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第十一話 ひとりで きめた ねだん

📘 はじめて読む方へ

このお話は、子どもが働く体験のできる
こどものくにを舞台にした物語です。
※前のお話のつづきになります。

前回のお話はこちら👇
(民法) 👉 第十話 同じだと思っていたのに
今回のお話と、直接つながる回のお話はこちら👇
(会社法)👉 第九話 きょうだけ社長さん

📚 こどものくにシリーズ一覧はこちら
👉🏰こどものくに(やさしい法律教室シリーズ内)

おとといのお仕事では、
はるきが はじめて
社長さん(代表取締役)になって、
ガチャガチャの中身を
「空が歩けるくつ」に決めました。

お仕事は2日に1回くらい。
きょうは、そのつづきのお仕事の日です。

「かたん」

ポストから音がして、はるきは そとに出ました。
きょうも手紙が入っています。


〈きょうの おしごと〉

もう一ど、
代表取締役(だいひょうとりしまりやく)になって
“空を歩けるくつ” の ねだんを
きめてください。


また、社長さんになるの?

はるきは、つぶやきました。

外に出てみると、やっぱり前とおなじ、
とくべつな車が まっています。

はるきが乗りこむと、
車は 何も言わずに走りだしました。

* * *

着いたところは――
前とは、全然ちがう小さな建物。

中に入ってみても
なんだかようすがちがいます。

とびらの前には、前みたいな
「社長室」という札はなく、

『〇×株式会社 ― 空を歩けるくつ、作ります』

と書かれた かんばん。

「……前と同じ社長さんなのに、
部屋がちがうなぁ

ここは、
空を歩けるくつを作る
会社なのかな?」

ドアをあけてみると、
そこには、ふつうの机といすが一つずつ。
立派なソファも、ふかふかのいすも、ありません。

ちいさいけれど、
きちんと整えられた部屋でした。

はるきが首をかしげていると、
ポケットのパスポートが 光りました。


あなたは きょう、
この会社の
代表取締役(だいひょうとりしまりやく)です。

この会社は、
空を歩けるくつ を作っています。
そして、それを
ガチャガチャの会社へ
売ることになりました。

この会社には、
取締役(とりしまりやく)は
あなた ひとりしか いません。

空を歩けるくつ のねだんを決めて、
机の上にある電話で、
ガチャガチャの会社へ
つたえてください。


「……ひとりしか取締役がいなくても、
代表取締役って、なれるんだ
なんだか、ふしぎ…」

前は、みんなで話しあって決めたのに。
ここには、ぼくしかいないんだ。

はるきは、
しん、とした部屋を見まわして、
小さくつぶやきました。

この前は会社のことは、
「取締役みんなで話しあう」
って言っていたのに――
取締役が ひとりの会社ってあるんだな。

はるきは、机にすわって、
くつのねだんを考えはじめました。

そのとき、机のすみに、
小さなメモがあるのに気づきました。

〈このくつを作るには
コイン6まい かかります〉


「……6まい?」
はるきは、小さな声でつぶやきました。

「作るだけで、6まい いるんだ」

「もしも、6まいで売ったら……
会社にのこるのは、0まい」

「5まいだったら……
1まい たりなくなっちゃう」

6まいより すくなくしたら、
会社のお金が へっちゃうのかな。

そうしたら、
つぎのくつが 作れなくなるかもしれない。

だれかに相談したくなりました。
でも、この前みたいに、
大人の動物たちは あらわれません。

しんと静かな部屋。
聞こえるのは、はるきの息だけ。

この会社には、
取締役は ぼく ひとりだけなんだ。

「……ちゃんと考えないと」

6まいより 下には できない。

でも――
「あんまり高いと、
買ってくれないかな」

頭の中に、コインがならびます。

7まい。
8まい。
9まい。
10まい。

はるきは、深く息をすいました。

「よし……10まいにしよう」

空を歩けるくつは、とくべつだし、
10まいなら、きっと、ちょうどいいよね。

机のうえの電話。
ボタンは一つだけ。

「これを押すのかな……」

えいっ、と押すと、声が聞こえました。

『はい、ガチャガチャの会社です。』

はるきは、どきどきしながら言いました。

「あ、あの……コイン10まいで、お願いします……!」

すこしの間。

『なるほど、10まいですか。
ですが、こちらもいろいろとかかるので……
8まいが助かります。
いかがでしょうか?』

はるきは、胸がぎゅっとしました。
でも、そのまま 言いなりになってしまうのも
なんだか ちがう気がします。

「じゃあ……
コイン9まいに、してください!」

はるきは、とてもこわかったけれど、
しっかりと大きな声で、言いました。
言ったあと、まだ胸のドキドキ止まりません。

『わかりました。
では、9まいに しましょう。』

それだけ言うと、ぷつん、と電話は 切れました。

はるきは、ほっとして、
少し涙がでそうになりました。

でも、自分でちゃんと
がんばれた気がして
少しだけ、うれしくなりました。

はるきは、いすにすわって、
しばらく、ぼぉっとしてから
帰りました。

* * *

帰り道。
気がつくと、やっぱり、いつもの車になっています。

ポケットの中で、なにかが こつん。
――コインが、1まい 入っていました。

(あ……きょうの おしごとの ぶんだ)

はるきは、そっと つぶやきました。

パスポートが そっと光ります。


会社は、取締役(とりしまりやく)が
ひとりでも 作れます。
そのときは、その人が
代表取締役(しゃちょう)になります。

ほかの取締役が いないので、
会社の だいじなことは、
その人が ひとりで 決めなければなりません。


はるきは、ぽつりと言いました。

「……そっか
取締役がひとりでも、会社って 作れるんだ
でも、すこし心ぼそかったな……」

風が、はるきのほおを やさしくなでました。

また、すこし。
この世界のことを、しった気がしました。


🏰前のお話はこちら👇
👉第十話 同じだと思っていたのに

🏰次のお話はこちら👇
👉第十二話 はじめての ちいさな株主総会

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プロフィール

🌿司法書士ママ|みか
平成19年司法書士試験合格。
売買・相続などの不動産登記や会社・法人登記に15年以上たずさわっています。
家族の物語とともに、法律を“絵本のようにやさしく”お届けしていきます🍃


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