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ケケケのトシロー 第一部(23) 

キダローと協力し、なんとか悪霊が化身した大サソリを退治したトシローだったが、犠牲となったフキさんを地縛させて再び橋の門番とさせるというキダローに怒りをみせる。がれきから変わり果てたフキさんを見つけたトシローは自分の無力さに涙するのだった。

前回のあらすじ

 不帰橋攻防戦 6


(本文2969文字)

「それで、ここのフキさんとはどういう関係?」
 警察官は何だか臭いなと言う表情を露骨に表しながら俺に訊いた。あ、臭いというのは俺が犯人と言う意味での臭さではない。例の、ほら、粗相をしてしまって、言わすなよ。

「私が直接知り合いなわけじゃないです。会ったのも二回くらいですし。知り合いにここへ連れてきてもらったんですわ」
「ほう? 知り合いねぇ~。どこの人? そのお知り合いは。名前教えて」
「キダロー言うんですわ」
「え、きたろー?」
「いや、タじゃなくてダね」
「え、キダ・タロー? あの浪速のモーツァルトの?」
「いや、違います(なんかこのボケ多いな)キダロー」
「何キダロー? 苗字みょうじは?」
「苗字? えー、そう言えば名のキダローしか知らんねぇ」
「あ、そう。その人はどこにおられるの?」
「住んでるとこですか?」
「そう。住所」
「ああ、橋渡って川の護岸の道を駅前までずーっといったら神社がありますやろ、左手に、そうそう、普段は神主さんのおらん。そう。そこの社務所によくおられます。家は知りまへんなあ」
「そうですか。ちょっとオオツカさんねぇ。もうちょっと詳しい事聞きたいんで、署のほうへ来てもらえますか」
警官は何やら無線でぼそぼそと喋っては、俺にそう言った。

「え、なんで? 私はそれ以上、なんも喋ることないですよ」
俺は股間が痒いのを我慢しながら、早く家に帰りたいのもあってそう訴えた。
「いやそう言ってもね、これ、ほれ、家が一軒バラバラで、住人が一人亡くなっててね、そこに不審…… お知り合いとかいう方がおられたらね、そりゃ話聞かんとね。何があったかとかね」
 
 俺は両手の親指と人差し指で股間に密着するズボンとパンツをなんとか離そうと引っ張りながら聞いてたが、不審と言うキーワードを聞き逃さなかった。
「あ、あんた、今、私のこと不審者言いましたね。不審? どこが不審者なんです? ちゃんと免許証も見せたし、聞かれたことにちゃんと答えてるし。第一、知り合いがこんな目に負うてやで、悲しい、悲しい言うてるのにやで、あんた、不審って!」
 俺は珍しく興奮してしまい目の前の警官を指をさしながら詰め寄った。今までの俺なら警察官にこんな口の利き方はまずしない。それほど腹がたったのだろうか。警官は当然のように微かに匂う指を避けながら後ずさりする。露骨に嫌な顔をしたな、こいつめ。

「いや、まあ、オオツカさん。これは失礼。本官の言い間違いでした。決してあなたをそのようなことでご同行いただこうとは思ってません……」
 警官は平身低頭で俺を落ち着かせようとする。周りの警官が寄ってきて俺をぐるりと取り囲み「まあまあ、ご主人」「まあ一回落ち着きましょ」
とあれこれ言ってくる。だが皆、なんか匂うなと言う顔をしている。

「とにかく、俺は行きませんよ。そんなことよりフキさんはどうなりますの?」
「今から検死解剖ですね。そのあとご家族なり縁者の方を探して、連絡をとって引き取って頂く形になりますかな。事件性が無ければの話ですけど。だからご主人の話もお聞きしたいんですわ。早くこの方にもゆっくり眠っていただかんとね」
 俺はその言葉で警察への同行を了解した。フキさんをちゃんとしてあげんとあかんと思った。なにが地縛霊じゃ、キダローのバカたれが。

 なぜか自分で電話するのはやめてくれと言われたので、あとで怒られるのは承知で真由美に警察から連絡をしてもらう。とはいえ、もう夜も遅く真由美も心配しているに違いない。ところが警官が電話すると「なんなら泊めてもらってもいいですよ」と仰ってますと苦笑いで伝言される。
「ああ、着替えはあとで持っていきますとも言っておられましたよ」
追加の伝言。早く着替えたいので助かるが、これ、この漏らしたやつ。洗濯する前に絶対バレるよな。その方が怖い。さっきのサソリより怖い。え、なんで着替え? さてはあの警官、俺が何だか匂うと告げ口しやがったな。

 それから二時間くらい警察で事情聴取を受けた。家がつぶれた原因について尋ねられたが、そこは知らない、わからないで押し通す。大サソリが壊したなんて言っても誰も信じないし、目撃者でもあるゾンビ町民は今は「ここはどこ? 私は誰?」状態やし。つまり証人はいない。俺もフキ時計店に着いた時にはすでに潰れていたということにした。

 警察の現場検証は続いていたが、これ以上俺から信憑性の高い重要な情報は取れないと判断したのか、やっと俺に家に帰っていいと言ってきた。俺は取り調べ室を後にする。振り返ると、警官の一人が消臭材を俺が座っていたパイプ椅子に吹きかけ、ごしごしと雑巾で拭いている。少しは申し訳ないなと思いながらも、解放される喜びで幾分か心は軽かった。

「フキさんはどうしてます?」
取り調べ担当の警官に訊ねる。
「今、司法解剖の手続き中ですわ。身寄りの方がわからんので、警察と裁判所の許可だけで行いますけど」と表情を変えずにその警官は答える。
「そうですか。私が言うのも変ですけど、宜しくお願いします」と俺は頭を下げた。
あのサソリが突き刺した痕とか、毒みたいなものがフキさんから見つかったらどうなるんやろ? 俺は心配もしたけれど、どうなるものでもない。とにかく今日は家に帰ろう。

 警察の入り口のところで、見送ってくれた警官に挨拶を終えて出ようとすると、真由美の姿が外に見えた。待っていてくれたんかな。なんだかとても心強く思える。
「あー、ごめんなあ。今、終わりました」
「お疲れさん。なんか着替え。持ってきてと言われたから持ってきたんやけど川にでも落ちたんかいな」真由美はいたって普通のトーンで少し口角を持ち上げ気味に聞いてきた。

「いや、そういう訳ではないんやけどな、まあ、家に帰ってから話すわ。あ、申し訳ないけど、ついでにこれも洗って欲しいねんけど」
俺はフキさんのところで拾った棒切れに巻き付けた亀甲の反物を見せる。
「自分でして」「はい」
そりゃそうやわな。自分でしよ。しかし、話すと言ってもどこまで話していいものかと思案している俺を、真由美は無表情に覗き込む。
「そんなことより、あの子、どうなったん?」
「え? あの子って?」
「カズ君。あんた、会いに行ったんと違うの?」

 あ、忘れとった……

 俺は慌ててスマホの着信とメールを見る。カズからの返信はなかった。嫌な冷たい汗が流れる。それは真由美に睨まれているからではない。カズの行方がいまだ掴めないからだった。フキさんがこうなってしまっては、探しようがない。いや、一つだけある。それは相手方に乗り込むことだ。キダローは…… いや、あいつにはもう頼らん。相手がヤクザでもこの亀甲があればなんとかなる。このまま事務所へ…… いや、風呂入って着替えてからにしよ。洗濯機も回さんとあかんし。

「何ブツブツ言うてんの? とりあえず帰るの? 帰れへんの?」
「帰ります」
 俺は真由美のあとについて、家路についた。
道中、真由美が唐突に訊ねる。
「あんた、なんか、いつもとちゃうなあ」
「え? そうか、別になんもないけどなあ ケケケ」
「なんやのその気色悪い笑い方」
「えっ?」
「あんた、警察出てくるときもえらい険しい顔しとったし。あんたのあんな顔、今まで見たことない」

亀甲を持つ右手がなんだか疼いている。
いつもと違う? 


続く


注 あくまでもこの作品はフィクションです。


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