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ケケケのトシロー 第一部(26) 

ヤンキーのカズに絡まれ老人狩りにあったトシローはキダローという不思議な術を使う男と知り合う。彼は悪霊退治を使命にもつケケケの妖術使いだった。非力で情けなさ100%のトシローは、最初はキダローの強さに惹かれ行動を共にし彼から妖術を学ぼうとするが、キダローがカズの仲間をゴキブリに変え抹殺したことからその非情さに疑問を持つ。一方、命を助けたことでトシローを慕っていたカズが所属する反社組織権藤会に呼び出され音信不通になり、トシローは彼を追って権藤会本部へ走る。そこへはすでにキダローが潜入し、仲間である瀬戸内海小豆先生も駆けつけていた。権藤会幹部サトーが事務所から逃走しようとする所に彼らは立ちふさがるが、助けようとしていたカズはなんとサトーへ寝返ってしまった。

前回までのあらすじ

 サトーの正体 3



(本文3715文字)

「なんじゃあ? こいつら。ひょろひょろのジジィとパッツンパッツンのおばはんやないけ。こんな奴らがわしの銭、ちょろまかしたあ?」
 
 サトーと呼ばれる男は訝しげな表情でそう言う。そりゃーそうですよ。サトーさん、俺はあんたの金なんか盗ってませんで。おい、カズ。お前なんでそんな嘘を言うねん。俺はお前を助けにきたんやぞ…… と言いたいところだが、俺は思わず瀬戸内海先生のナイスボディの陰にそろーりと移動するのだった。だってさあ、サトーってさあ、ガタイはプロレスラーみたいにデカイしさあ、腕なんか俺の胴廻りよりも太くみえるしさあ、顔がまた、何とか力也さんみたいな感じで迫力あるしさあ、正直めちゃめちゃ怖いんですけどー。そんなもんビビるわ。誰かてビビるわ。ちびるの時間の問題やわ。なー? 瀬戸内海先生なー。と先生の顔を覗くと、予想外に先生は不敵な笑みを浮かべていた。

「いやーん、お兄さん。今、なんと仰ったのかしら?」
瀬戸内海先生は諸手を腰に当て、両の足は肩幅に、背筋は伸びて不敵な笑み。何を意識なさっているのかは皆さんの想像におまかせするが、俺はたぶんスーパーガールとか見つめるキャッツ〇イ♬とか、何とか戦隊ピンクとか、まあ衣装は黒だが、所謂そういう系のポーズだと思った。

「けっ、耳まで遠いんか? ババア」サトーが言う。
「はあ?」先生が言う。
「やっぱり遠いんか。ええ歳してその恰好はないで~なあ?」
 サトーや取り巻きの連中が笑う。あ、カズもワロてる。あーあ、あいつあかんわ。知らんでぇどうなっても……。

 サトーが笑いながら横にいた若い衆に目くばせをする。「道具はあかんぞ、ポリにばれる」と言ってタバコを咥えた。カズはすぐに火をつける。そういうところは素早いやつだ。だから変わり身も早いのかもしれない。
  
 若い衆二人が先生の目の前に立ちふさがる。
「さあ、こんだけ近寄ってるから聞こえるよなあー お・ば・は・ん キャハハ」
 若い衆が亀のように首を伸ばし先生にそう言って笑った直後だった。先生の姿が一瞬消えた。次の瞬間にその兄ちゃんは俺の頭上を通り越して頭から地面へ墜落する。首が変な角度に曲がって地面に這いつくばっていた。「なんじゃあ、このババァ!」もう一人の男が右フックを先生に放つ。しかし先生はその拳を頭を下げかわすとそのまま男の懐に入り、なんと勢い男を肩に担ぎあげまたしても頭から地面へ激突させた。ドゴッという鈍い音がしてその男も大の字だ。

「ほー、おばはん、やるやんけ」
サトーが紫煙を吐いてそう言い煙草を投げ捨てた。あ、こいつ戦闘モードに入るつもりや。さすがに先生でも今みたいにはいかないか。俺は野生の勘でそう思った。今までにそういう勘があったのかどうかはさておき。
 先生もそう感じたのか、今までの笑みは消えていた。腰を落とし膝を曲げ、前傾姿勢でサトーの出方を伺う。サトーの顔からも嘲笑は消え、表情のない顔に眼光の鋭さが際立っていく。なんだか辺りの闇も今までとは違う。明らかに違う空間の中にいるのがわかる。あれや、フキ時計店で見たあの生気のない闇。地獄の闇の中。

「先生、これ、ちょっとやばいやつかもしれませんよ」
 俺は先生に声掛けをする。その時、ゴソゴソもじもじしてた指先で亀甲布の端っこがほどける感覚があった。俺は、クルクルと端を持ち頭上へと腕で円を描く。亀甲布は生を受けたように自ら腹からほどけ、散髪屋トルネードの体勢に入った。ぐるんぐるん。回転させる右手の先に、見事な看板が完成していく。よし、これで開店準備完了、戦闘開始。ケープもあるでよ。さあ、かかってきなさいサトー君!。

「トシローちゃん、油断はあかんよ。こいつ、ただもんやないわ」先生が今まで聞いたことの無い緊張した声で俺にそう言った。
「大丈夫、先生。俺にはケープとこの亀甲散髪屋トルネードがある。こんなやつはこれで」
「いや、こいつ人間ちゃうよ」
「へ?」
「こいつは悪霊本体かも…… そうならウチでは敵わない」
「で、でも大丈夫でっせ。昨日大サソリもこいつで仕留めたし」

「ほう、ウチのペットをいじめたんは オマエかい」サトーが俺の言葉を遮り先生から俺へ矛先が向く。
「え? へ? サソリがペットってあなた、趣味がわるい…… いや、いいご趣味をお持ちでねぇ、ホホホ」
俺は状況分析に長けているのだ。このやりとりから考えるにサトーはどう考えても強いか、めちゃくちゃ強いか、思いっきり強いかの三択だ。

「ふ~ん、なるほどのう。そのぐるぐる散髪屋の看板みたいなのはケケケやからか~ これはおモロなりそうやの~」
サトーはそう言うと自分の右人差し指を天を差し示すようにあげた。その瞬間サトーの指先から渦巻く雲のようなものができ徐々に大きくなる。その中には小さな稲妻がバチバチと音をたて次第に大きくなっていた。そして数秒後にはその大きさが散髪屋トルネードを超え竜巻状に成長した。

 砂塵が舞いサトーのトルネードに吸い込まれていく。周りの木々も根からもっていかれそうだ。駐車場の倉庫の屋根も今にも剥がれ舞い上がりそうで、ギギギど断末魔のような音をたてる。俺達も踏ん張ってはいるが今にも飛ばされそうだ。しかしケケケってあいつ言うたな。俺はサトーがたんなるヤーさんの偉い人でないことに気付く。ちょっと遅いけど。
ケケケの妖術を知っているということはこいつは先生が言う通り人間と違う。

「ケケケの一味ならちょうどええわ。お前ら二人、ここで終わりや」
 サトーはゆっくりと頭上に挙げた右手を下し俺達へ照準を合わすように構える。おぞましそうな黒いものが奴の指先で螺旋を描く、ぐるんぐるんと。
俺らはトンボとちゃうぞ。俺も亀甲トルネードの切っ先を下し、「柳の構え」に身構えた。どや、ちょっとかっこええやろ。え、どんな構えやて? それは各自ググってくれ。今は説明してる余裕はない。忙しいねん!

「秘技! 亀甲切り!」俺はその時思いついた技名を叫び、奴の指先のぐるぐるにぐるぐるの亀甲で横一文字に切り込む。奴のぐるぐるの中の稲妻と、俺のぐるぐるの亀甲の切っ先が激しく音をたて交わった! バチバチッと火花があがり、俺の亀甲を持つ手に衝撃がくる。確かに大サソリとは数段違う闇の魔力だ。あー描写がめんどくさい。

 サトーの双眸の眼光が一層妖しく青白く光る。口角をわずかに上げ奴は呟く。
「消えろ」
 その瞬間俺達は吹き飛ばされた。入ってきたゲートの壁に俺は叩きつけられた。ケープが無ければ完全にぺちゃんこだったろう。それでも全身の骨が軋むようだ。先生、先生は大丈夫か? 同じように飛ばされた先生の姿を探す。
 
 え? ええええええええ! 壁にアニメでよくある人型にどかーんと叩きつけられ、めり込んだ俺が隣を見ると、なんとキダローが壁寸前で瀬戸内海先生をしっかりとお姫様抱っこをして空中浮遊しているじゃあーりませんか。しかも先生はちょっと嬉しそうにキダローの首に手を回してしがみついちゃったりなんかしちゃったりしてー。キダローはケープをはためかせそのままの状態で俺に訊いた。「大丈夫か?」大丈夫なわけないやろ……。

 キダローはすっと着地すると、丁寧に先生を降ろした。先生はまだ引っ付いていたいような素振り。こいつらデキとんな…… くそ、羨ましい……。

「ほう、もう一匹おったんかい。お前がそいつらの親玉か~?」
サトーはキダローが突如現れた事に臆することもなく言い放つ。
「ああ。いや、親玉とは違うけどな…… 俺はそう簡単にはいかんぞ」
キダローは纏っていたケープの内から錫杖を取りだしシャリーンっと一度鳴らした。
「オンサンマヤ…… オンサンマヤ…… ふん!」
 
 キダローが唱え、錫杖を一振りする。すると錫杖の柄の部分から赤い光線が伸び刀のようになる。うわー、スターなんとかのライトサーベルのパクリやあ~。と思わず叫びそうになる俺は、なんとかめり込んだ壁から抜け出し散髪屋トルネードを再びぐるんぐるんして正面に構えた。

「けっ、お前はそれなりにできそうやの…… 何者んなにもんじゃお前は」

「俺か、俺はお前を知ってるもんや、網乾左母二郎あぼしさもじろうの悪霊よ」
 サトーの眼光が一層光を増した。なんか聞いたことのある名前やな? 俺は小首を傾げる。
「てめえ、その名を知るということは……」

「そうや。俺は、ケケケのキダロー。本名を犬山キダロー。犬山道節いぬやまどうせつの子孫であり、お前とは因縁の者や」
キダローは錫杖サーベルをブンとひと払いした。なんやねんこのオッサン、ケケケ、ケケケ言うとる変態ジジィとちゃうかったんかいな。ん? これもどっかで聞いたことのある? 名前? ん?。

「お前だけは…… 必ず地獄に道連れじゃ」

 サトーは右手だけでなく諸手をあげ天を指す。そこに轟音と共に稲光が集まる。サトーは稲妻の二刀流としてキダローへ正対した。
傍で見ている俺にはとんでもない緊張感が伝わる。そして妖気と殺気。俺にもわかる。皆さんに伝わらんのは筆力の無さ。まだ修行中や、許せ。
「くたばれ!!」 
 サトーは俺達に闇のぐるんぐるん二刀流を叩き込んできた。



続く


注 あくまでもこの作品はフィクションです。


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