ダミー玄関|ショートショート
家事がひと段落して、茶でも淹れようと思っていた頃、来客を告げるチャイムが鳴った。
ドアホンには、黒いスーツ姿の男が映っている。
「はい」
「幹帝商事の者です。素敵な商品のご案内に参りました」
小さくため息をついた。休憩の邪魔をされた上に、訪問販売か。
「お引き取りください。うちは何も必要ありません」
「まあそう言わずに」
「帰ってください。あなた方のような訪問販売には、うんざりなんです」
はっきり言ったつもりなのに、ドアホン越しの男の目が輝くのがわかった。
「……そういうあなたのための、商品ですよ。ぜひ、お話だけでも」
「……ダミー玄関?」
結局ドアを開けてしまった。
にこやかな表情をした男から分厚いパンフレットを手渡される。
「そう、訪問販売に悩まされていると仰せでしたね」
「ええ、あなたのようなね」
皮肉を言うと、男はニヤリとした。
「このダミー玄関を使えば、二度と訪問販売に悩むことはありません、私のような、ね」
「なんなんですか、ダミー玄関というのは?」
「本物そっくりの玄関です。来客があった時、『本物の玄関』に通すか『ダミー玄関』に通すか、ドアホンから選べます。怪しい者はダミー玄関、来客は本物の玄関に通せばいいだけです」
「なるほど……」
今までずっと訪問販売に悩まされてきた。水素水の出るウォーターサーバーや、悪霊を祓う壺、マイナス10歳若返る美顔器、など上手く口車に乗せられて、結局買った。家計は火の車となり、金運の上がる黄色い財布を訪問販売で、また買った。
こんな思いはしたくない。
「ダミー玄関、買います」
玄関先で契約手続きを終え、男が去ろうとしていた。
その背中に声をかける。
「あの……ダミー玄関に入ってしまった人は、どうなるんですか?」
男は振り返ったが、表情を崩さなかった。
「さあ……?私にもわかりません」
ドアがバダンと閉じられた。
男は胸を撫で下ろた。引きつった表情筋をとかすように緩める。
やっと1件、成約した。
しかし、今月のノルマには程遠い。
自分の契約数を表す、背の低い棒グラフを思った。
今日はあと19件は契約しないと、会社に戻れない。
戻りたくもない。
ずっと、戻っていないような気もする。
俺は今までどこにいたんだ?
頭をかすめた疑問を振り払った。
まあいい。次だ次。まずは隣から……
同じようなドアが等間隔に続いている。
この階は、一体……何部屋あるのだろう。
目を細めても、向こう側は全く見えなかった。
(了)
読んでいただきありがとうございます。
本田すのうさんの「マスクドnote 第二弾」のテーマ「玄関」から発想して、私ならどう書くかな?と1,000文字でショートショートを書いてみました。
私はマスクドnote第一弾の「おにぎり」の覆面作家で、「玄関」は観覧側&予想側でした(今絶賛感想執筆中です!)
観覧側の私が「玄関」テーマで書くのは企画とは別の取り組みになるかと思いまして、「 #何の企画でも賞でもない小説を普段から書けるようにしておきたい 」の8作目とします。安易に設定したタグ名が私を惑わせています。
仮に「玄関」の覆面作家だったとしても、このショートショートだとかなり簡単に私とわかるのでは?どうでしょ?
決め手は「幹帝商事」です。幹帝商事は別のショートショートにも出てくるんです。由来は「ミキティと庄司」ご夫妻からお借りしてます。
私の書くものは「仕事」や「営業」がテーマになってることが多いので、もうバレバレかと思います。改めて、「玄関」作家さんの凄さを知りました。
そして、ホラーにしたくなる気持ちも、ちょっとわかりました(笑)
今回は疑惑のタグ、「 #何の企画でも賞でもない小説を普段から書けるようにしておきたい 」ですが、今までの小説も貼っておきます。分量は色々なのでご興味に合わせてぜひ読んでみてください🎵
◾️1作目
◾️2作目
◾️3作目
◾️4作目
◾️5作目(その後、藍空杯のお題に近かったので駆け込み応募)
◾️6作目
◾️7作目
改めてまして、いつも読んでいただきありがとうございます✨
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引き続きよろしくお願いします。
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3歳児を育てつつ、スキマ時間に創作を続けています。
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