9【ジジとババと、みなさまと私】鬼が仏になったみたい、な日
ジジが人間に近づいた日の話。
はじまり、はじまり👏👏👏
父の入院の手続きのために、いま飲んでいる薬を入院する病院まで届けに行った。
さっきまで、不安そうな顔をしていたのが少し気になっていた。
母が先に病室の扉を開けて、
「お父さん、薬持ってきたよ」
と言いながらカーテンを開けた。
そのとき、父が
「おっ、ありがとう」
と、大きな声ではっきり言った。
――今の声、誰?
思わずそう思った。
一番驚いたのは母だったと思う。
「50年以上、ありがとうなんて言われたことなかったのに、初めて言われたわ」
近くにいた看護師さんにそう言いながら、母はぽろぽろ泣き出した。看護師さんがそっと背中をさすってくれていた。
私は少し後ろに立っていたけれど、肩に乗っていた重たいものが、ふっと抜けたのを感じた。
きっと、母の肩から力が抜けたのを、私も一緒に感じたのだと思う。
よかったね、と心の中で思った。
でも少しだけ、気恥ずかしさもあった。
そういう家族だったというのを実感したから。
そして、私がいちばん驚いたのは、父の顔だった。
病室に入ったときに見た、不安そうで固かった顔が消えていた。
一気に透明感が出て、同じ人の顔とは思えなかった。
鬼が仏になったみたい、と思った。
人の顔って、こんな短時間で変わるものなんだろうか。
そのことに、私はただ驚いていた。
鬼みたいだと思っていた顔が、あんなふうにやわらぐのを見て、
私の中の何かも、すっとほどけた。
それは、降って湧いたような感覚だった。
私は、父を親としてというより、人間として、少し許せそうな気がした。
今日もジジとババと、みなさまと私の一日。
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