都蘭山居手帖:「嵐の洗礼:漆黒の闇で、私は『台風』を抱きしめた」
電灯が明滅を繰り返し、やがてぷつりと途絶えた。部屋は完全な闇に飲み込まれる。手探りで外へ出ると、庭には狂ったような強風と細かい雨が吹き荒れていた。全身の熱っぽさが限界に達し、私は衝動的に衣服を剥ぎ取った。台風の雨に晒されたかったのだ。胸に溜まった鬱屈を、そしてこの嵐が孕む禍々しい熱気を、ただ洗い流したかった。
肌を叩く雨脚は、鈍い針の束のように容赦なく身体を突き刺す。だが、その痛みの奥に、死んだ細胞が覚醒するような鋭い興奮が混ざっていた。額を伝い、胸を流れる雨水は、人生の執着という澱(おり)をこそぎ落としていく。私はすべてを無に帰し、闇の中で天を仰いだ。両手を大きく広げ、暴れ狂う風雨の奔流を全身で抱きしめる。
それは禅師の棒喝にも似ていた。私は闇に包まれた空に向かって、喉の底から獣のような叫びを放つ。痛みが感覚を麻痺させ、風は私の体を押し倒さんと唸りを上げる。抗うのではなく、逆風の中に身体を預け、風に身を支えさせるのだ。この、台風の懐に飛び込むような遊戯を、かつて誰が試したことがあろうか。
台所へ戻ってはスコッチ・ウイスキーを煽り、再び嵐の只中へ躍り出る。そんな私の姿を、飼い犬は呆然と見つめていた。だが、暗闇と風雨の狭間に立っていると、まるで別人のようなもう一人の私が、この万物の微妙な揺らぎを、冷徹なまでに静かに凝視しているのを感じる。
嵐と戯れ、疲労の果てに身体を拭いてベッドに潜り込む。外では風が咆哮し、雨は屋根を叩き壊さんばかりの勢いで打ちつけていた。窓枠がガタガタと悲鳴を上げている。夕方から眠りこけていたせいで目が冴えてしまったが、横たわったまま、ただ闇の中で耳を澄ますことにした。
突如、トタンが鋭い音を立てて空へ弾け飛び、遠くの闇へと消えていく。続いて、ドスンという鈍く重い衝撃音。私の聴覚は研ぎ澄まされ、壁の向こうの闇さえも見通すかのように、音の震源地を探り当てる。闇に同化して、屋根の彼方まで感覚を伸ばしているかのようだった。
もちろん、ドン・キホーテのような無鉄砲な真似はしない。外は漆黒の闇だ。一歩踏み出せば、飛散した瓦礫に足を取られるか、枝の直撃を食らうのが関の山だろう。
嵐の中に寝そべりながら、私は冷徹に思考を巡らせる。本当の勇気とは、盲目的な情熱ではなく、理知に基づくものだ。今、この闇の中でできることは何もない。垣根の崩落、倒木、屋根から吹き込む泥水――。ありとあらゆる最悪の事態を脳内でシミュレーションし、そのすべてを「夜明け後の仕事」として棚上げする。そもそも、この古い農舎と格闘するのは今日が初めてではない。一度や二度、被害が増えたところでどうということはない。
あらゆる可能性を洗い出し、覚悟を決めた時、私の意識はすっと凪いだ。寝返りを打ち、嵐の轟音を子守唄にして、私は深い眠りに落ちていった。
翌朝六時、窓の外は鉛色の帳に包まれていた。屋根を叩く雨音は、万の馬が蹄を鳴らして駆けるような轟音へと変貌を遂げている。外へ出る術もなく、私は再び毛布にくるまった。だが、耳を澄ませば、背後の斜面から岩が礫を跳ね上げ、地層を削る不穏な音が響く。裏山が土砂を吐き出しているのだ。
八時、海端での取材予定を断り、私はダイビング用のウェットスーツに長靴という完全武装で、嵐の只中へと飛び出した。庭は、一晩の暴風がもたらした惨状そのものだった。散乱する折れた枝葉。太ももほどの太さがあったオリーブの木は無残にへし折られ、苦心して編み上げた竹垣もことごとくなぎ倒されていた。裏山から流れ込んだ雨水が庭を飲み込み、そこは一面、黄色く濁った泥濘へと変貌していた。
