないわ。その後のお母さんとの生活はどうなの?」
「実は僕が小学一年生の時に突然居なくなってしまったんですよ。僕はその後施設に保護されたんです。今も施設から学校に通ってます・・・。中学三年までしか居られないんです。今の学力じゃ高校も行けないって言われてますし・・・。この先どうなってしまうのか不安で仕方がないですよ。しかも、最近は変な夢ばかりで朝起きると汗ビッチョリなんですよ~」
「じゃあさ~!マジでプロを目指して見たら?さっきの歌声で、佐藤君ならなれるって確信したのよ~。ウザイと思うかもしれないけど、マジで良かってんだから!本当に全員聴き入ってたわ・・・」
「実は僕、佐藤の歌声は初めて聞いたんです・・・。鳥肌が立ちっぱなしでした。お前いつからこんなに上手くなったの?前にカラオケ行った時にはめちゃくちゃ音痴だったじゃんか~」
「ある人と約束したんだ。それはだけは竜士にも教えられねぇよ!」
「なんだよ佐藤!お前と俺の関係で言えない事なんて今まで無かったじゃんかよ!」
「悪いな・・・。いや!悪くなんかねぇな!約束は絶対破っちゃダメって竜士も言ってんじゃんかよ。何回聞かれても無駄だぜ。これだけはマジで言えねぇんだ」
「何よ~、この緊迫感。これから異色のセッションやるっつ~のに・・・。これ以上続く様だったらセッションは無しね!」
 なんと暁美さんが奇声を上げた。
「お前らふざけるなよ!せっかく、ともみさんが一緒にやってくれるって言ってんのによ~。こんな機会、一生に一度有るか無いか・・・。ともみさん同様に、このまま険悪な空気をやめねぇなら、お前らまとめてあの世行きだな!」
「すっ、すみません。竜士、この続きは後にしよう・・・」
「おう!」
 佐藤のあんなに鋭い目付きを見たのは初めて。お互いに相当頭にきていたのは間違え無かった。暁美さんの奇声が無かったら間違えなく佐藤と殴り合いになっていただろう。
「は~~~い終了!暁美、いつまでもしかめっ面してんじゃないよ!二人もさっさとスタンバイしな!な!いい?行くよ!ライブじゃないからって気を抜くんじゃないよ!暁美!何の曲にする?」
「あたいが選んで良いんですか?」
 ともみさんは無言でうなずいた。
「じゃあ、★★★BURAKURUZU★★★ 
third album 『精神を研ぎ澄まして 三』の⑩曲め女子バージョン★二〇一八〇五一二〇三四五なんてどうですか?」
「ほ~・・・。これまた珍しい選曲ね。良いわよ!佐藤君は女子バージョンどう?いける?『で~た~・・・。ともみさんの必殺無茶振り攻撃!イヤイヤ~、佐藤が歌える訳ないでしょ~』竜士君はどう?佐藤君大丈夫だって!」
 佐藤の方を見ると、これよとばかりに鼻の穴を全開に膨らませ自信満々の笑みを浮かべていた。いや、不敵な笑いと言った方が正解。
「すみません。僕は練習不足なので見学します・・・」
「残念ね。しょうがない!それじゃ暁美、カウントお願い」
「3、2、1~!!!」
 暁美さんの威勢の良いカウントと共に演奏が始まった。
もう一生無いであろう異色のセッション。耳をかっぽじって聴き入った。
驚いた!全身に鳥肌。何と佐藤は完璧に歌いこなし、完全に溶け込んでい
た。


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